第9話 新山教授の話
「やあ、よく来てくれたね、岡本君、それと
こちらが?」
「はい、はじめまして結城良彦といいます。
陽日新聞の記者をやっています。綾野先生と
は少しかかわりがありまして、国内では取材
をさせていただき、アメリカでは一緒に行動
したこともありまして。」
「そうなんです、あのりチャードさんと綾野
先生とでダゴン秘密教団の廃墟跡からサイク
ラノーシュ・サーガを発見した時にも立ち会
っていたそうです。」
ヴーアミタドレス山に行ったときに多少の
事情は聞いていた新山教授は、少しは気を許
したようだった。それまでは新聞記者と聞い
て警戒していた様子だった。
「なるほど、それで岡本君と一緒に綾野君を
探しているという訳か。」
「ええ、なんでも教授のところに電話があっ
たと聞いたものですから。」
「杉江君から聞いたのだね、だが残念ながら
私のところにかかってきた電話の内容から綾
野君の現在の居場所を探すのは無理だろうね、
まったくそのような話は出なかったから。」
「そうですか、ちなみにどのような用件で綾
野先生は電話をかけてこられたのですか?」
一瞬新山教授の目が杉江統一を睨んだ。余
計なことを話した、と咎めているかのようだ
った。
「それは話す必要のないことだな。当人の私
が手がかりがなかった、と言っているのだ、
それ以上はいいだろう。」
もう、この件については話すことはない、
といった感じで新山教授は自分の机に向かっ
てしまった。杉江と岡本浩太は顔を見合わせ
たが、それ以上は教授を追求できる筈もなか
った。
「判りました、では新山教授、私たちはこれ
で失礼します。ただ、何か思い出されたりし
ましたら、岡本君にでもご連絡いただけます
でしょうか?」
新山教授は仕草で、わかった、と表現して
言葉は発しなかった。もう話したくもない、
という態度だ。
「恩田君、どうかな。」
「あ、新山教授、相変わらずです。本当に大
丈夫なのでしょうか?」
「君が疑ってどうする。美希のためだと、君
が言い出したことだろうに。」
「それはそうなのですが、僕はどうも最近彼
らのことが信用できない気がしてきたのです。
彼らの目的は一体何なのでしょうか?」
密室に二人きりで話しているのだが、声の
大きさを抑えて話してしまう恩田だった。も
し、誰かに聞かれでもしたらとんでもないこ
とになってしまう。自分も、義父である新山
教授の立場を全て投げ出す覚悟は出来てはい
るのだが、途中でここを放り出されるのが怖
かった。それでは、今までやってきたことが、
全く無駄になってしまう。
「彼らしか頼る者が居ないのなら、頼るしか
ないではないか。いつまで、そんなことを言
っているのだ。ここには儂と杉江君しか入れ
ないとはいえ、いつまでもそのまま置いてお
く訳にもいくまい。」
「そうですね、それならもっと、検体を回し
て貰わないと、進むものも進みません。教授
のお力でなんとかなりませんか?」
「君のルートからでは、もう限界だろうな。
判った、それはこちらで何とかしよう。」
そこへ、杉江統一が入ってきた。
「教授、至急来てください。ああ、恩田助教
授もこちらでしたか。T-3に変化が現れた
んです。」
顔を見合わせた二人は、本当にあわてた様
子で杉江統一の後に続くのだった。
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