音の支配者

ユウマ

第1話


 静寂に包まれた世界。数多の命が消えていく土地。それは過去の話ではない。現在もだ。

 僕らは希望。

 ただの高校生だった僕たちが今、命を賭けて戦ってる。

 僕たちは敵に向かって無音で駆ける。




2018年


 奴等は一般の市民から見れば、突如として現れた。

 一日で渋谷は半壊。周辺にも奴等は溢れ出した。僕らが今も処理してるけど、まだまだたくさん残ってる。

 みんなはあのとき既に力があればという。でも僕はそうは思わない。あの人が動いてたから、足手まといになっただけだと思う。ただの高校生と、魔法の使える高校生でも、あの人の前だとどんぐりの背比べだ。

 今もあの人を追い続けてるけど、ぜんぜん追い付ける気がしないや。

 僕が走る倍の速度で走ってる。僕は素質はあると言われる。徴兵の中でもSクラスに認定される程度には。

 

 僕たちは今、異形の怪物と戦っている。この戦いに僕たちが負ければ、人類の生存範囲は致命的なまでに狭まる。海外では、いくつかの国が完全に音信不通。強力な結界のせいで入ることもできない。


 巨大な穴から涌き出る怪物に、みんな苦戦し、時には大怪我を負ってる。無理もない。

 無理もない。徴兵のなかでは最強クラスの僕たちでも、大群相手は危険なんだから。普通のみんなは、常に命のやり取りだ。精神が壊れた人もいる。

 


 僕たちは希望。

 重荷を背負わなくちゃ、みんな重さで潰れる。

 幸いにも、日本は訓練の質が良かったからか、死者は出てない。ただ1つの救いだ。


  僕は鳴川湊。中肉中背。大した取り柄のない高校生だった。

 あの日の適性検査から、魔法を使い、長年影から日本を支え続けた組織、「凪」に入った。


 魔法といっても、詠唱とか魔方陣とか、触媒とか、そんなものはいらない。

 人のなかに流れる不思議な力を使い、世界の理を砕き、望みを具現化させる。

 それを安易に魔法と魔力という名で呼んでいる。


・・・空気を操って音を消してる僕にはわかる。みんな息が荒い。それもそうだ。今、守ってくれる人が誰もいない中で取り残され、もうすぐここを怪物の大群が進行してくる。急がないと数万の敵に、たった五人で立ち向かわなくてはならない。

 既に念話するだけの余裕があるのは五人のなかにいない。度重なる連戦で、あれほどまで魔力をつかう魔法・・・


 疲れてるな。魔法を習得できずに未だ訓練中の余程向いてない連中じゃあるまいし。念話なんて簡単な魔法でさえ、もったいないと思える疲労度なんだから。

 みんな肉体強化で精一杯だ。魔力の量が一番多い僕でさえ、消音の魔法しか余裕がない。

 本気でまずい。

 班長で十年来の戦士である「南沢」さんが罠に嵌まって右手と両足を失う大怪我を負った。今考えれば少し立ち止まって治療しておけばよかったかもしれない。僕ら第2小隊には治癒のエキスパートの「みお」がいたのに。

 でも僕たちは、急ぐため転移で送還することを選んだ。

 完全になめていた。


 巨大な盾で、いつも僕らを守ってくれてた南沢さんが抜けて、一気に瓦解した。

 「ゆゆこ」は腹に風穴を空けられ、「まつ」は利き手と剣が折れ、僕は左目に矢が刺さった。

 大きな傷はもうみおが治した。


・・・死ぬのかな。僕たち。凪初の死者が僕たちって、みんな絶望するんだろうな。あれだけの期待を裏切ってるしな。英雄扱いはされないでしょ。

 まああの人がいる限り人類は負けないだろうけどさ。


 もうどれくらい走っただろうか。・・・時間の感覚が無くなってきた。肉体強化のおかげで魔力の続く限り走り続けることができる。敵の進軍速度を上回ろうとしているので、瞬間の回復分の約半分がそれで持っていかれる。更に僕は消音の魔法を使っている。五人分を足音まで消している。これでもうほぼ全ての回復分が持っていかれている。

 つまり、僕は雀の涙程度しか回復していない。いや、足場によってはむしろ減っている。このままじゃ、僕は戦いになっても役にたてないだろう。

 かといって他の皆が魔力に余裕があるかと言えば、全くない。

みおはまつの腕を後遺症がないように丁寧に回復をしているし、まつとゆゆこはそもそも肉体強化だけで限界だ。「ゆかり」は索敵をしている。


・・・現実なんてこんなもんだよね。拠点への一本道。ここ以外は荒れ地で通れたものじゃない。どうするべきか。

 敵の第一波は既にここまで進行してきていたんだ。

つまり、ここを突破するにはこの一万は軽く超える敵の中を突破するしかない。

 無理ゲーでしょ。


 今は洞窟の中で隠蔽をして魔力の回復をしている。とはいえ、突破した後の食料の問題もある。最後の方を絶食するとしても、最大であと三日だろう。

 最大魔力の三割は回復するだろうか・・・

 一回の戦闘で使いきるギリギリ位だろうか?どちらにせよ運用を間違えたら終わりだ。三日もあるんだ。しっかり作戦会議をしとかなきゃ。


 今、ゆかりが敵影を・・・まずい。気付かれたらしい。千ちょっとがこっちに、一直線に向かって・・・

 まだ引き込もって二日目だ。魔力はあまり溜まってない。ここは一旦逃げて回復に専念するか、ここで千を叩いておくか。

 ここでドンパチやったら最悪本隊に合流されるか。ここで叩くメリットは少ないか。普通に考えて逃げるにのが最適だろうな。

 まつが粒子砲で洞窟を貫通させて道を作った。とはいうけど、洞窟は崩壊する。それに敵を巻き込むのが無駄のない。



「…ふう」


ここで僕は日記を閉じた。全て1ヶ月前の出来事だ。この1ヶ月、本当のいろいろとあった。

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音の支配者 ユウマ @motonarominn

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