第13話
頬が叩かれる感触を感じ目を開ける。
猫又「そろそろ見張り変わって欲しいっす。」
月待「そろそろですか猫又さん。」
猫又「呼び捨てにするはずっすよ渚さん。」
眠気眼をこすりながら起き上がる。
月待「ああ、そうでした。ところでさっきまであったはずのフカフカのベットと枕、塩味の効いた鮭はどこに。」
猫又「今、枕以外は実在しないっすよ。」
胸を張り自信満々に自分の足はぽんぽんと叩く美子々。ここは素直に感謝の言葉を伝えておくことにする。顔を近づけ耳元で囁く。
月待「君の膝枕は世界一だよ、美子々。」
少しの誇張と気取った言い方をする。美子々の顔がみるみる赤くなっていく。
猫又「お、お、お先に失礼するっす!」
そういうと自分のバッグを折り畳み、頭に敷いてさっさ横になってしまった。お先と言っても神湊は寝ているし自分は起きたばかりだが。しばらく経つと寝息が聞こえ始める。話し相手もいなくなり、どうやって時間を潰そうか考える。
日が昇りしばらくすると神湊が起きる。
月待「おはようございます神湊さん。」
神湊「あ、おはようございます月待さん。」
しばしの沈黙。2人だけで話すというのも島に来る前も来た後もなかったため、会話が弾まない。そんなことを気付き、気遣ってくれたのか神湊が切り出す。
神湊「えっと、月待さん早起きなんですね。」
月待「自分朝型でしてね。見張りのために夜中から起きてましたが。」
神湊「そんな!それじゃあ全然寝てないじゃないですか!今からでも遅くないですから寝てください!」
身を乗り出し、すごい剣幕で迫られる。
月待「いや、大丈夫です。猫又さんと交代で見張っていたので…。」
神湊は何か言いかけたが開けていた口を閉じて複雑そうな顔をする。
神湊「私の勘もそう言っていますから信じますけど、体調は万全にしておいてください。その、心配ですから…。」
真っ先に戦闘する自分のことを心配してくれているようだった、
月待「そうですね体調には気をつけます。というわけで体調を万全にするためにそろそろ朝食を食べませんか?自分お腹が減ってしまっていて。」
神湊「それもそうですね。朝食にしましょうか。」
2人で同時に積み上げている食料の中からパックゼリーを選ぶ。キャップを外し、口をつけて中身を吸い上げる。飲み干し、2つ目のキャップを外した時、美子々が起きる。
月待「おはようございます美子々さん。」
美子々はこちらを向くと半開きの目のまま四つん這いで向かってくる。
猫又「お父さんそれ美子々にもちょーだい。」
お父さんと呼ばれたことに唖然としている間にも寄ってくると、半回転で尾頭を足に乗せ、仰向けになり口を開ける。手に持っているパックゼリーと美子々の顔を交互に見合わせた後、意味を理解し、パックゼリーを口に運ぶ。神湊のほうを見ると顔が引きつっている。
神湊「名前呼び合ってますし、膝枕もしてて親しい感じだとは思ってましたがまさか…。」
なにかすごい誤解を受けている気がする。弁解しなければ。
月待「いや、これは多分猫又さんが寝ぼけているだけで…。」
神湊「いや、分かってます。こういうのが好きな人もいますからね、はい。だから何も言わなくて、取り繕わなくていいんです。私はそういう月待さんも許容しますから。」
いや本当に違うんです神湊さん話を聞いてください。どうやって話を聞いてもらうか考えていると、美子々の瞼も上がっていく。そして自分がしたことを思い出したようだった。
猫又「ははは、違うんっすよ渚さん。これはあれっす。あれだから深い意味はなくてっすね。えーっとははははっははは。」
月待「分かってます。だからあの誤解を受けているであろう神湊さんの誤解を解くためにですね…。」
猫又「本当に違うんっすよ。だからっすねまず自分の言い訳…もとい話を聞いてほしいんっすよ。」
2人を話せる状態になり誤解を解くころには日は頭上に昇り切った昼になっていた。
