第11話

結局、徹夜してしまった猫又を寝かせると、動き始めたのは昼になったしまった。自分も膝枕をしようかと提案したのだが、なにやら焦った様子で断られてしまった。


4時間後くらいに起こしてくれと言われたが徹夜をさせてしまったため、起こさずに寝かせ続けた。猫又が起きたのは昼時を過ぎたころだった。


自分は昼食を、猫又は朝食…といっても昼だが猫又の体内時計基準では朝だろう。食後は少し打ち合わせをした。昨日と同じく薬を集めるため人を探す、という意見が一致した。あと8日必要な量は2人分で最低で10本は集める必要がある。移動のため荷物をまとめていると、下流からこちらに向かってくる人影が見えた。警戒をしつつも幸先がいいと歓喜をする。ここは河原で川が近くに流れている。武器になる水がいくらでも上流から運ばれてくる、圧倒的に優位に進められると思ったからだ。だが、すぐには攻撃をしない。少しでも近づかせ逃走を困難にさせる。近寄ってくることにって見慣れた顔だということがわかる。その人物は同じ高校に通っている。


月待「神湊さんですか…?」


神湊「月待さん・・・?」


まさかこの状況で知り合いに会うとは予想していなかった。


猫又「渚さん知り合いっすか?」


月待「ええ、同じ高校に通っていまして。」


猫又に簡単に関係を説明する。猫又に説明をしていると神湊が問いかけてくる。


神湊「私を仲間にしてくれませんか…?」


猫又のほうを見る。猫又もこちらを向いたらしく顔を見合う。


月待「少し待ってください。」


猫又と相談を始める。


猫又「自分は反対っす。これ以上人が増えても集める数が増えるだけっす。」


ばっさりと切り捨てようとする。が、自分も退くわけにはいかないためすぐさま反論をする。


月待「ですが、人数が多いほど勝つ確率も上がります。昨日の片桐との戦いだって下手をすれば負けていた可能性もあります。もう一人くらい戦ってくれる人が居たって…。」


猫又「残念っすけど、それはないっすね。こうやって売り込みに来ている時点で一人じゃ集められないからっすよ。つまり非戦闘向きの能力。自分が言うのも何っすけど人に戦わせて自分は寄生をしにきてるだけっす。それに信じられる人間かもわからないっす。」


次々と痛いところを突いてくる。というよりこの状況だ。そう簡単に合ったばかりの人を信じろというのが無理な話だろう。だが…


月待「神湊さんは自分の知り合いで、ある程度どのような人物か知っている自分が保証する。それだけは足りないでしょうか。」


猫又「正直不安っす。それに知ってるって言ってるっすけど、この状況っすからね。どんな行動するかわかったもんじゃないっす。寝入ってる時に薬取られて夜逃げされたら困るんっすよ。それに知り合いって言ってるってことはそんな深い関係じゃないんっすよね?」


月待「それでも…。」


言葉を続けようとするが猫又が制止する。


猫又「分かったっす。どうしてそんなに拘るのかわからないっすけど、仲間にしたいんっすよね?」


頷く。猫又は少し考えたような後、


猫又「ただし条件があるっす。」


いたずらっぽく笑う。子供のような無邪気な表情で。


猫又「渚さん、これから名前で呼んでほしいっす。もちろんさん付けは無しっすよ。」


あまりも脈絡のない話に面を食らう。


月待「急にどうしたんですか、猫又さん。」


猫又「これから一緒に行動し続けるんっすから、堅苦しい呼び方は無しっす。そっちの提案を受けるならこれぐらい、いいっすよね?」


月待「分かりました。猫まt、美子々…さん。」


猫又「さん付けはなしっす!」


月待「み…み…美子々。」


絞り出すような声でつぶやく。初めて女性の名前を言う抵抗感があり、恥ずかしさがこみ上げてくる。猫又は満足気な顔をする。言葉にするなら「してやったり」と言った表情だろうか。


猫又「それと仲間にするならはっきりさせてかないといけないことがあるっす。」


猫又は神湊の方を向く。


猫又「神湊さんでいいんっすよね?仲間にする前にあなたの能力を教えてほしいっす。」


神湊「えっと、私の能力は第六感です。ここに来たのも頼れる人がいないかなって思ってたらこっち方向に来たらいいと感じたからなんです。」


猫又「本当かどうか怪しいっすね。」


猫又の言う通りだった。自分のように外部に影響を与える能力はすぐに実践すればわかるのだが、自分に影響を与えるようなものは見ることができない。猫又もそれがわかっていて、初対面の時に五感を強化しているのを証明するために、視力と嗅覚を使ったことを言ったのだろう。


