試験開始!(協力し合うべし!)

ルールは本当に簡単だった。まずスタート地点は、6年間汗を流して訓練に励んだこのジム。いかにもな場所だ。このジムには、1番武器があるんだと。つまり、1番争いが激しくなるところで、1番生徒が死ぬ場所だ。誰かと組むのももちろんあり。でもそんなことするの、私とニイナぐらい。だって今から死ぬかもしれない、殺してしまうかもしれない人となんて組めるわけない。所詮は赤の他人なんだから。大体、空いている席はたったの4席だというのに、ペアになって自分だけが死んでもう1人が生き残って卒業すれば、後味が悪すぎる。最後の別れや作戦なんかを組むために、5分間の猶予が与えられた。もちろん作戦を自分以外の人間と話し合っているものなど、私とニイナ以外にはいなかった。

「んであとは生き残るだけってことか。いいね。それでいこう。」

「うん。単純な作戦ほど強いっていうしね。」

猶予ゆうよ時間終了1分前に私とニイナは大体の流れを練り終わった。今の作戦は頭脳派ならではの賢さでニイナが考え出したもの。妹ながら頭の良さに感動を覚えてしまった私は、姉バカなのだろうか。違うよね。うん。違う違う。周りを見れば、ほとんどの女子は号泣している。ルームメイトや親友。ったく、こいつらほんっと暇だよね。てかそんなに泣くんだったら、一緒に行動すればいいのに、そこは絶対しないんだよね。意味わかんないわ。男子の方を見れば、全員熱心に作戦を練っていた。ブツブツ呟いてるのもいれば、目を閉じて微動だにしないやつもいる。さすがに肝が据わっているというか、勝つ気なんだろうなぁって思う。

「終了!男子、女子、配置につけ!」

号令とともに私とニイナは女子用の区域に入る。そして戦う準備をした。


ピィーッ!


寒気が走るような笛の音とともに、全員が走り出す。私は真っ先に狙っていたライフルに走って行った。4期生一足が速い私は、近くに落ちていたピストルを足で跳ね上げて拾う。腰につけたガンホルダーにさしながら、落ちている弾やナイフを次々に拾っていった。

-作戦Ⅰ.武器と食糧を集めるだけ集めてその場を去る。

ニイナの作戦通りに私は武器の回収に走る。もちろん狙っていたライフルも手に入れたし、予想外のことに、もう1つゲットできた。横目で確認すると、ナイフホルダーにナイフを1つ、手に銃を持ったままニイナがジムを抜け出すのを見た。よし。作戦通り。頭脳派のニイナは戦闘が苦手だ。ニイナに下された作戦Ⅰは、「護身用の武器を拾い次第逃げろ。」もちろんこれは作戦Ⅱのためなんだけど。食糧を拾っていると、背後に気配がした。振り向く前に私は屈んだ。飛んで来たのは先の尖ったナイフだった。チッ、あっぶねーなー。後ろを振り返ると、突っ立ったまま動けない子がいる。まさか外れるとは思ってなかったんでしょうけど、それじゃあ暗殺者にはなれないよ!いちいち殺すのは面倒だったので、向こうがこれ以上手を出してこないのを確認して走り始めた。前方になんかあるなと思ったら、なんと救急セットだった。リュック型なので、走るのには便利なのこの上ない。さっさと拾い上げて周りを見回せば、大惨事だった。そこらじゅうでナイフや弾が飛び交い、中には刀で戦っている者もいた。刀!欲しい!絶対欲しい!探していると、床に倒れている子が手に刀を握っていた。よし。頂戴ちょうだいするとしよう。さっさと刀を取ると、なんと弓まで持っていた。ありがたい。弓を拾ったところで、いい加減ヤバいなと思い、その場をずらかることにした。ジムを出る途中、4人ぐらい襲ってきたけど、武器をできるだけ使わないために護身術と足の速さで逃げ切ることにした。

-作戦Ⅱ.コントロールセンターに向う。

この作戦は主に、ニイナのためだった。戦闘が苦手なニイナを連れると、私も戦闘が不便になるため、私達は隠れることにした。もちろんこれはただ隠れるのではない。これがまたすごいったらありゃしない。コントロールセンターはこの島全体を制御している場所だ。セキュリティが厳しくて、入るのが相当困難なはずなんだけど、通称天才ハッカーのニイナには全く持って通用しない。先にセキュリティを破って中にいてもらうために、ニイナにはさっき逃げてもらったのだ。しかもこのコントロールセンター、この島全体にかけてあるトラップを発動できちゃうんだなー。そのほか、島に計1000個設置されている監視カメラのシステムをニイナがハッキングできれば、残った人間の居場所を特定、割り出すことなど容易い。そこに私が行って、始末する。完璧な作戦!


