第5話

「いやぁ…へへ…」

おれはうぶだ、たしかに。しかしおれがうぶな反応をとったところで童貞臭さ満載なだけなんだよなあ…

おれの手はまだがっちり握られたまま、目の前の吸血鬼は嬉しそうな笑顔を浮かべている。

「契約、どうなさいますか?吸血していくうちに次第に慣れてくるとおもうんですが、」

「アレは、毎回やるんですか」

「まあ、吸血は食事なので毎日最低3回は吸います」

「それは承知済みですけど、…な、舐めたり吸ったり噛んだり…あれも必ずついてくるんですか?」

今回は鏡も相まった所為だろうが1回見てしまったからには こう、勝手に再生が…

「そうですね、雰囲気作りです。重要です」

雰囲気作り?!それ重要?

「はい吸って終わり!じゃ駄目なんですか?!」

「えーつまらないでしょう。それに吸血鬼が血を吸う行為自体、人間からしたら快感を引き出すように仕組まれてるんですよ」

「つまらなくないですよ十分ですよ。なんでそれを助長させるんですか吸って終わらせませんか」

「セックスだって突然挿入しないでしょう。前戯ぜんぎみたいなものです」

「食事とせ、せい こうい は別です」

「人が食事している姿は官能的なものですよ?」

吸血鬼は ふふっと笑みを浮かべると握ったおれの手に唇を落としていく。

人差し指、中指薬指…爪と肉のあいだを舌でなぞる。

「な、」

「ゆっくり、慣れていけばいいんですよ。あなたが人の食事姿に官能を覚えたら、あなたはもう前とは違います。ああ、でも」


“その相手は僕だけですよ?”



お互いの頬が掠って 近づいてくる唇はおれの耳に小さくつぶやいた。


「あら、真っ赤」

「あ、ぁあなたのせいでしょう?!」

俯いてほっぺたをごしごし擦る。うおおくそう…下克上してやる…!!



「あなたが溺れるのは僕だけで充分です」


なんかつぶやいたと思って顔をあげるが変わらずに穏やかな笑みを浮かべて小さく首を傾げてみせるから、呟かれた言葉はおれが飲み込むまえに消えていった。


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