手を振りながら2人から離れ、森の中に入る。2人が水浴びしている間に自分は美子々の木刀を再度作ることにした。なぜ自分がここ最近毎木刀を作っているのか不思議に感じたが、特に考え込む程のことではないだろう。今までと同じように水を取り出し堅そうな木に目星を付け、水圧のカッターで切り倒す。3本目ともなると多少は手馴れてくる。手ではなく水だが。10分ほどで出来上がる。昨日のことを考えればまだ水浴びしているだろう。まだ暇があるということで今後も何か作るかもしれないのなら、月待作というのが分かるように印を入れることにした。持ち手の底に彫る模様を考える。いろいろ思考錯誤してみたが結局丸印の中に月と入れただけの簡素なものにすることにした。決めるや否やすぐに底に印を付け始める。水圧のカッターで慎重に少しずつ削り丸を彫り、月の字も入れる。月待印の木刀の完成である。それと同時に2人もやって来る。
月待「ちょうどよかった。美子々の新しい木刀ができました。」
木刀を渡す。
猫又「ありがとうっす。あと、あの、呼び捨てはもういいっすよ。」
どうやら見張り交代の時の事を思い出したようだった。だが、そうと分かれば少し意地悪をしたくなってくる。
月待「なんでですか?美子々。」
猫又「普通の呼び方の方がいいっすよね?それに今思うと渚さんにはお世話になってますし、あの提案は図々しかったかなーって思ってっすね。だからその呼び捨てはもういいんっすよ?」
月待「いや男に二言はありませんから。自分がそうするって了承したんですから気にしなくていいんですよ?美子々。」
猫又「いや本当にもいいんっす。お願いしますから普通に『猫又さん』って呼んでくださいっす。」
月待「わかりましたよ猫又さん。」
さすがに落としどころだと思い呼び方を戻す。元々自分も恥ずかしく辞めたかった、願ったり叶ったりである。
月待「あ、そうだ。神湊さん少し木刀貸していただけますか?」
神湊「え、あっはい分かりました。」
神湊の木刀を受け取り、持ち手の下のほうに水圧のカッターで丸と丸の中に月と彫る。それを再び、神湊に返す。
月待「些細なことなんですが、自分の印を付けておきたくてですね。」
神湊「ありがとうございます。大切にしますね。」
そういって抱きかかえる神湊。なぜそこまで喜ぶのかと思ったが、きっと水浴びのあとで気分が良くなっていると解釈する。
月待「準備もできましたし、今日の薬集め開始しましょう。」
猫又「そうっすね。早速取り掛かるっす。」
神湊「あの、ちょっと待ってください。」
探し始めようとしたとき、神湊に止められる。
月待「どうしたんですか、神湊さん。」
神湊「今日は薬集めはやらないことにしませんか?」
神湊の提案に首を傾げる。薬は毎日使われているのだ。一刻も早く集めなければならないはずである。神湊は続ける。
神湊「その、今日で渡されていた分の薬が無くなる日なんです。だから頑張って倒しても薬を持っていない人だったら頑張り損なんです。だから今日は慣れない環境で疲れてるでしょうから極力戦わずに休む日にしたいんです。」
神湊の言うとおりだった。昨日で3本目を使い切り、今日は薬を持っていない人が大量に生産される日だった。
月待「そうですね。それじゃあ今日は明日に備えて休みますか。」
猫又「了解っす。実は自分もちょっと疲れてるな~と思ってたところっす。」
こうして4日目は何もしない事に決まった。河原に戻ると雲が空を覆おうとしていた。
猫又「こりゃ降りそうっすねー。雨宿りできる場所探さないとっす。」
月待「それなら自分が地面が盛り上がっている場所で穴を掘りますよ。」
川に沿って上流に行き、山の麓で穴を掘り、そこで過ごした。幸いにも降り出す前に穴に入れたが、夜になっても一向に降りやむ気配はなく、雨は地面を叩き続けた。
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