最終話 想い

 人は人の事を想う。それは愛かもしれない、恋かもしれない。友情かもしれない。どんなことであろうとも人は人を想う。


「その日」は来た。

「宇喜多 秀一」という人物と逢う日だ。

正確には「母」が逢うのだが、娘が会う。それとその彼氏が一緒だ。

朝から山下公園に亜里沙と勇は宇喜多秀一を待っていた。

写真をもって。

「なーほんとに来るのかよ?」

「勇ならどうする?」

「どうするって?」

「私から10年後逢いたいって言われたら10年後まで待っててくれる?」

「待つ」即答だった。

やがて日が傾いていったが、該当する人物は現れなかった。

「俺。ちょっと、トイレ」といって勇はトイレに行く。

「しょうがないわね」

そう思いながらトイレに向かおうとしたとき、後ろから「和可子さん?」

と声がした。振り返ると年こそ取ったが写真の人物がいる。

「じゃ、ないよね。。。。すみませんでした。」

と男性は肩を落とした。

「私。私、立花和可子の娘です。」

大きな声が公園に響く。

「むすめ?」

「立花和可子の娘、立花亜里沙です。」

「あぁ」男性は何かを悟ったのだろうか?肩を落とす

そんな時に勇がトイレから戻った。

その光景を見て

「果し合い?」なんて使いなれない言葉がでてきた。


三人は場所を変え、例のイタリアンレストランに入った。

「お母さん、、立花和可子さんは元気なのですか?」

恐る恐る宇喜多秀一は語った。

「母は、、、亡くなりました。交通事故で」

「あぁ」予感は的中したらしい。

「母とはどういったご関係ですか?」

「文通相手です。」

「文通?」

文通なんて死語なんだろう。宇喜多はそう思った。

「高校2年から?」

「ええ、音楽雑誌に昔文通コーナーってのがありましてね。そこで知り合いました。」

「先日あなたから届いた手紙を読ませていただきました。」

亜里沙ははっきりといった。

「え。」

宇喜多は動揺した。

「約束って何なんですか?」

「大したことではありません。ただ会おうって和可子さんが言ってきたもので、」

「ちょうど10年ほど前私が失恋しましてね。あれはショックだった。、、その事を手紙に書きましたら10年後お互い独り者だったら会おうって」

「じゃあ、宇喜多さん、、、」

「ええ、まだ独身です。」

「私の事は知ってました?」

「いいえ。」

「でもね。なんとなくわかったんですよ。なんとなくね。。。この人はなにか(守るもの)があるってね。」

「守る。。もの。。」

「ええ。それがあなたです。」

「わたし。。。」

亜里沙の目から涙が流れてくる。

ぬぐってもぬぐっても止まらない涙。

私は何に泣いているんだろう?

見かねた勇が隣からくしゃくしゃのハンカチを差し出した。

ハンカチを取り上げると、ひたすらに涙を拭いた。涙が枯れるほど。。。

勇は優しく亜里沙の肩に手をかける。

また、涙が流れる。




少年はやがて大人になる。ピーターパンではない。

亜里沙と勇も例外にもれず大人になった。

亜里沙は化学者として大学で教鞭をとっている。

勇は高校卒業した後、自動車の整備士として毎日汗と油にまみれている。


そしてその日がやってきた。

式場で純白のドレスに身を包んだ亜里沙はゆっくりと立ち上がった。

「きれいだよ」

同じく純白のタキシードを着た勇の姿がそこにはあった。

「ばか。」亜里沙の頬が赤くなる。


牧師がいてバージンロードの途中で勇が待っている。

亜里沙は男性に導かれバージンロードを歩いて行く。途中で男性は亜里沙の腕を勇に任せた。

男性は「宇喜多秀一」であった。

 

神の前で永久の愛を誓い、二人は口づけをする。

おめでとーーーー。この言葉に会場は包まれた。

鐘の音が遠くまで響いてゆく。

      完

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恋文 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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