だが、今回は完全に本人のさじ加減である。


月待「なんとかして確証を得られませんかね?」


猫又「方法はあるにはあるっすけど…。」


猫又がこちらを見てくる。少し品定めをされているような視線を感じる。


猫又「少し騙すような事をするっすけど、仕方ないっすよね。じゃあ自分に任せて欲しいっす。」


そういうと神湊の方に近づく。


月待「ちょっと待ってください何をするつもりですか、美子々さん!」


猫又「さんを付けないでください!もう一回!」


月待「何をするつもりなんですか…美子々。」


猫又「お誘いっすよ。この島に送られてから3日目っすよ?さすがにお風呂と贅沢なことは言えませんが水浴びで体くらい清めたいじゃないっすか。」


裸の付き合いで人柄を掴もうということだろう。自分も賛同をする。


猫又「というわけで渚さんはあっちに行ってくださいっす。」



音を出さないよう細心の注意をしつつ匍匐前進をする。2人は今丸腰どころか文字通り丸裸のはずだ。襲われたらひとたまりもない。自分はそれを守る義務がある。だから目の届く位置に居なければならない。だがそのまま来た道を戻ったのでは警戒されているだろうからすぐ2人にバレてしまう。だから少し下流の方まで行き川を渡った。こちら側なら警戒はされていないはずだ。そうあくまで守るためである。深い意味はない。そう、だから自分はコソコソとこのようなことを…。後頭部が踏まれ、顔が地面に押し付けられる。


猫又「こんなところでこんなことして何をしてるんっすかね渚さん?言い訳くらいは聞くっすよ?」


昨日からよく聞くようになった声が上から聞こえる。


月待「深い意味はない。君たちを守ろうとこうやって近くに待機していただけだ。」


猫又「そうっすか。わざわざ川を渡って対岸のほうに来るんっすね。」


押しつけが強くなる。


猫又「騙して悪いっすけど自分たちすぐに水浴びはせず、覗こうとしてこようとしてくる渚さんの位置を神湊さんの直感で当ててもらったんすよ。見事に的中です。能力に嘘はついてないってわかりましたが…。まさか本当に覗こうとするとは思いませんでしたっす。これはあれっすよね?美子々の意図を汲み取ってわざとこうして覗こうとしようとしに来たんっすよね?」