…のはずだった。


「死ねぇっー!」

またもや不意打ちを食らってすんでのところで避けた。あぶねー。思いのほか、武器を手にしてさっさと逃げたやつらが多かったらしい。4期生女子130人中、予想では6割7割が逃げたっぽい。これは完全なる誤算だった。まさか6年間も暗殺者として育成されながら逃げるとは、私もニイナも予測していなかった。


…と思っていたのは私だけで、ニイナはすべての可能性に備えていることを私は思い知った。目の前の敵に肘鉄ひじてつを食らわせて熟睡させたところで、私がニイナと連絡を取れるようにと拾った無線からニイナの声が聞こえてきた。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん。聞こえる?こちらニイナでーす。」

少々雑音が聞こえるものの、ニイナだということは瞬時にわかる。

「聞こえるよ、ニイナ。ちゃんとコントロールセンターに着いた?ケガとかしてない?」

話ながらも走り続ける私に比べて、ニイナの声は落ち着いている。

「うんー。しょっぱなから逃げたおかげで、あんまり遭遇せずにはすんだけど。3人ぐらい襲ってきたかなー。一応ナイフとか銃で撃っといたけど、死んではいないと思う。左手はちょっとケガしてるけど、大したことないから大丈夫。今からお姉ちゃんが安全にここまでつけるようにガイドするので指示に従ってくださーい。」

「ラジャー!」

ということで私はニイナの指示のおかげで重傷をおわずに無事着くことができた。もちろんおよそ20人に襲われ、かすり傷は体中についている。服も結構ボロボロになっちゃったし、私には想定外の出来事だった。

「コントロールセンターの前に着いたんだけど、入れてくれる?」

走りながらのんびりと話し続けるニイナの声を聞きながら、私はいつのまにかコントロールセンターの前に着いていた。

「はーい。今開けるねー。」

ビーという音がして入り口が開く。中に入るとすぐに扉が閉まった。そのまま駆け足でこの島の本部とも言える情報局に入ると、テレビの10倍は軽くあるスクリーンを360度に取り囲まれながら部屋のど真ん中の椅子でくつろいでいるニイナがいた。

「お姉ちゃんお疲れ様ー。こっちも平気だよー。って、すんごい量だね、それ。もはやお姉ちゃんがどこにいるのかわからないくらいだよ。埋もれてるよー。」

クスクス笑いながら私の体から武器やら食糧を外すのを手伝ってくれたニイナに、少なからず怒りを覚える。

「あんたねー。いくら先に逃げろとはいったものの、椅子に座ってくつろげって意味じゃないんだよ!ったく、少しは仕事しろ。し・ご・と!」

「その辺は大丈夫。ハッキングは全部終わったよ。今すべてのシステムは私の管理下。ついでに言うと、上層部がさすがにそれは困る、ってことでシステムを停止するといけないから、私がすべて書き換えました。今ここでこのコンピューターたちを起動及びシャットダウンできるのは、この世界に私一人しかいませーん!」

まるでおもちゃで遊んでいるかのようにキーボードをいじりながら言われると、現実味がないように思えるけど、さすがは天才ハッカーですね。もうマジ、尊敬します、我が妹ながら。

「ライフル2丁、ナイフ34本、刀1本に弓が1つ…。矢は12本入ってる。ピストル10丁、リボルバー8丁、弾は…。数えきれないね、うん。無線1セット、救急セット1つ、シュラフ1つとナイトグラス1個に缶詰5個。なんかしらないけど、お米まで入ってるし。ねえ。これどうやって全部持って来たの?」

「え?別に普通にだよ。だってニイナが集められるだけ集めて来いって言ったからじゃん。」

「そうなんだけど…。こんなに運べるとは思えなかったよ、冗談抜きで。普通缶詰10個とカバーもないナイフを34本同時に運ぶのは至難の業だよ。シュラフだっていくら小さいからって。しかも背中にはライフルと刀と救急セット背負って…。本当にどうやったの?」

「さあ。手あたり次第掴んだだけなんだけど。」

「お姉ちゃんってその辺、本当に尊敬するわ。カバーも無いナイフを口にくわえたり洋服の中に入れようなんてことする人、お姉ちゃんぐらいしかいないよ。」

半分呆れられて言われると、なんかバカみたいに聞こえるからやめてよねー。なんて内心では思いながら、慌てて試験の最中だってことを思い出す私は相当バカなんだろうな。

「それで?ジムの方は大体終わったの?」

私が聞くとニイナは右側のスクリーンを指さす。30か所から撮影しているジムが映し出されていた。

「うん。大体ね。でも最初に武器も取らずに逃げた子が大体30人弱、武器を取ってすぐに逃げ出したのが40人ぐらいかな。ジムで勝ち抜いた子は大方10人から20人だと思うよ。そう考えたら、まだまだ時間がかかりそうだね。しばらくは様子見としようか。」

おそらくハッキングした後ずっと監視をしていたであろう言い様に、私はさすが!と思ってしまった。もちろんさっき仕事しろ、って言ったのは宇宙の彼方まで行ってしまって忘れていたんだけど。ニイナは私の方をクルリと向いてニッコリと笑った。

「でも1人は生き残りづらいと思うよ。掟その三、協力し合うべし、だからね。」

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