緞帳 -普賢岬の怪異-
順番
0.梗概
ともかづき
わたくしの仕業でございます。
確かに、この私が、小谷を殺しました。
二人で海の見える宿へ行こう、と。
わたくしもこのようなありさまですから、
もう最期の旅になるかもしれないと思ったのです。
ずっと、あの人はこんなわたくしを支えてくれました。
いえ、辛かったのではありません。
忘れてしまったのです。
あの時、わたくしはあの人が誰だか解らなくなったのです。
信じていただけないでしょうが、本当なのです。
それで、あの部屋で話をしました。
どこの誰ともわからぬ群青のかげと。
得たいの知れぬものと話すなど、奇妙に思われるでしょうが、
なぜかあの時、とても気が安らいだのです。
それで、わたくしはそのかげが、かわいそうになったのです。
いいえ、ちがいます。
うそではありません。
いいえ、いいえ。
…私が、わたくしの姿と全く同じなにかが、
海の底に居たのです。
私ではありません。まったく同じ姿をした、わたしが。
それに小さな貝を手渡されました。
体がしっかり動きましたから、
哀れなかげの耳元にあてて遣りました。
かげの命を奪ったのは、あの貝の毒でしょう。
ですから、小谷を殺したのは、間違いなくわたくしでございます。
償いを致したく存じます。
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誰もいない舞台があります。
上手から“遠田明”が乗った車椅子を“小谷豪”が押して、
中央へ向かいます。
台詞が終わると、“遠田明”と同じ格好をした人物が下手から
中央へ向かいます。
二人の“遠田明”が入れ替わります。
そしてそのまま上手へさがります。
舞台の明かりが消えます。
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