第3話

吸血鬼のお兄さんは人間界に慣れてるのか電車にも普通に乗っていたしおれの家にもおとなしく付いてきた。そして移動中、気になったことを聞いてみた。

吸血鬼は血を飲みたくなったらその都度女の人をつかまえて吸ってるもんじゃないのかって。お兄さんはどうして男のおれに契約を持ちかけたのか、これに関してはただ単にお兄さんが女の人のことを苦手らしい。かっこいいのにもったいない。

「吸血鬼のなかでは鼻が利かないほうなんですけど何故か女の人の香水とかには敏感で」

とも言っていた。いろいろ残念だね。

おれに目を付けたのは献血で慣れてるってのと(日常的に行ってるからね)、若いから。若すぎるのは…とか言ってた割に年を重ねすぎもだめ、男の人で若くても香水つけてるひとはだめ、派手な人はだめ、……このひと、好みにうるさいのが原因だと思うけど。

清潔感があって匂いがきつくなくて血になれてるひと。それで地味で遊びなれてなさそうなおれが引っかかったと。探せばいそうなもんだけどな。

そんなこんなで家に連れてきたわけだが…吸血鬼ってなに飲むんだ?お茶だしていいの?

「おにーさーん何飲みますかー」

おちゃー、りんごー、あ!トマトジュース!

「あ、ぼくお茶で。トマトジュース飲めないんです」

リビングのソファに座ってもらってたはずなのにいつの間にかキッチンにまで来ていたらしい。

「トマトジュース飲めないんすか。やっぱ色じゃ誤魔化せない…ってやつか…」

「まあ、赤い飲み物といったら血ですし…トマト味の血…みたいな…」

リンゴジュース飲んだらお酢だったってかんじだな。

それはひどい裏切りだ。



「えーと、吸いますか?」

「あ、じゃあ手…」

リビングに戻ってソファの上で向かい合う。お試し吸血キャンペーン…ふふふ…。あ、

「首じゃダメですか」

「はじめてで首だと結構きついと思いますけど…」

吸血鬼といったら首じゃないかなあ

「あ!おれ吸ってるところみたいです!…ぇーっと…合わせ鏡!」

棚から手鏡2枚を取り出して1枚をお兄さんへ差し出す。

「ぼくこれ持ちながら血、吸うんですか…?」

「難しいですかね」

んー、たしかに。首に口をつけるわけだから鏡はきついか…そしたら洗面台かな。でかい鏡あるし。おれが鏡に背を向けて手鏡もってたら見えるよね?よし、

「お兄さん洗面所いきましょー」

「え?!立ったままするつもりですか?!きつくないですか?!」

「きつくなったら移動します!ものは試しで!」

「ぇえ…1回だけですよ」

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