第12話 行方の追及
「君たちはなぜ綾野君を探しているんだね?」
塔山事務長の質問に対し、
「人一人が行方不明なんですよ?探すのはあ
たり前じゃないですか?それとも大学が関与
しているから探すな、と仰るんですか?」
事務長に対しても岡本浩太は容赦なく詰め
寄った。塔山事務長は学生である浩太一人な
ら適当にあしらうのだろうが第三者であり新
聞記者である結城良彦の存在がそれを許さな
い。ノーコメントは何かを隠している証拠と
思われるからだ。現実問題として塔山事務長
は何かを隠しているようだった。
「そんな筈がないだろう。彼はただ単に療養
のために休職中なだけだ。本人からの連絡が
ない限り居場所は私たちにも判らない。」
「しかしずっと携帯にも出られないんですか
ら、もしかしたら何かあったのかと思われま
せんか?全く関心がないのは行方を知ってい
るから、とも考えられますよね?」
たたみかけるように続ける浩太に、塔山事
務長は、全く取り付く島もない。
「いずれにしても君たちに話すようなことは
ない。部外者を勝手に学内に入れないでほし
いもんだ。」
そう言い残して去って行った。
仕方ないので二人は新山教授を訪ねた。何
か新しい情報は入っていないかどうか。但し
もし何かあったらすぐにでも杉江統一から連
絡があるだろうから期待薄ではあったが。
「そうですか、特に何も新情報はありません
か。」
「いや、そうでもない。私には何もないが、
もしかしたら恩田君のところで何か判るかも
知れない。一度訪ねてみてはどうか?」
「恩田助教授ですか?」
「そうだ。大学が関与していて人一人を一般
社会から隔絶させたいときにはどうするか、
と考えてみたまえ、ある建物が思い浮かばな
いかね?」
岡本浩太は少し考えてみた。伝承学部であ
る自分には縁のない建物ではあるが、そうい
えばひとつ、威容を放つ建築物を見たことが
ある。構内ではなく全く別の場所にある建物
だ。
「もしかして付属病院の心理学病棟ですか?」
「そのとおり。あそこなら誰の目にも触れな
いし誰にも邪魔されないで綾野君の身体を調
べられるだろう。あくまで大学が関与してい
る、との前提に立っての話だがね。」
「判りました、恩田助教授に協力してもらっ
てなんとか探りをいれてみます。」
なんだか少しだけだが光が見えた気がして
浩太と結城は急いで構内にある医学部付属病
院に向かった。
付属病院に着くと幸い恩田助教授は控え室
に在席していた。二人の訪問に驚く様子もな
く事情を聞いて頷いてから答えた。
「それは、多分推測として正しいだろうね。
但し確認できるかどうかはかなり怪しいと思
うな。大学が意識的に綾野先生の身柄を隠し
たいのなら公式に問い合わせても無駄だろう
し、ここのように誰でも建物内に入れる施設
ではないからね。」
「そうですか。」
2人の落胆は隠せなかった。
「特に地下の隔離病棟には極一部の者しか入
れないシステムになっているから。ちなみに
僕一人なら入れる。」
「えっ?そうなんですか?」
「僕の専門は脳神経外科だから色々と参考に
なる患者も多くてね。」
光明が見えてきた。
「だったら恩田先生が確認していただく訳に
はいきませんか?」
「身近の人一人の行方が判らなくなっている
のですから、私からも是非お願いしたいので
すが。」
紹介を受けてはいたが恩田は結城とは初対
面なのでいぶかしがった。
「あなたと綾野先生とは、いったいどういっ
たご関係なのですか?」
「私は新聞記者なのはお話しました通りなの
ですが、その取材時にご一緒させていただき、
大変お世話になったものですから。お聞きし
ましたところヴーアミタドレス山でしたか、
そこへ行かれた時に同行されていたリチャー
ド=レイさんも同じ時にお世話になりまし
た。」
「リチャード?。ああ思い出しました。」
「その時にとんでもない体験をしたものです
から何か他人に思えないのですよ、綾野先生
のことが。それで奈良に取材に来たついでに
訪ねさせていただいたら行方が分からなくな
っていた、というところですね。」
恩田も新聞記者という結城の職業で多少警
戒していたようだが納得したようだ。
「判りました。僕も綾野先生とは関係があり
ますし、私から探りを入れてみて怪しいと思っ
たら自分で確かめに行ってみましょう。」
そう恩田は約束してくれた。
とりあえず一つの光明が見えて岡本浩太と
結城良彦は安堵したのだった。
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