1.普賢岬の怪異


時化



割れた陶磁、雲丹の殻。


さびしい岩肌、汚れた海草と。


テトラポットへ船虫がざあと逃げる。


砂にすがりつく藻屑、


半分に割れて死んだ蟹。


曇った空の残り香。



ああ、思い出せそうな気がする。



とぼとぼ、もっと向こうまで歩く。


あれは海鳥だろうか。


もうすぐ日が落ちる。


空が、あおくなって、くろくなって、夜になるのだろう。


生臭い磯と、海の境がなくなる。


次は忘れないように、書き留めておくことにする。



迎えが来る、大勢で来る。


静かなところへ行こうという。



波音が止む。



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舞台にはあらかじめ車椅子が置かれています。


下手から可能な限り大勢の“普賢岬の怪異”が中央へ向かいます。

“普賢岬の怪異”は大きな貝殻で顔を隠した背広姿の男です。


中央につくと、執拗に車椅子を撫で回します。


台詞が終わると、車椅子を集団で隠すようにして下手へ下がります。


舞台の明かりが消えます。



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