第16話
末尾「ん?」
何やら冷たい感じで目が覚める。
露出された足に雨が当たっている。昨日新緑が作成してくれた簡易的な屋根を見上げながら、昨晩より雨風が強くなっていると感じる。
眠たい目をこすりながら身体を起こすと、濡れていない箇所はほとんどなかった。
新緑「おはようございます。ごめんなさい、私が作った雨除けが役に立たなくて・・」
末尾「ううん。こんなに風が強くなるなんて私も想定してなかったし。」
身を寄せ合いながら、濡れない場所で今日の行動をどうするか話し合っていた。
室戸「へぇ、木で屋根をねぇ。」
2人がいる場所から少し離れたところで、室戸が不敵な笑みを浮かべている。
室戸「木を動かせる能力ということか。怪力の類か。」
相手は普通な女の子2人。不意を打たなくても勝てる自信があった室戸だったが、相手の能力もまだ分からないので慎重にならざるを得なかった。
室戸「さて、どうやって仕留めるかねぇ。」
考えを巡らせている間も雨風は強さを増していく。
私は新緑に天気の回復を待つことを提案した。
幸い、薬の所持数と食事等には余裕があったし、雨だと視界が悪く、アスファルトではない島の地面はぬかるむため戦闘に不向きだと考えた。
新緑は少し不安そうだった。当たり前だ。一昨日見せた薬の本数では明日でなくなってしまう。この問題をどう解決するか、少し考えた。
末尾「実は・・・」
ためらった表情を見せながら私は3本の薬を新緑に見せた。
新緑「これって・・」
末尾「ごめんね、この島に来て一度仲間だと思ってた人に裏切られたことがあるの。けど、菫と今まで一緒にいてみて、もう一度信用してみようと思って。」
決心と不安の狭間で揺れ動いている少女のような表情ができただろうか。タイミングが少しわざとらしかったかもしれない。
新緑「・・・」
新緑の表情が少し曇った。
しかし、すぐさま元に戻る。
新緑「辛かったね、螢さん。私は裏切らないよ。」
ギュッと新緑に抱きしめられる。少し泣いているのだろうか。すぐさま解放はしてくれなかった。
室戸「仲良しごっこはここで終いにしようや。」
ボソッと、この雨風の強さだ。誰にも聞こえるはずもなく、まるで自分自身に言い聞かせているような口調で。
室戸は目の前にある木を少し抑え気味に殴った。
新緑「ぃ・・」
なんだ、急に。新緑の表情がゆがむ。
末尾「菫?」
足音が聞こえた。私は新緑からその音へ視線を向けた。
そこには見覚えのない男が立っていた。
新緑を庇うようにその男に対峙した。
室戸「自分は室戸獅鬼ってんだ。よろしくそして・・・」
言い終わる前に地面に対して、今度は先ほどのように威力は殺さずに拳を振るった。
新緑「ぐふっ。」
またも何かに新緑がダメージを受けていることが分かる。
末尾「(今のモーション・・・もしかして・・・)」
室戸「分かったか?察しがいいな。これが俺の能力だ。衝撃移動。便利だろ?」
私は新緑の方に目を向ける余裕もなく、間違いなく危険であろう男の動作から目を話せなかった。
後ろ側から音がしない。新緑は気絶しているのだろうか。
室戸「今まで生き残ってるってことは薬持ってるんだろ?俺がもらってやるよ。」
笑いながら話してくる。不愉快だ。
下に転がっている石を室戸が蹴る。すぐさまその衝撃が私の足に来る。
末尾「くっ。」
痛そうな私を見ると、更に笑みを増している。ほんとうに不愉快だ。
私は心の中で嘲笑していた。
室戸「何?」
驚く様相の室戸。それもそうだ。対峙していた相手が視界から消えるのだから。
この雨音のおかげで近づく足音も相手には聞こえない。
見えていない相手には当てられないのだろう。地面にある石を蹴り続ける室戸だったが、私がいないところの地面に落ちている小枝が宙を舞う。
室戸の1m近くに来たところで、地面に落ちている石ころを手に取り、思い切り室戸に投げつける。
その石ころは室戸のわき腹に当たり、悶絶した顔をする室戸。
第二投を投げようと近くの石ころを拾おうとした時だった。
室戸が振りかざした拳が私の頭に当たる。
末尾「いった・・・」
室戸「ははは、見えたぞ!」
末尾「(しまった!濡れた地面に足跡が・・・)」
今度は私の足目掛け、思い切り蹴りを入れてくる。能力を使っても遅かった。
まともに男の蹴りを受けた私は立っていることができなかった。
室戸「一時は焦ったが、形勢逆転だな。」
再度、不愉快な笑みを浮かべる。
室戸「薬は頂くぜ。」
そう言うと、拳を思い切り振りかざした。
ドスン。
何の音だ。
目の前を何かが横切ったように見えた。
新緑「螢から離れろ!!」
ものすごい剣幕をした新緑だった。
再度ものすごいスピードの何かが目の前を横切る。横にあった木に当たったと思ったら木が欠け、メキメキと倒れ始めた。
室戸は何がなんだか分からなかった様子だった。
新緑「早く離れなさい。次は当てるよ。」
ドスの利いた声だった。
室戸は悔しそうな顔をして何も言わず、立ち去っていった。
新緑が私のところに駆けつける。
新緑「大丈夫?螢。」
末尾「ありがとう、菫。助かったよ。」
痛みは引いていなかったが、折れてはいなさそうだ。
私の大事を確認した新緑は昨晩過ごした簡易的な寝床に改修を加え、私をそこに連れて行ってくれた。
末尾「借り、できちゃったね。」
新緑「何言ってんの?螢。私たち友達でしょ?友達がやられそうになったら助けるに決まってるじゃない。」
末尾「そうだね、けどもう一度言わせて。ありがとうね、菫。」
以前テレビで見たと嬉しそうに言っていた倉敷が作ってくれたマグネシウムライターで火を起こし、暖を取ることにした。
しかし、依然雲は厚く、もう太陽が昇ってもおかしくない時間なはずなのに暗いままだった。
この天候では外を歩くほうがかえって危険だと判断し、室戸に場所が知られている現状でもこのまま次の日を迎えることにした。
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