より一層踏み付けが強くなる。踏みにじってくる。


神湊「あのそれ以上強くしたら息ができなくなるんじゃ…。」


月待「ふぁいそうです。美子々の意図を読んでこういうことをしてました。」


猫又「じゃあもうしないっすよね?当然ですよね?能力は嘘じゃないってわかってこれ以上覗こうとする理由もないっすから離れたところで待機しててくれるっすよね?」


月待「はい、もちろんです。」


猫又「神湊さんどうっすか。」


神湊「いやそんな都合よくわかるわけじゃ…。いや、もう覗こうとする気すらないみたいと思いました。」


後頭部の圧力が解かれる。声のする方向を向きながら立ち上がる。川と真逆の方向に走る。去り際に言う。


月待「あちらで木刀でも作ってます。」


涙はこらえる。戦果が多少でも得られなかった場合泣いていたかもしれない、と思いながら。




神湊用の木刀を削り終え、雑念を振り払うように試しに振っていると、髪に水気を帯びた2人が戻ってくる。


猫又「よく考えたらタオルもなしに入ったっすから、手で水払いのけてたらだいぶ時間かかっちゃったす。髪は自然乾燥させるしかなくて困るっすね凛さん。」


神湊「そうですね。ドライヤーでもバッグの中に入れといてくれるよよかったんですけどね。」


2人はだいぶ打ち解けているようすだった。持っていた木刀を神湊に差し出す。


月待「あの、これ護身用にどうぞ。戦闘は自分がやりますけどもしもってことがあるので。持ちづらかったりしたら言ってください調整しますから。」


神湊「ありがとうございます。」


そう言いながら神湊はおじきをする。そして顔を上げる。


神湊「そして今日からお世話になる神湊 凛です。能力は第六感、よろしくお願いします!」


再度おじぎをする。


猫又「自分も改めてするっす。猫又 美子々。能力は五感強化っす!」


月待「自分は月待 渚です。能力は水の操作です。」


こうして仲間が増えた。



猫又の起床のときにはすでに昼過ぎであり、その後神湊の件でだいぶ時間が経ってしまっていた。そのため薬集めを急いで行わなければならなかった。一日に…何人が今いるのか分からないが…薬は毎日確実に減っている。その上、人数が増え必要数が増えたため、急ぐ必要があった。だが幸いなことに猫又が人の喋り声を拾うのは早かった。すぐに猫又を抱き上げ、森の中に声がしたという方向に向かう。抱き上げた時神湊がキョトンとした顔をしていたが弁明している時間はない。少し走ると、開けた場所に出る。というより開かされた、という表現の方が正しいだろうか。多数の木が立っていたであろう証拠にいくつかの切り口が焦げ付いた切り株がある。その中心で一人座ってる男がいる。猫又を下ろし、


月待「神湊さんもここで待っていて下さい。」


そう言って、不手地の時と同じように相手の頭上に水を待機させる。


月待「すいません、そこの人!」


男はこちらを向く、それと同時に水を顔にまとわりつかせる。男は驚いた表情をしながらも、とっさに水を払いのけようとする。が、水が落ちることもせず、顔に纏わり続ける。だが、男の行動はそれで終わらなかった。急に手をこすり合わせる。そしてこんどは顔を手で覆うように押し付ける。直後、白い蒸気が出始める。手を下に払うと、顔を覆っていたはずの水はきれいさっぱりなくなっていた。


???「今のはあんたのか?いや、答えなくていい。どうせ無関係でもあんたを今から倒すんだからな。」


言い終わると同時に向かってくる。なぜ水が消されたのか、それは謎だったが、今するべきことは迎撃だった。腰からペットボトルを取り出し、中の水を空中に出してトンカチを創る。そして水のトンカチをぶつけようとする。相手もこれに反応、受け止めようとしてくる。受け止めようとした手がゴキッと嫌な音を…立てなかった。代わりにジュッと短い音が聞こえると、そこにあったはずの水のトンカチが掻き消えていた。あまりのことに呆然として、回避が遅れる。男の拳が左肘をかする。焼けるような感覚が肘の部分から送られてくる。苦痛の表情をしながらも低姿勢になり、足払いを敢行。転倒させると、すぐに距離をとり、肘を確認する。肌の色が赤くなり、水ぶくれができていた。「これは火傷か。」直感する。男の手は高温だと。水が消えた理由も男の手に触れたことにより、蒸発したのだろう。こうなると分が悪い。地面に吸収された水や、氷のように、水だと認識できないものは操作できない。水蒸気もまたしかりだ。つまり、このまま打開策もないまま蒸発させられ続けた場合、手持ちの水を全てなくすことになる。そうなると自分の能力などあってないようなものだ。川まで戻れば水は手に入るがそこまで逃げ切れるだろうか。


月待「どうやらその手、とてつもなく熱くなっているようですね。」


会話で時間を稼ぎつつ、策を考える。


???「お、さすがにバレるか。まあ、あんたの能力もだいたいわかったし、五分五分ってとこだな。」


火傷した肘の周りに腕を一周させるように氷を固めて冷やす。応急処置はできたが、肘が氷で固定されてしまったため、動かせなくなってしまった。


羽佐間「うおっ、氷になった!いいもん見せてくれたから、お返しになるかわからんが、自己紹介してやるよ。俺は羽佐間 弔三。弔うって字と漢数字の三でちょうさんって読むんだ。変な名前だろう?」


聞いてもいない名前を喋り始める。その間に空になったペットボトルを投げ捨て、背負っているリュックサックから上部に入っている新しいペットボトルを2本取り出す。ポケットに一本入れ、もう一本は手に持つ。


