かわいい?かわいい!お隣さん
僕の名は、
県立高校に通う、ごく普通の男子高校生だ。
全てにおいて平凡、凡庸、そして日常も平穏だ。
――唯一、隣の彼女のこと以外は。
教室で隣の席に、
「大和君、今日の予習はしてきたかしら?」
今日も朝から、ホームルーム前だというのに彼女はテンションが高い。
名は、
切れ長の瞳で僕を見て、そして机に身を乗り出してくる。
どういう訳か、僕は凛に気に入られているのだ。
「えっと……一応、してきたけど」
「今日の一時間目は英語よ。憎き
「英語、嫌い? の割には、金正さんは成績いいよね、って、イテテテ!」
頬をつねられた。
痛い、そして容赦がない。
「凛と呼びなさい?
「は、はい……その、凛、さん」
「よろしい。それで? ほかにはなにを?」
「なにを、って……?」
「貴方の自宅での生産的な私的休憩活動を聞いているの」
なんで、彼女は僕のことなんかいつも聞きたがるんだろう?
美人だが、クラスでは打ち解ける相手もなく孤立している。それなのに、ファンだけはいるから不思議だ。確かに、黙っていれば凄い綺麗なのは僕も認める。
だからつい、彼女の一方的なスキンシップに付き合ってしまうのだ。
「昨日かぁ……確か、家で少し勉強して、それから」
「それから? 明瞭極まりない主体的な決定発言を頂戴」
「それから、ちょっと母さんに買い物を頼まれて」
「そう、おつかいね……母君への献身的な
どうしていつも、こう回りくどい喋りなんだろう? そのくせ、変に断言したがるし。だが、凛は僕の机にふわりと腰掛けると、見下ろしてくる。
「それで? 万全なる品揃えを満たした
「うん、それでひき肉をお肉屋さんで買って……ほら、あの」
「知ってるわ、
「そ、そうだね」
僕を真っ直ぐ見つめて、凛はグッと身を乗り出してくる。
椅子の上でのけぞる僕は、鼻と鼻が触れる距離で彼女の美貌を見上げていた。
「私、決めたわ。今日のおやつは井上精肉店のコロッケにすることを、ここに英雄的な
「ど、どうぞ……お、美味しいからね、ハハハ」
「なにを行ってるの? 大和君、貴方も行くのよ? あまねく全ての
「ね、と言われても……」
「決まりね、放課後が楽しみだわ」
それだけ言うと、彼女は机からふわりと飛び降りる。
そして、隣の自分の席に戻っていった。
だが、彼女はその間に何度も肩越しに振り返っては、意味深な視線を送ってくる。僕がなにかしたんだろうか? あ、いや、待てよ……まさかなあ、でも。
ひょっとしてあれは、構って欲しいのかなあ。
「あのさ、凛さん」
「なにかしら?」
「コロッケ食べて、その……軽く本屋でも冷やかさない? 今、商店街の書店で読書月刊のキャンペーンやってて」
「まあ……
「ご、ごめん。嫌ならいいんだ、別に」
「さらなる挑発を重ねても無駄と知ることになるでしょうね。私は万事において百戦百勝の
「さ、参考書のこと?」
「ふしだらで愚かな帝国主義者はそう呼ぶわね」
そこまで言って、ようやく席に座った凛は窓の外へとそっぽを向く。
彼女の長い髪からは、わずかに見える耳が真っ赤になっていた。
彼女は外の景色を見たまま、喋り続けた。
「でっ、でも! そういう誘いに関しては断固適切な
向こうを向いて喋る凛は、その声を震わせながらも張り上げる。
それはつまり……ええと、日本語でおk、って感じなんだけど。
凛は最後に、ちらりとこちらを向いた。
「決定的な
「それはつまり……あ、うん。じゃあ放課後に」
「ええ! 不屈の闘争力に満ちて、無慈悲な
なんだかよくわからないけど、先生が教室にやってきたのでこの話はここまでとなった。意外と誘ってみるもんだな……思えば、凛はいつも僕にだけちょっかいを出してくる。今時ペンシルロケット(って若い子は知らないか?)なんか使ってて、ミサイルだと言い張るし。
訳がわからないけど、視線を感じて横を見ると、彼女は目を背ける。
だが、彼女を視界から消せばいつも……眼差しで炙られて頬が
どうやら、やっぱり僕の心は彼女の中へと拉致されているようだ。
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