9.わたしと彼女のオカルトな世界

 他にも、この町のどこそこの角には女の幽霊が立っている、とか。去年のお盆は、隣町の浜べに海の妖怪が打ち上げられた、だとか。

 わたし達はいろんなオカルト話をしあった。


「やだ。学校前のビルの上に、こっち見てる男がいる」

「それはね。あー、自分が飛び降りた時に無関係の人を巻き込んじゃったんだよ。死んだ後も成仏できずに下界を探しているのかも」

「なにそれ、しでかした割にはずいぶん小心者じゃない!?」

「なんでさつきが怒ってるの?」


「昨日家に帰ったら、ベランダの干してある洗濯物のところに、紫の着物の女の人がいたよ。早く入れて―って。ただのおばさんに見えたんだけれど、首と手がめっちゃ長かった」

「家族になりたがっていたのかな。良い妖怪だったのかも。首が長いってどれぐらいなの?」

「うーん。首だけで1メートルぐらいかな」

「あ、訂正。それ、絶対に入れちゃ駄目なやつだ!」


「ゆうべ、うるさくて全然眠れなかった。なんかね。枕元を小さい子供っぽいのが走り回ってたの」

「ええー。ほら、でも、子供なら、仲良くできそうじゃない?」

「でも、もっとこう、血だらけっていうか、あんまり幸せな感じじゃなかったなー」

「あ、そうだ。きっと神様がね。早くに死んだ子供達が可哀そうで、一緒に遊んでくれてたんだよ!」

「……。……わたしの頭の上でか!?」


 わたしが見たものを一つ一つ切り出していって、舞ちゃんがそれに注釈をつけて、解説をつけて。そうして盛り上がっているうちに、わたしと舞ちゃんの作り上げた世界はどんどん大きくなっていった。


 今夜もあの声がやってくる時間になった。

 すでに目を覚ましていたわたしは、道路に面した壁の前に正座して、待ち受けるようになっていた。

 道路ではしゃぐ声たちは、相も変わらず何を言っているのかはさっぱり分からないけれど、以前に比べて発音がしっかりとしてきたようにも感じられる。

 きっと、もう少しだ。と、わたしは思った。

 不思議な事にその声たちは、眠っているわたしを容赦なくたたき起こした後は、どんなに離れていっても、ずっと耳に入ってくるのだった。そうして、いつも通りの順番で田んぼの道を進んでいって……、

 最後には必ず、ある場所で唐突に会話が止まってしまう。まるで楽しみにしていたお祭りが目の前で終わってしまったような寂しさを、後に残して。

 わたしは声が途切れたあと、すっかり冷たくなった布団に潜り込む。

 疑問に思う。

 あんなにたくさんいるのに、あんな狭いお堂の中に納まりきれるのかなって。

 そうして、暖かい眠りの底に引き込まれるまで、彼らの正体について夢想するのだった。 


 一年が過ぎた。

 彼女は中学生に、わたしは小学校の六年に上がった。

 

 そうして、更に半年が過ぎた。

 

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