第22話

結局神湊達を見つけることはできずに一夜が明けてしまった。


胸に湧くこのはやる感情を抑えながら朝日を眺めていた。


少しボーっとしていたのだろうか、不意の声に驚く。


新緑「螢、おはよ。早いね。」


寝ぼけ眼の新緑を見ると少し安心する。


今日の動きを新緑と相談してみるが、他に手掛かりもないので神湊達が逃げた方向を引き続き追うことにした。


2人で昨日の3人と今後再戦する際のことを考えて、作戦を論議していた。


末尾「ん?」


何か一瞬だったが、違和感を感じる。


新緑も何か感じたようだ。お互いの目が合う。


新緑「螢も今何か感じた?」


言葉なく頷く。


離れたとこで草が動く音が聞こえた。


すぐさま臨戦態勢に入る。お互い背中をくっつけ、視界を確保する。


すぐは動く様子が見られないため、足元に落ちていた小石を音があった方向に投げてみる。


新緑が小さい声で私がやった方がいいんじゃ?と声をかけてきた。ここで能力のヒントを与えるのはよくないと考えたからであった。


投げた石では反応がなかったが、いまだ緊張感は高まったままだ。


こちらから相手を探る術がないため、一先ず開けたところへ走った。


草の根を分けて、追ってくる音が聞こえる。


どうやら相手は1人だけのようだ。


開けた場所に出た。


後方を確認するが、姿は確認できなかった。


膠着状態が続く。向こうも手の内は見せたくないのだろう。


急に草陰から1人の女の子が現れた。


こいつが追ってきたのか?


今まで生き残ってきた割には少々頼りなさを感じる。恐らく能力が強いか、仲間がいるか。


今の状態では判断ができなかった。


??「ふふふ、初めまして。」


なにやら妖しい雰囲気を漂わせている。今まで会った人間はだいたい年齢が近いように感じたが、こいつからは年齢の近さを感じない。


仁淀「今日まで生き残ってるわけだし、名前ぐらいはね。仁淀有紗、よろしくね。」


ものすごい余裕を感じた。しかし、こちらも引けを取るわけにはいかない。


末尾「私は末尾螢。こっちは新緑菫。私たちの前に現れたってことはそういうことでいいんでしょ?」


仁淀「話が早くて助かるわ。そういうことよ。今なら今日生きてくだけの猶予あげるけどどうする?」


末尾「そのままお返ししてあげるよ。」


嘲笑する仕草を見せる。


仁淀の目尻が動くのが見える。こんなことで表情に出すのはやはり若い証拠なのか、そういう性格なのか。


心配そうな表情を浮かべているに違いない新緑を背後に感じていた。


お互い動けない時間が続く。


末尾「え?」


急に手足が痺れ始めた。動かそうにも動かせない。


仁淀の口角が上がり始める。


仁淀「どう?動けないでしょう?」


確かに動けない。返答してやりたいが、口も動かない。


新緑も反応がない。恐らく同様に動けないんだろう。


草陰からもう1人の女の子が出てきた。


仁淀とは対照的なおとなしそうな眼鏡をかけた私と同じ年齢の子だ。


??「仁淀さん、うまくいきましたね。」


仁淀「うふ、ありがとね、結。」


野津幌「動けないと思いますが、私は野津幌結と申します。」


深々と私たちに向けて頭を下げた。


仁淀「なら早速こいつらの荷物見せてもらおうかしらね。」


ゆっくりと近づいてくる。


私の能力が有効かどうかは分からないが、もうここまで来て試さないわけにはいかなくなってきた。


仁淀と野津幌の前から消えてみる。


仁淀はギョッとした様相を見せる。野津幌は特に表情には出さなかった。


それと同時に全身の痺れがなくなるのを感じる。


この島の能力を持つ人間は視界に入っているという限定がどうやらある可能性が高い。


動けたのを確認してから新緑の姿も2人から認識できないようにさせる。


新緑と目を合わせ、反撃体勢に入ろうと思った時だった。


また、違和感を感じる。歩いていた時に感じたものと同じだ。


野津幌「仁淀さん、2時の方向、5.5mです。」


仁淀は見えないなりにも野津幌の指示の場所に攻撃を仕掛ける。しかし何という早さだろうか。普通の人間の早さではないことが理解できたところで、脇腹に痛みを感じる。


末尾「ぐっ。」


蹴りをまともにくらった。


すかさず大鉈で反撃しようにも距離を取られ、かわされてしまう。


野津幌「相手が弱ってる隙に追撃します、仁淀さん。」


仁淀「了解。結、指示をちょうだいな。」


野津幌が再度指示を行う。


どうやら私たちのいる場所は能力でばれているみたいだ。またもやものすごい速度で仁淀が指示された場所に攻撃をしかけようとしていた。


仁淀の目の前を大木が横切る。普通の人なら当たっていたタイミングだったはずだ。


あと少し、いや余裕があったように感じた。避けられてしまった。


避けられたことも考え、第二投を新緑が投じる。今度は仁淀ではなく、野津幌に対して。


野津幌は避ける体勢をしなかった。


避けるつもりがないのか。仁淀も助けそうな雰囲気はない。


ドン。メキメキッ。


木がぶつかり崩れる音が聞こえた。


猛スピードで野津幌に向かっていた大木が黒い壁に阻まれた。


何だろう、金属?


大木の勢いがなくなったところで、黒い壁も崩れていく。


野津幌「仁淀さん、一旦引きます!」


仁淀「了解。」


そう言うと、仁淀が素早い身のこなしで野津幌を脇に抱え走り去っていった。


新緑が第三投、第四投と大木を放つが、脇に抱えられている野津幌が黒い壁で防ぐ。


やはり仁淀の脚力は冷静になって見ても、人外だと感じた。


それに野津幌が最後に言い放った、一旦の意味とは。


新緑「大丈夫?螢。顔、青いよ?」


末尾「菫、ありがと。助かった。」


新緑「いいって。けど・・」


少しの間がある。


新緑「螢、いつも1人で戦おうとしてない?もっと私を頼ってくれてもいいんだよ?」


そうかもしれない。自分の能力だけでどうにかしようとして毎回新緑に助けられている。


新緑「次からはちゃんと私を頼ってよね。」


そう言って、差し延ばされた手を頼って起き上がった。


幸い、クリーンヒットしなかったため脇腹は軽症みたいだ。


ここに来て神湊達、野津幌と仁淀、新たな敵となる陣営が増えた。


最終日までに生き残れるだろうか、少し不安を感じる。


新緑の頼りになる表情を見て、その不安も晴れる。


新たな敵が再度襲ってくる可能性が高いと判断したので、岩が多い場所に陣を構えることにした。


それにしても野津幌は何故こちらの場所が分かり、新緑の攻撃も防げたのか。


それを新緑と議論していた。


新緑「私の攻撃を防いだあの黒い壁ってなんだろう、何か金属っぽかったよね。小学生のとき砂場で集めた砂鉄みたい。」


末尾「それ・・そうだよ、菫!」


私たちの数回にわたる違和感、身体が動かない理由、地面から出てきた黒い壁。おそらくは電流ではないだろうか。


そんな憶測を立てながら、神湊や野津幌対策を話しているうちに夜が迫ってきていた。


隣に当たり前にいる新緑に対して、断金の交わりのように感じている自分がそこにはいた。

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