第26話√絆
末尾「んー、今日も太陽が眩しい。」
眠気を払いながら今日の行動を考えるとどうしても神湊達を倒して終わりたい。これは1日経っても譲れなかった。
そんな気持ちを抱いていたが、もはや日課になっている新緑を起こす作業に着手した。
起こした新緑はどこか清々しそうな顔をしていた。
そんな表情を見たら私の考えなど到底言えるはずなかった。
今日はどう過ごすか話したが、新緑の言うとおりで残っている人間もほとんどいないだろうし、残薬もある。私たちから動く理由が見当たらなかった。
新緑「螢、何か言いたそうだけど・・?」
新緑「起きてからずっとじゃない?その顔。」
少し新緑の表情が和らぐ。
どうやら表情からばれてしまったらしい。
どのようにして話し始めるか迷って、沈黙が流れる。
しばらくして話し始める。
一緒に助け合い、この異質な生活をここまで乗り切った新緑に対して嘘は言いたくなかった。
新緑と会うまでのことはあまり話せなかったが、神湊に対する想いとどうしてもスッキリしないこのもやもやを新緑にぶつけた。
普段とは違う話し方に初めは驚いていた新緑もすぐさま慣れてくれたようだった。
反論もせず、軽い相槌を打ちながら静かに最後まで聞いてくれた。
私は最後に新緑に嫌われたくなかったからか、こんな生活だからと付け加えた。せめてもの反抗のような言葉を思わず口にしていた。
新緑「そうだよね。」
反応は短かった。
新緑「私もここで目が覚めた時は訳が分からなかったし、たくさんの人やそうであった物を倒してきたんだよね・・・」
さきほどの新緑のように私も何も言わずに只聞いていた。
新緑「普段の生活じゃありえないことも分かってるけど、螢がさ、そこまで言うのなら私もその案に乗りたくなってきた!」
どこかで期待していた反応ではあったが、あり得ないだろうと頭の中で排除していた。
新緑「それにあの一緒にいた男、月待って言ったっけ?なんかあいつ気に入らないと思ってたんだよ。」
月待を快く思わないのは本音だろうが、いかなる理由でも私の案に賛成してくれたのは嬉しかったし、頼もしかった。
2人の意見が、いや私の意見を突き通しただけだが、決まった。
さて、決まったのはいいが、どう探すかが問題だった。
お互いの能力では神湊達を見つけることはできない。
新緑「私が何も考えてないで、螢の意見に賛成すると思った?」
ニコッと笑った瞬間だった。
私の身体が宙に舞った。
末尾「え?」
新緑「空から頑張って見つけてねー!」
そう言うと私を島の上空まで飛ばした。
まずはぐるっと一周。
島の全体図は意外と大きいイメージを持った。
初めからこの方法を取っていればもう少し楽が出来たのにと思った。しかし、ふいに新緑の顔が思い浮かび、顔が綻んだ。
高度が高すぎる。少し下げてもらうため、ジェスチャーを送る。
下にいる新緑が両腕で丸を作る。
徐々に下がっていくのが分かる。あまり急に落とさないように彼女なりの気遣いだろう。
今から行うことを考えると、こんな感情が湧くのはおかしいが、楽しいと感じていた。
下がっていくうちに人影を2つ見つけた。
動いていない。そんなゆっくりしているところを見ると、向こうも薬集めは終わっているようだった。
一旦着地し、ここから離れたとこに2つの人影が見えたことを新緑に伝えた。
そうして2回目の索敵。
近づいて見つかっても視界に入れば消えられる。しっかり認識される前に消えられるかが鍵だ。
構えていたが、向こうはこちらに気づいていないようだった。空まで流石に警戒はしないだろう。
人影の顔が認識できる位置まで近づいた。神湊だ。高鳴る鼓動を抑えつつ新緑に合図を送る。
新緑のところに戻ると神湊達を見つけたことを報告する。ここからおおよそ2km。
作戦を新緑に伝える。新緑頼りの作戦ではあったが、新緑は興奮していた。
新緑「ここに来て、多少なりともストレスは感じていたの、こんな私でもね。」
おどけてみせる新緑。
新緑「でも、最後に全部発散させてくれそうな作戦ね。最高、螢!」
右手の親指を立てて、ウインクしてきた。こんなキャラだっただろうか。
私はすぐさま計算に入った。
対象は2km先。どの角度でどんな力で飛ばすかを。
計算している後ろで新緑が「ほんとに同い年なの?」とぼやいていた。
計算完了。
索敵してからそんなに時間は経っていないだろう。あの落ち着きようを見る限り、移動はしていない。
新緑の視野を確保するために海辺に来て良かった。ここなら弾丸となる石や岩が無数に存在する。
