第3話 恋文
いつか歴史の先生が教えてくれた。
最後の会津藩主松平容保が孝明天皇の手紙を筒に入れ首から下げて死ぬまで離さなかったと、この話に亜里沙はときめいた。
「ラブレター」亜里沙はこの言葉に弱い。
勇と付き合い始めたとき、ぶっきらぼうな勇に「手紙だけは書いてね」という条件を付けた。
相手は「姫」である、勇はこの言葉に従った。
勇に最初にもらったラブレターは「こんにちは。本日はお日柄もよく。ではまた」という何を伝えたいのかよくわからない手紙だったが、最近では亜里沙の指南によって少しは「まし」な手紙を書くようになった。
勇からもらったラブレターは机のカギがかかる引き出しにしまってある。
時々それをみてはにやにやしたりするのが楽しかった。
そういえば、母にも鍵の付いた引き出しがあった。
亜里沙が母の部屋にノックせずに入ったとき、母はその引き出しを急いで閉めた。
「あの引き出し。。。」
伯父が仕事から帰ってきて母あての手紙を渡したが、あの白い封筒だけは渡さなかった。「親の秘密」を守るのは「子供の義務」と思ったからである。
ダイレクトメールの束を渡すと「まったく、どこからこんな情報が洩れてるのか。」義実は嘆いた。
「ねえねえ、ゆうくんとは逢えた?」百合子さんは勇の事というよりも恋愛に興味があるらしい。義実とも「ラブラブ」でお風呂はいつも一緒だ。
子供こそできないが、いや子供がいないからこそラブラブなのだな、と思う。
「今度の日曜日、婿殿さそって食事に行かないか?」義実はいう。
「いいわね、せっかくだからダブルデートしない?」
「デートか?」
「い、いいな」義実は真っ赤になった。
「決まり」
「何着てこうかしら?」百合子は衣装室に走った。
母はデートをしたことがあっただろうか?
仕事と勉強、そして私の育児に毎日てんてこ舞いだっただろう。
デートする時間も、ましてや相手もいなかっただろう。
ふと「宇喜多 秀一」の名前が浮かんでくる。
いったい誰なんだろう?
そんなことを考えながら眠りについた。
「恋人??」
勇は大きな声を出した。
「しー」
「だって亜里沙のお母さんに恋人って、考えられないな」
「じゃあ誰なのよ。宇喜多って人?」
「同級生??」
「調べたわよ。小中高大学、大学院。でも宇喜多の「う」の字も出てこなかった。」
「開けたのかよ?」
「まだよ。」
「じゃあなんで恋人だってわかるんだよ。」
亜里沙は人差し指を指を勇の唇に当てた。
「勇は手紙初心者だからわからないのよ。封筒の選び方。万年筆のインク。あれは手紙を相当書いてきた人のものよ。」
「そうなのか?」
「手紙を書くとき勇なら何から始める?」
「うーん、、、、、何を書くかを考える。」
勇の頭をポコっとたたいた。
「だから、勇は初心者なのよ。手紙のうまい人は封筒を何にするか考えるの。」
「封筒??そんなもん何でもいいじゃん。」
ふたたびポコっとたたく。
「だから勇はだめなのよ。」
「駄目、駄目言うなよ。気分が下がる」
「いい?これテストに出るわよ。この人にはどんな封筒が似合うだろうか。そう考えるの。」
「ふーん。」
「それに微かにお香のにおいがしたわ。」
「蚊取り線香か?」
「違う。あれはもっといい香り。お母さんが好きだった香りよ」
「あのさ。」勇が立ち上がった。
「なによ」
「それなら開けてみればいいじゃん。ラブレターなら好きですとか書いてあるだろう。」
「そ。そうね」
「それとも開けられない理由があるのかよ?」
「怖いのよ。お母さんの過去を知ることが。。。。」
亜里沙の目が不安になる。
「怖い?」
「だってその人がお父さんかもしれないじゃないの。」
「怖い、、、か」
勇はそっと亜里沙を抱きしめた。
「大丈夫。怖くないよ。」
「勇。。。。」
しばらくして、亜里沙の体は勇から離れた。
「駄目よ、こんなことしちゃ。怒られるわ」
「大丈夫だよ」
「なんでよ。」
「だって。。。校則には書いてないだろ?」
そういってキスをした。
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