最終試験(すばやく決断するべし!)

「えー、第4期生の諸君。6年間、この暗殺者育成機関、ザ・ブラッドでよく頑張ってくれた。いろいろ大変なこともあっただろう。君たちは過酷な人生を生き抜いてきた者たちだ。特にレビィ、ニイナ。君たちは3年間でずいぶん成長したと思っている。各自、自分の得意とする分野が見つかったのは本当に素晴らしいことだ。しかし本番はこれからだ!卒業すれば、インストラクターの付き添いはもうない。撃たれれば本当に死ぬし、捕まれば刑務所行きだ。だからこそ、今日、我々は君たちに最終試験を与える。これは生きるか死ぬかの世界。それぞれ、勝ち抜いた男女4人だけが、卒業を認められるとする。」

暗殺者育成機関のトップ、レオ大隊長直々の言葉に生徒たちも少なからず、気合が入る。つまり男子と女子で分かれるということだ。お互い残った4人、合計8人が卒業できる。

「はいっ!」

全員が声を揃えて返答したところで、この場所の情報を教えることにする。ここ、暗殺者育成機関「ザ・ブラッド」はその名の通り、世界中から集まる暗殺者を育成するところだ。暗殺業界で3本の指に入るこの学校は、まだ10歳に満たないころから、訓練を開始する。ここに来る子供たちのほとんどに親はいない。殺されたか、死んだか、捨てられたかのどれかだ。私とニイナの場合も、捨てられている。私が10歳、ニイナが8歳の時だった。ある日起きたら、家はもぬけの殻だった。何が何だかわからず、路上を2人でさまよっていたところをこの機関の者たちに拾われたのだ。中には、子供を暗殺者に仕立て上げようとする気が狂った親もいるんだが。ここで6年間のカリキュラムを終えると、卒業試験がある。それが今まさに始まろうとしているこれだ。ただ内容は誰一人知らない。なぜだか、前に卒業した者たちとの連絡がつかないからだ。最初の3年間は基本的に社会勉強なんかをするだけ。人の体のつくり、どこが急所か、みたいな、いかにも暗殺機関っぽい教え方をする。もちろん卒業後社会に上手く溶け込めるように、一般的な知識もすべて教わる。マナーやら口調、しまいには外国でも楽に動けるように英語、中国語、韓国語、スペイン語、フランス語、他10ヶ国語ほど完璧にマスターさせられる。そして次の3年間で、ナイフや銃から毒までも使う様々な殺し方を教わったり、サバイバル方法、プログラムのハッキング法、護身術、模擬訓練をしたりして日々過ごすのだ。最終学年になれば、嫌でも目をつぶりながら銃を組み立てることが可能になる、荒唐無稽こうとうむけいなカリキュラム。1つの期生が卒業するまでは次期生が入れないので、卒業して初めて受け入れるような感じだから、なんだかんだ言ってこの機関は今年で24年目だ。私とニイナは特別編入ということで、3年間で6年分のことを習わされた。もちろんこの学校にも入学試験というものもある。これがまたひどいもんで、入学希望者に殺し合いをさせるというもの。ペアになって殺させ、勝者だけを受け入れる。おかげで入学者が半分に減るわけだ。なんつー強引な、と思うかもしれないが、まだまだ序の口だったことに私は今日、初めて気づかされるのだった。

「ルールを説明する。…。いや、別にルールはないんだな、これが。ただ殺し合えばいい。どんな手を使っても構わない。場所は敷地内すべてだ。武器はいたるところに置いてある。それだけだ。では幸運を祈る。」

なーんだ。それだけか。………。は?今殺し合えって言った?全員が相手ってこと?今まで一緒に生活してきた仲間を殺せと。一緒にご飯食べて、一緒にお説教を受けて、一緒に罰受けて、一緒に訓練してきた仲間を殺せっていうの?いやま、お説教とか罰とかってなんだよ、って思うかもしれないけど。無理でしょ、そんなの。みんなの間でもざわめきが起きる。当たり前だ。互いを殺し合えと言われたら。しかも入学の時とはまるで違う。相手も自分もお互い訓練された技術の持ち主の上に、よく知る人物ばかりなんだから。

「大隊長、私達は辞退します。」

2人の男女が前に進み出る。手をつないでるから、恋人同士なんだろうな。でもそんなこと許されるわけない。

「辞退は認めない。言ったはずだ。生きるか死ぬかの世界だと。」

レオ大隊長は威厳たっぷりに言った。

「私達は!お互い死んでほしくないから…。だから…。暗殺業界から辞退すると言っているんです!」

だーかーらー、あんたたちはこの6年間何を学んできたの?そんなことが無理なのは、わかってるはず。暗殺業界から辞退したところで、この業界の存在を知られれば一大事だ。そんなことを許すほど、この学校、いや、この業界は甘くない。

「つまり、死ぬということか?君たちがこの業界に入ることを望んだ以上、出ることを許されないことぐらい知っているはずだ。入学時に言ったはずだ。後戻りはできないぞと。この業界から出ようものなら、即座に抹殺されるぞ。それでもかまわないものは、今すぐ出て行きたまえ!しかし一つだけ言っておく。生きたいのであれば、この試験で勝利する以外道はない。」

絶望をそのまんま絵にしたような2人の男女。その表情は他の生徒たちの顔にも多数浮かび上がっていた。でも私はもう決めていた。全員殺して生き残ってやると。もともとそのつもりで入ったんだから。私には何も残されていない。ニイナ以外には。だからニイナと手を組めば、失うものなんか何もないも同然。そのかわり、ニイナだけは死守してやる!

「……。ってちょっと待てーい!敷地内って、これ島でしょ!そんなの一生かかっても殺せんわい!」

初めてぶち当たった事実。そう。この学校、日本から約3000㎞離れた島に位置している。まあ、だからこそ距離800mの射撃が室内でできるんだけど。ってんなことどうでもいいわーい!どうなってんのよ、この卒業試験!レオ大隊長は私を見てニヤリとする。ああ、嫌な予感しかしないよ。

「だからこそが卒業試験なんだぞ、レビィ。武器だけでなく、食糧なんかも配置されている。もちろんこの島は自然で溢れているからな。自然を使って生きるもまたいい選択肢だろう。貴様らが6年間習ったことを今ここで見せるのが、この試験の主な理由だ。それともう一つ、面白いことを君たちに教えてやろう。この卒業試験の期間は毎期異なる。史上最短の卒業試験は丁度1週間だ。そして史上最長記録は…、3年だ。ではゼウスの名にかけて幸運を祈るよ。」

一気に騒がしくなる。一週間で終わるのか、それとも3年以上かかるのか。私は2列先にいるニイナの方をチラリと見る。視線を感じたのか、すぐに私の方を見た。そして頷いた。ニイナもやる気なのだ。そうとわかれば話は早い。掟その二。すばやく決断するべし。よっしゃあ!殺しまくってやる!

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