最終話 再強盗計画(ふたたびのごうとうけいかく)

  まともな人間なら「捕まらなかったこと」が「幸い」とばかりにこんなバカなことは辞めますが、そこは、なにぶんにもやくざな爺。再びに計画を練ります。

次は自信がございました。英二が昔の「つて」で拳銃、隠語で申しますと「チャカ」を手に入れます。「中国製のトカレフ」というのだから嫌な感じがいたします。

おまけに拳銃を買うのにお金を使いすぎて、弾丸は一発しか買えなかった。

ますます「いやな気」がいたします。

三人は「前科者」でございますがそれは「すり」での話。強盗は初体験でして、拳銃を触ったこともない。

三人共、拳銃を見てうなる。まあちいさなお子様でも引き金を引けば玉が出るのが分かります。ところが玉はどこからいれるかわからない。

「中国製のトカレフ」ですから。警察官の持っている回転式のいわゆる「リボルバー」とは違う。内蔵されてる「玉を入れる場所」がありまして、そこから弾丸をいれる。それが分からない。三人そろって「ああじゃないかこうじゃないか」って触っているうちに拳銃が下に落ちます。すると「何か」の拍子で弾丸をいれるケースが開きます。

「お」三人とも言ってこれを拾い上げましてここに弾丸を収めます。

収めたところで弾丸は一発。試し打ちもできません。

とりあえず、これを持ちまして。三人とも、前回の失敗を反省して普通の格好してまいります。

銀行の前に着きますとまた「ごそごそ」となにかしております。

しばらくすると「手をあげろ」っとか細い声が響きます。

見るとストッキングをかぶった「三人」がおります。

「ぷっ」と誰かが笑い出します。

そりゃそうでしょう。ストッキングをかぶったなんて昭和の時代の話です。

誰かが笑い始めますとそれが波を打って笑いが大きくなってまいります。

「じじい三人」がストッキングをかぶって強盗なんて一昔前のコントです。

正吉は「撃つぞ」と精一杯の声を出す。

まあ。こんなじいさんたちが本物の拳銃を持っているわけもない。

おそらくそう思ったんでしょう。完全になめられております。

「これはいけない」正吉はそう思うと、思わず引き金を引く。

一回目引くがなんにも起こらない。さすが中国製。

二回目におもいっきり引いてみますと、「パンッ」と乾いた音がいたします。

この弾丸が壁に当たり「キャー」「絹を裂く声」がいたします。

しかし、玉はこれだけです。爺達のほうがびっくりしてしまいました。

汗がたらたらと流れてくる。

おまけにストッキングをかぶっているんだからとかく、汗が目に入ってくる。

しぶしぶ銀行の男性職員が前に出ます。

正吉は彼に「バッグ」を与えてこれに金を入れろ、といえばよかった。

正吉は「金庫を開けろ」と言ってしまった。

分厚い金庫のドアが低い音を立ててひらかれます。

金庫の内扉を職員に開けさせまして、いよいよ金庫の中に入ります。

「お札の束」がうなるほどある「はず」でございました。

しかし最近の銀行は金庫にお金を入れていない。

書類が入っているだけです。書類なんて持ってったって何の役にも立たない。

では「お金はどこから出すか」と申しますと、専用の機械がございましてそれが頑丈で爺三人が束になってもなんともできません。それもそのはずです。重機でも壊せないって程ですから。

まもなく、警察官がまいりましてここで「御用」というわけになります。

三人共裁判にかかりましたが、幸いにして「殺人」をしていないこと。と「お金を取っていないこと」などありまして重罪は免れました。

間抜けな強盗のお話でございました。」

再びに高座の上に「若狭屋 小夏」が座っております。

「あたしのつたない話はいかがでしたでしょうか?最後まで聞いていただき誠にありがとうございました。また、お目にかかる日を楽しみにしております。」

そういうと頭を下げる。再びに三味線太鼓笛の音が流れる。こなつは紋付をつかむと立ち上がった。下手に向かってゆっくりと歩きだす。

ふと、小夏は立ち止まった。

「そのあと「爺達はどうしたか」って?刑務所を出た後、三人共離婚した元の奥さんのもとに戻って尻に敷かれているようです。おあとがよろしいようで」

    完

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小夏語爺強盗(こなつかたり じじいのごうとう) 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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