第24話

結局昨日は何も起きなかった。


きっと野津幌の作戦なのだろう。気を張らせておいて、身体を休ませないために。


対策は立てたつもりだ。これが実際上手くいくかは分からない。失敗したら新緑共に死ぬかもしれない。しかし、こんな状況でも自分の策略がうまくいくかどうかに心が躍っているのが分かった。


朝が弱い新緑を起こそう。どちらかと対峙しないと公開している薬の量では足りない。


日課になりつつあるこの行動は明日で終わってしまうのだろうか、それとも・・


また、不安を感じてしまっていた。


しかし、またも新緑の起きぬけの顔でその不安がぬぐえる。


新緑と再び歩き始めた。


薬の量的に今日でなくなるのは分かっているのにどこにも不安そうな顔を新緑は見せなかった。


そんな彼女の前向きな気持ちは一緒にいるとより魅力的に感じていた。


少し後ろから新緑を見ていたら、急に振り返って笑顔を見せてきた。自分とはつくづく人間性が異なるな、と心で笑っていた。


新緑「どしたの?」


末尾「ううん、なんでもないよ。」


新緑「そう?」


楽しそうに歩いている姿を見ていると、これから何をしにいくか目的を忘れそうだった。


末尾「来たね。」


またあの違和感が襲ってきた。新緑と目を合わせた。手はず通りに動こうじゃないか。


今回は広いとこにでなくても対策は練ってある。


また痺れが始まり、身体が動かなくなってきた。


昨日と同じことをして対策されていないとでも思っているのだろうか。


そんなことを思っていると、今度は余裕の笑みを浮かべた仁淀が前方から歩いてきた。


引きつった演技をして固まってみたが、効いているだろうか。心臓が高鳴っているのが分かる。


あと少し前まで来い。そう強く念じながら仁淀の歩みを見ていた。


仁淀「昨日と同じ目にあって対策なしですか?」


嘲笑しながらこちらに近づいてくる。あと少しだ。


ズドン。


目の前の地面に大穴が開く。


さっきまで嘲笑を浮かべていた仁淀が消えている。


仁淀も想像しなかっただろう。空から岩が降ってくるなんて。


野津幌「仁淀さん!」


姿が消えたのが確認できたのだろうか、木陰に隠れていた野津幌が飛び出してきた。


それと同時に身体の痺れから解放され、動けるようになった。


すかさず走り出す。


穴を覗き込んで仁淀の安否を心配しているところに大鉈が刺さる。


野津幌「ぐっ・・・」


そのまま野津幌を地面に倒し、血を浴びながらも絶命させた。


その一部始終は新緑も見ていただろう。新緑の方に目を向けると真摯な顔つきでこちらを見ていた。


そのまま野津幌が出てきた木陰に向かうと、彼女らのらしき荷物があった。


薬は入っていなかったが、懐から2本取り出し、新緑を欺くことにした。


末尾「菫。薬あったよ。」


新緑「これで最後まで生き残れるね、私たちは。」


含みを持たせた言い方だった。


私は返り血がついたブレザーを脱ぎ、新緑にもたれかかった。


新緑「螢、ありがとね、お疲れ様。」


末尾「ありがと。」


他にも2人で食料を補充させてもらい、その場を発つことにした。


新緑と話し合った結果、無駄に殺生する必要はないという新緑の意見に押し切られてしまった。


神湊達と出会ったら戦う。私たちはもう他の人を無為に追わないことにした。


私としては秘密を知っている神湊を亡き者にしたかったが、新緑の助力がなければあの3人には勝てないだろう。


どう説得するかも決まらないまま最終日を迎えようとしていた。


何か妙案が浮かぶかもしれないという淡い期待を持ちながら。


それから2人で将来について語った。


どの方向に進みたいとか、戻れるかは分からないがこれからの高校生活についても話した。


夜が更けてから新緑は元の生活に戻ってからも友達でいたいなと小声で言ったような気がした。はっきりとは聞こえなかったが、そう聞こえた言葉は私をさらに心強くしてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る