羽佐間「あ、あと勘違いしてるかもしれないから言っとくが、俺の能力は手が熱くなるじゃなくて、摩擦熱の増大だ。」


月待「紹介と能力の説明ありがとうございます。だけどいいんですか?自分から言ってしまって。」


羽佐間「はは、いいんだ。今の攻防で優劣がはっきりしたから。あんたは俺に勝てない。どうやら水を操るみたいだが、全て蒸発させちまえば関係ないからな。」


月待「そうだといいですっね!」


水の針を飛ばす。羽佐間の手に掴まれて、蒸気となって消える。図星を隠すために攻撃したが、攻略の手口は一切思いついていなかった。




どう見ても月待は押されていた。寄らせまいと攻撃をしているが、全て手で受け止められている。


神湊「あの、美子々さん。これ助けに行った方がいいんじゃ…。」


猫又「ダメっす。助けに出たところで戦闘できない自分たちの能力じゃ渚さんの足を引っ張るだけっす。」


自分の提案はすぐに否定される。だからといってこのまま、追い詰められていく月待を見てはいられなかった。心情を察してくれたのか美子々さんが会話を続ける。


猫又「落ち着いてくださいっす。まだ劣勢なだけっす。それに本当に敗北ってなったら助けに出るっす。」


神湊「えっ、それってどういう…。」


猫又「文字通りっす。渚さんがやられそうになったら2人で飛び出るっす。相手も油断してるはずっすから一発は入れられるはずっす。その後は自分が引きつけるっすから、その間に凛さんは渚さんを連れて逃げてくださいっす。」


神湊「それじゃあ美子々さんが危険じゃないですか!」


猫又「自分逃げるのだけは得意っすから安心してくださいっす。」


そう言って軽快に笑う美子々。反論しようとしたときに、脳に一つのことが思い浮かぶ。「後ろ」


と。


神湊「美子々さん危ない!」


隣にいた美子々さんを押す。自分もその勢いで美子々さんとは反対側に移動する。直後に自分たちの居たところに手刀が振り降ろされていた。腕を辿っていくと、それが男が振り降ろしたものだとわかる。男から立ち上がり、木刀を構える。美子々さんも木刀を構えていた。


猫又「言葉を掛けない挨拶は初めて受けたっすよ。」


???「ははは、当たってないから受けてはないないだろ?」


男は微笑しながら答える。男との間合いを取りつつ、美子々さんのほうに近づく。


???「で、こんなことした後で順序が逆だと思うんだが、お嬢さん方薬を全部くれないかな?」


男の問いを無視して美子々さんと相談をする。


神湊「どうします?月待さんに合流しますか?」


猫又「正直納得しかねるっす。あっちはあっちで手一杯見たいっすし、負担かけられないっす。」


美子々さんが言い終わるのと同時に自分も「助けを求めたら負ける」と思いつく。


神湊「そうですね私の勘もそう言ってます。」


猫又「となると合流は無しっすね。となると考えられるのは…。」


???「無言は否定って捉えていいのかな?正直こっちも気乗りしないから、渡してくれるとありがたうおっ!」


美子々さんの斬り上げが回避される。だが、自分もすかさず横払いによる追撃をする。


???「おっと。」


これも回避される。だが大きく間が空く。


???「そういう気ならこっちも本気でやらせてもらう。」


男は指を平にし、指の隙間を無いようにする。ようするに手刀の形だ。


猫又「自分が攻撃引きつけるっすから、凛さんはあいつの背後に回って隙があったら攻撃してくださいっす。」


神湊「なんでそう危険な役目を請け負おうとするんですか。私だって戦えます。」


猫又「囲んで叩くのは基本っす。後ろを取られてると気が散って前も集中できなくなるっすからね。そしてまだ不完全で、できる確証はないっすけど近接戦なら考えがあるっす。だから任せてほしいっす。っと来るっすよ!」


男がこちら飛びかかってくる。後ろ髪を引かれる思いだったが、美子々さんを信じて男の後ろを取るため、行動する。




凛さんが背後を取りに動いたのを確認すると、目の前の男を注視する。男は凛さんを一瞥するが、そのままこちらに向かってくる。そして上に掲げた手刀を振り降ろしてくる。木刀を頭の上で横にする。水平にはせず、左に少し傾け、男の手刀を左にそらす。右から男の左手の手刀が横を薙ぐように向かってくる。これをバックステップで回避、着地するとつま先に力を入れ、さっきとは逆方向、つまり男のほうに移動をして突きを繰り出す。右に回避するが突き出してた木刀を横に振り、当てる。当てた衝撃が木刀を通して手までくる、逆らうことなく利用して男から距離をとる。


???「いてェ…」


あまり喰らっていない様子だった。さすがに剣術の基礎も習っていない自分の剣戟では軽いようだ。


???「しかしあんたの動き、こっちの動きがわかってるかのように流れが鮮やかだったな。超反応、未来視、それともただの直感か?能力教えてくれるとありがたいんだがな。」


