ナンパ通り

~放課後~

「待ってたよぉ。き・よ・みちゃん!」

美月が嫌みったらしく鼻声でささやいた。

「へーえ、待ち伏せしてたんだ。でも私、行く気ないから。」

「そっか。じゃあ無理やりでも連れてかなきゃねっ!」

それが合図とばかりに琴音と杏実が私に近づいてきた。

「そーだ!清海が好きな諒君、今日私に告ってきたよ~。付き合ってって。」

「えっ…?諒君が?」

「だから清海が諒君のこと好きだよ、って言ったら超メーワク、って言ってたよぉ。」

「何それっ!?あんた何言ってんの?自分のしたことわかってる?ってか嘘か。」

「やだぁ。嘘なわけないでしょー。まあ、どっちにしても自分のしたことわかってるに決まってんじゃん。だからいいよって言ったら早速キスしてきたよ?」

「そんなっ…!」

呆然としている私にチャンスとばかりに琴音と杏実が両側から私を羽交い絞めにした。

「連れてって。」

「うん、わかった。」琴音と杏実が同時に頷いた。


★                ★                   ★

ナンパ通りは薄汚いどころかネオンでキラキラ光っていた。屋台やお店も数多くあった。しかし人はほとんど通らない。店もほとんどがラブホテル、ホストクラブ、キャバクラやバーなど大人向けの店だった。道端に集まっているのはピアスを5個ぐらい耳につけた男や、たばこを吸っている男、ギャルややくざといった危ない人たちばかりだった。あまりの光景に私は一歩後ずさる。

ドン…!

美月が私を押した。突然のことで、抵抗できるはずがない。私は押されるがままに道端に躍り出た。振り返るともう美月たちがニヤニヤしている。美月の口が動いた。

‐た・の・し・ん・で・ね

怒りがこみあげてきて、感情のままに美月のほうに足を1歩踏み出した。すると誰かに手首を掴まれた。

「ねえねえ、そこのお嬢ちゃん。君何年生?」

ハッと振り向くとピアスを耳につけた男が立っていた。髪を赤に染め、ガムをくちゃと噛んでいた。でも顔はとても整っていておとなしい雰囲気を醸し出している。髪の色が黒でピアスがなかったら決して危ない人だとは思わなかっただろう。それほどの美青年だった。しかしその目は欲望でギラギラしていた。

「関係ないじゃないですか!放してください!」

私は強く言い放った。でも内心では震えがとまらなかった。

「見た目からして高3かな?」

またハッとして腕を掴んでいる男の隣に顔を向けた。そこにはもう1人男が立っていた。こちらもまたカッコいい。ただ美青年の男と違い、ジャニーズ系の顔立ちで元気いっぱい!という雰囲気だ。

「し、知りませんっ!」

私は図星をつかれて焦った。すると、

「あのぉー、ちょっといいですかぁ?」

この場に不釣り合いな甘ったるい声が聞こえてきた。私は声の主を振り返って睨み付けた。杏実だ。美月が杏実をよこした理由はただ1つ。杏実はかわいくない。スタイルも魅力的ではない。4人の中では一番ナンパされにくいからだ。反対に私は美月の次に顔が整っている。目が大きいところが私の自分の好きなところ。スタイルは美月と互角だ。胸の大きさなら私の勝ちだし。

「へえ。お友達?」

ジャニーズ系の男が私に聞いた。

「違います。」

私は即座に否定した。でも杏実は無視した。

「あのぉ、実はクラスメートなんですー。私達、すっごく仲良くて。でー、この子エッチなことするの大好きみたいなんでここを紹介してあげたんです。いくらでヤりたいですかぁ?」

杏実がニッコリと微笑んだ。

「ふーん。いくら出してほしい?」

またジャニーズ系の男が聞いた。

「えー、じゃあ、好きなだけ遊んでいいんで8万ください。」

「高いな。」

こんどはピアスの男の方が言った。そして私の頭からつま先までじっくり見てから付け加えた。

「でもヤる価値はありそうだな。よし。交渉成立だ。」

そう言ってピアスの男はポケットから財布を取り出し8万を杏実に渡した。

「ありがとぉございますー。思う存分遊んでくださいー。ついでにいうと、この子、いじめられて興奮するタイプですよぉ。じゃ、失礼しましたぁ。」

そういうとそそくさと美月たちの方に戻って行った。もちろんそこにもう美月たちはいなかったが。

「さぁて、じゃ俺のホテルにこいよ。すっげーいい部屋があるんだ。あ、俺は悠太ゆうた。たっぷり遊ぼうぜ。」

ピアスの男が言った。

「僕はれん。よろしくねー。ついでに言うと2人とも大学1年さ。」

ジャニーズ系の男が言った。

「あの、や、やめてください。私に触らないで…。」

私は必死に懇願した。今からあることを考えたら当たり前だ。

「だめだよ。僕たちは君のために大金はたいたんだ。無理やりにでも来てもらうよ。」

ちょっと厳しい声で蓮が言った。私の逃げたいという気持ちは怖さに勝った。

「やめてください!放して!警察に通報するわよ!」

私は暴れだした。

「眠らせたほうがよさそうだな。」

悠太がポケットからハンカチと薬を取り出した。

「ヒッ…。」

私は逃げ出そうとした。でもいつのまにか手をうしろにされて手錠をかけられていた。連に肩をがっしりと掴まれて動けそうもなかった。そのあいだに悠太がハンカチを私の鼻にあてた。キツイ匂いが鼻をつく。眠たくなってきた。そして私の膝から力が抜けると同時に、意識がなくなった…。

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