第11話 生物学教室での話

「どうも、口が堅いって感じでもないです

ね。」


 それは、影で見ていた杉江統一だった。


「そのようだな。杉江君、君はどう思うのだ

ね?」


「僕は、浩太たちの言うとおり、大学も何ら

かの関与をしていると思いますよ。その辺り

は恩田助教授の方が詳しいかもしれません

ね。」


「大学ぐるみで星の智恵ちえ派に与しているとい

うのか。でも、それは有り得ることだな、そ

もそも恩田君に星の智恵ちえ派を紹介したのが堂

本学長だと聞いている。」


「え、そうだったのですか。それは聞いてい

ませんでした。なるほど、学長の方が星の

派の関係は古いということですか。でも、

なぜ綾野先生を隠す必要があるのでしょう

か。」


「彼は知りすぎたのだろう。加えて

の遺伝子を持ち

も侵食されているのだから。様々な利用価値

があるのではないかな。その辺りは私にはさ

っぱり判らない話ではあるがね。」


「それは僕も同じです。浩太の方が詳しいで

しょう。一度ゆっくり聞いてみますか?」


「いずれな。それよりも、今は綾野君の行方

だ。学長に直接当たってみるべきだろうな。」


「学長は今アメリカではなかったのですか。」


「そうらしいね、今頃は当大学の姉妹校であ

大学で講演をしているはず

だ。恩田君によると、その姉妹校提携も星の

智慧ちえ派が関係しているらしいが。」


 実験で忙しい二人は、とりあえずは堂本学

長の帰国を待つことにした。2日後には戻る

はずだった。



 2日後、堂本剛貴学長の元を訪ねた浩太と

結城は塔山事務長に行く手を阻まれていた。


「学長は帰国直後で多忙だ、君たちに会う時

間などある訳がないだろう。いつまで綾野君

の話を追い続けているのかは知らないが。」


「でも、大学は実は綾野先生の行方を知って

いて隠されているんじゃないのですか?」


「そんなことある訳ないだろう、失礼なこと

を言う男だな、学内に立入禁止にするぞ。」


 あまりにも一方的な態度ではあったが、塔

山事務長にはその権限があるのであまり逆ら

わない方が得策だった。しかしそれでは綾野

の行方は遥として知れないままだ。


 浩太と結城の二人は堂本学長に直談判する

ために帰宅途中を狙って待ち伏せすることに

した。学長は南草津駅前のマンションに一人

住まいをしている。家族はいないらしい。


 電車で通っている学長を駅で待ってみた。

 幸い一人で帰ってきた学長を改札を出たと

ころで捕まえることができた。


「堂本学長、ちょっとお話があるのですが、

よろしいでしょうか?」


「ん?、君たちは?」


「僕は伝承学部の岡本浩太といいます。こち

らは陽日新聞の結城さんです。」


 学長は新聞記者ということに訝しげに反応

したが、それは当り前のことだろう。


「新聞記者が何の用かね。何かあったら事務

局を通してくれたまえ。直接取材には来るの

は非常識だろう。」


「いえ、学長、私は何かの取材に来た訳では

ないのです。綾野先生の行方を岡本君と探し

ているものですから、何かご存じではないの

かと。」


「綾野?ああ、伝承学部の講師だかなんだか

だったか。その綾野先生がどうかしたのか?」


「先日から連絡もとれないで行方知れずなの

です。塔山事務長は休職届が出ていると仰っ

ているのですが、僕が最初に聞いた時には大

学に連絡なしに休んでいると怒ってらっしゃ

ったのです。」


 何か堂本学長の様子を見ていると本当に何

も知らない様子だった。あるいは演技か?


「塔山君がそう言っているのなら、その通り

なんだろう。それ以上のことを私が知る訳が

ないだろう。何かあれば塔山君を通じてくれ

たまえ。私は疲れているから、これで失礼す

るよ。」


「あっ、あと一つだけ、学長は星の智慧ちえ派を

ご存知ですか?」


 一瞬学長の顔が変わったが、またすぐに厳

格な教育者の顔に戻った。


「何の話かな?私にはよく判らない話のよう

だね。では。」


 それ以上話したくない素振りで学長は立ち

去ってしまった。やはり何かを知ってるよう

だ。


「星の智慧ちえ派には関わっているが綾野先生の

件は関知していない、ってところですかね。」


 結城も同じことを考えていたようだ。


「その可能性が一番のようだな。しかし、次

の手をどうするかだ。事務長をもうちょっと

突いてみるか。」


「そうですね、作戦を考えましょう。」


 二人は浩太の部屋で作戦を練ることにした

のだった。


 作戦会議は遅々として進まなかった。なか

なかいい案が浮かばない。


「そういえば綾野先生はご家族はいらっしゃ

らないのかな?もし居るのなら、そこら辺り

からなんとか突破口が開けると思うんだが。」


「先生は天涯孤独の身だとおっしゃってまし

たね。何でも高校生くらいの時にご両親を同

時に事故か何かで亡くされたとか。兄弟もな

く親戚付き合いも全くなかったらしくて、そ

れ以後は天涯孤独さ、と少し寂しげに話して

おられましたから。うちの叔父あたりも幼馴

染ですがあまり家庭環境は知らないと言って

ました。」


「そうか、それでは手繰りようがないね。あ

とは財団か。」


「一度僕が連絡をしてみます。マリアさんな

ら力になってくれるかも知れません。」


 岡本浩太が財団極東支部に連絡を

取ったところ、マリアは今プロヴィデンスに

戻っているとのことで不在だった。ロイド支

部長とはほとんど面識もないのでどう話をし

たらいいのか判らなかったが一応綾野の行方

が知れないことと探しているが上手くいって

いないことを伝えた。


 財団ではどうも既に知っていたようだ。と

いうよりも綾野は財団のエージェン

トに採用された(実質的に、という意味で雇

用された訳ではない)らしい。財団でも行方

を探しているが、大学が関知していることも

ある程度把握している、とのことだった。


 支部長はマリアが帰国次第こっちに派遣し

て専属で行方を追うことを約束してくれたが

時期的にはあと1週間は後になりそうだった。


「マリアさんが手伝ってくれれば心強いけど

それまで手を拱いて待っている訳にも行きま

せんね。」


 浩太と結城は自分たちで出来ることを探す

ことにしたのだった。

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