2.水字貝


まぁ、ゆっくりしていきなさい。

えぇ?いいのいーの、んまぁんまぁ座ってすわって。

んで?なんだっけ?岬の民宿だっけか。

あそこはねー、結構古いよの。

この店の前の主人がね、この辺の人なんだけど。

その人が子供の頃にはもうあったって。

ここに店出すときには相当なお年だったし、

うちもー、そう、もう…30年くらいになるからさ。

うーん、そうだね、まーこのあたりなにもないでしょ。

だから物好きな釣り人くらいかなぁ、あんなとこ泊まるの。

それでもやってるんだからすごいよねぇ。

でね、さっきのあれだけど。

そうなのよ、実はね。

いやいや出るっていうのじゃないんだけどねぇ?


あの宿はね、海の中に沈むのよ。

うふふふ、ホントに沈むわけじゃあないのよ。

だいたい聞く話はね、

あの宿に泊まって、いつまでも眠らずいたりとか、

ま、なんかの拍子に部屋が急に海水で一杯になるんですって。

もちろん夢かなにかなんでしょうけど、

みんなそろって同じなんだからちょっとヘンよねぇ?

でもおぼれて苦しいとかじゃなくて、

懐かしい人にあったり、失くしたものの場所がなんとなく

わかったりするんだぁ、って聞いたのよ。



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上手から“定食屋の主人”が中央へむかいます。

やや太った女性が演じます。


台詞が終わると、上手へ下がります。


舞台の明かりが消えます。


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