新緑「それじゃあ、いきますか!」
目が合う。そしてお互いの口角が少し上がったところで新緑は石や岩を発射させた。
新緑の視界の境界線だろう。
とあるラインから急に石や岩がごっそりとなくなっている。
新緑「ここまでの量いけるとは。」
照れている。
こんな能力を相手にしなくて良かった安堵感を殺しながら、神湊達がいる方向に走り始めた。
2kmは長い。舗装されていない道だと余計そう感じる。
ましてや私は普段運動はほとんどしない。隣にいる新緑は全く平気そうで、私の視線に気づくと再度「ほんとに同い年なの?」と笑っていた。
木々が並ぶ中に石や岩が不自然に落ちているのが見えてきた。
どうやら対象は近いようだ。ここからは気配を悟られないように細心の注意を払って行動する。
月待「神湊さん、神湊さん!」
月待が慌てふためいているのが見える。月待が神湊を介抱している。
どうやら2人のうち1人しか倒せなかったようだ。遠めで見る限り、神湊は腹部から出血はしているようみたいだが、生きているようだった。この手で倒したかったので少し安堵する。
神湊が月待に耳打ちする。
そんな月待が涙を拭って立ち上がる。
末尾「また会いましたね。」
月待「あなたたちですか?これは。」
物凄い怒っているのが分かる。
そんな月待を逆撫でする。
末尾「だとしたらどうします?」
月待「これが答えですよ。」
荷物からペットボトルを出し、水で攻撃してくる。
視界から消えればこの攻撃は受けないことは分かっている。すぐさま能力で姿を消す。
神湊「な、渚君、冷静になりましょう。勝ち目ありません。逃げましょう。」
予定通りだ。
足取りがおぼつかない中、月待の手を取り、逃げるように促す。
落ち着きを見せ始める月待。
だけど、もちろん逃がすわけはない。
隠れていた新緑が月待に対して能力を使う。
神湊が握っていた手から月待の体温が消える。
神湊「え・・・」
戸惑い、手を握ったはずの月待がいた場所を振り返る。
月待がいない。すぐさま地面に目線をやる。
地面がえぐれている。そこに月待であった物体が液状化していた。
神湊「あぁーーーーーーーーーーーーーーーー。」
泣き崩れている神湊にゆっくりと近づいて、手に持っている大鉈を振るう。
あっという間だった。
これでこの生活も終われる。動かなくなったことを確認し、新緑がいるであろう場所を振り返る。
新緑が静観していた。
何も言わず、新緑のところに戻る。
新緑「これで終わったね。」
ギュッと抱きしめてくれた。声には出さなかったが、一筋の涙が流れていた。
薬だけを持って出たので荷物を置いてある場所に戻ることにした。
道中は何も話さなかった。
それを察してか新緑も何も言わなかったが、手を握ってくれていた。
ほんとにこの選択で良かったのだろうか。これだけをずっと考えていた。
しばらくして荷物があるところに着いた頃には日が傾いていた。
本日が最後になるであろう薬を投与している時に新緑がこの重たい雰囲気を壊してくれた。
新緑「後悔してる?」
私は答えられなかった。今までは生きるために仕方なかったが、今回は私欲のためだ。それに新緑も巻き込んでしまった、後悔しないわけがない。
新緑「私はね・・・」
新緑「感謝してる。」
何を言ってるのだろう。顔を上げる。
新緑「やっと顔上げてくれたね。」
新緑「私はね、螢に感謝してる。螢がいなかったらここまで生き残れなかったと思う。出会ったのは偶然かもしれないけどね。」
末尾「・・・」
新緑「あんまり言葉にしにくいんだけどね。ほんと感謝してるんだから!だからさ、そんな螢の気持ちが見れたのは嬉しかったんだよね。」
末尾「・・・」
新緑「だから私は協力した。良くないことだったかもしれないけど、こんなよく分からないとこにいるんだから、少しくらいはね。」
おどけて見せた新緑に対して、涙が止まらなかった。
そんな私をまた抱きしめてくれた。今度はさらに力強く。そんな新緑の気持ちもあってか、私はしばらく泣き止まなかった。
泣き止んだ頃にはすっかり暗くなっていた。
新緑の顔を見るとニコッと笑ってくれた。
食事の準備をし始めたときに気づいた。新緑の頬にも涙の跡が残っているのを。
明日で最後だと思うと、安心した。いや、隣に新緑がいるからかもしれない。
迎えが来ると綴られていた手紙を信じ、その晩は寝ずに手を固く繋ぎながら太陽を迎えた。
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