猫又「教えてほしいなら自分の方から公開したらどうっすか?まあ教える気はさらさらないっすけど。」


???「そうだよな、自分からバラすわけないか。じゃあこっちで勝手に推理させてもらうぜ。」


そして再び走りこんでくる。倒す必要はない。渚さんの戦闘が終わるまで時間を稼げばいいのだから。五感強化による視力上昇により、相手の動きの予備動作から動きを予測は可能だということが分かり、それはできることだと猫又は確信した。




まったく攻め手が思いつかないまま、水が蒸発させれらていく。初撃ほど大量ではなく微量の水とはいえ、減っていることに変わりはなかった。


月待「せめて、腕を動かせなくできれば…。」


体力も時間も水も消費し続ける一方であった。




迫りくる手刀を受け流し、回避する。そんなことが何回続いただろうか。今回も同じように受け流す。隙が生まれたため、足で足払いをする。が、止められてしまう。


???「さすがに女子の蹴りで転ばされるかぁ!」


軸足を狙われ、逆に足払いをかけられ、その場に倒れこんでしまう。上から手刀が振り降ろされる。「避けられない。」そう悟る。が、その手刀は振り降ろされることなく、猫又から舌打ちと共に男は離れる。男の背後から凛が、攻撃してきたため回避せざるを得なかったのだろう。


猫又「ありがとうございますっす。」


神湊「いえ、いいんです。それより、木刀のほうが大丈夫ですか。」


凛にそう言われ木刀を見ると、だいぶ削られてた。男の手の手刀を受け止めていただけなはずなのに。そもそも何度も木刀で受け止めているはずが男は手が痛がる様子がまったくない。


男は頭を掻くと決心したように走り出す。自分たちの方向ではなく、渚さんがいる方向に。




茂みから男が飛び出してくる。少し遅れて後から美子々と神湊が出てくる。


羽佐間:弟「お、兄者いいところに!こいつを追い詰めるのを手伝って欲しいのだが。」


羽佐間:兄「我が弟よ。こんな状況でもいうが兄者は辞めて別の呼び方をしろと言っているだろう。こっちも手間取ってしまってな手伝って欲しくてな。あれやるぞ!」


猫又「渚さん大丈夫っすか。こっちも襲われまして今の男と戦ってたんすよ。」


月待「そうなんですか。すいません自分が不甲斐ないばかりに…。」


猫又「水が効かなくて困ってるんっすよね。近接挑むなら自分の木刀貸すっすよ。」


そう言って削れた木刀を差し出す。


月待「自分片手の肘を氷で固めてて動かせないので振れな…。」


そこまで言って気付く。そうかそうすればよかったのか。


月待「いや、いりません。今策を思いつきました。だから二人は下がって…。」


神湊「嫌です。一人でも苦戦してたのにもう1人増えたら相手できないでしょう。私たち仲間なんですからもっと頼ってください。」


猫又「そうっす。少なくともさっきまで戦ってたんすから少しぐらい止められるっす。」


強がりが見抜かれたのか、説得される。2人の声はとても力強いものだった。


月待「分かりました。自分が戦っていたほうを倒しますから、あとほんの少しあの男の足止めお願いできますか?」


神湊「はい!」  猫又「分かったっす。」


リュックサックからペットボトルを取り出し、水を集める。



羽佐間:兄「いくぞ我が弟よ!」


羽佐間:弟「いいぜ兄者。」


兄者と呼ばれた方が弟の肩に手を置き、腕を沿い、手首付近まで一気にこすり合わせる。もう片手も同じようなことを再度する。


羽佐間:兄「室戸にリベンジするために編み出した、お前の摩擦熱増加と俺の手の形が本物になる能力の合わせ技!その名も火剣『焔』!」


羽佐間:弟「兄者だからのその名前止めてくれって言ってるだろ…。火剣は同意だが俺は『紅蓮』のほうがいいんだよ。」


羽佐間:兄「よし、じゃあ多く倒した方の採用ということでどうだ!」


羽佐間:弟「攻撃能力高い兄者の方が有利じゃねぇか!もう焔でいいから俺が水操る男と戦うから女2人頼めるか?」


羽佐間:兄「ああ、分かった。火剣があれば、すぐ終わるだろうからすぐに加勢してやる。」



羽佐間兄弟が動き始める。こちらも美子々と神湊と離れる。羽佐間兄弟も別れ、弟のほうがこちらに向かい、兄の方が2人のほうに向かう。自分は向かってくる羽佐間弔三の顔に最初と同じように水を顔に纏わりつかせようとする。が、顔の前に手が置かれ、たどり着く前に蒸発させられる。


羽佐間:弟「それはさっきもやっただろう。」


返答はしない。三度、同じように顔に向けて水を向かわせる。


羽佐間:弟「ヤケになったみたいだね!」


同じように防御をしてくる。また同じように手に触れ…ることはなく二分割され手前で曲がる。行き先は肘だった。肘にまとわりつくと、氷に変え、肘の自由をなくす。


羽佐間:弟「手が使えなくても足にも熱は持たせられるんだよ!」


足を地面に擦りつけながら振り上げる。その間に四度目の窒息させるための水を向かわせる。今度は手による妨害もなく、顔に纏わりつかせるができる。羽佐間はそうなってから防御できないことに気付いたが、すでに遅かった。暴れる羽佐間だが、動けばよけいに息がしたくなるものである。一〇秒ほどで気絶させることができた。


すぐに2人の方を見る。美子々の持っている木刀の長さが半分になっていた。急ぎ水を向かわせ、顔と肘に纏わりつかせる。肘の水を凍らせ、突然のことで頭が回らなかったのか、纏わりついた水をどうこうすることもなく、白目を剥き始めたころの


猫又「今までのお返しっす!」


と美子々のダメ押しの蹴りを側頭部に受けて倒れた。



羽佐間(弟)からリュックサックを引きはがし、持って2人のところに近づく。


月待「大丈夫でしたか!?」


猫又「はい大丈夫っすよ。受け止めようとした木刀が切られたときも、切られる前に凛さんが教えてくれて、ギリギリ回避できましたっす。」


神湊「すみません美子々さん。全部押し付けてしまって…。」


猫又「いや、いいんっすよ。最初攻撃避けれたのも凛さんが突き飛ばしてくれたからっすし、これでお互いさまってことにしましょうっす。」


それでも神湊は少しいたたまれそうな顔をしている。自分はリュックサックの中を漁る。両方からレトルトカレーと薬の入っているポーチを出す。中身を地面に置く、合わせて4本入っていた。


月待「神湊さん今、薬何本持ってます?」


神湊「えっと、1本です。」


当たり前のことだったが、確認はしておく。薬を美子々に1本、神湊に3本振り分ける。


猫又「むぅ~なんで凛さんのほうが数多いんっすか!自分も頑張ったっす!」


月待「美子々はもう3本持ってますから、こうすれば本数が均等になるじゃないですか。」


少し納得いかないような顔をするが、それ以上何か言うことはなかった。


神湊「あの、月待さんは1個も取ってないみたいなんですがいいんですか?」


月待「真っ先に倒されて、奪われる可能性が高いのは自分ですからね。持っている数は少ないほうがいいんですよ。」


太陽の位置を確認すると日が傾きかけていた。今日の活動は終わりだろう。


月待「そろそろ日も沈みそうですし、河原に戻りましょう。薬の時間もそろそろですし。」


神湊「そうですね。私も賛成です。」


猫又「あ、自分ちょっとここに残って、後から追いかけるっすから先行っててくださいっす。」


デリケートなことだと察し、「分かりました」と言って、先に戻る。



薬も打ち、食事を終え、就寝の時間になる。


月待「美子々さん今日もお願いします。」


猫又「あ、そうっすね分かりましたっす。あと、さん付けは無しっす。」


美子々が足を伸ばし、太もものあたりに頭を乗せる。しかし、昨日と違いそれを目撃する人物がいることを忘れていた。


神湊「あの、2人は何を…。」


かなり引きつった顔をしていた。指摘され、よくよく考えると、誤解されることに気付く。


月待「いや、あの違うんです。これはあの硬い地面で寝たくないからと、その美子々に頼みましてね。自分は硬いところで寝ると身体機能に問題が出まして、そのだから頼んでしてもらってるだけなんです。だからそのそういう関係ではなくてですね。」


猫又「そ、そうなんですよ!だからその勘違いしないで欲しいっすよ!ただこれは硬い地面で寝たくない渚さんのあの頼みを聞いているだけで、そういうのじゃないっすよ!」


2人で必死に弁明をする。剣幕に圧倒されたのか「そ、そうなんですか。」と言って座り込む。


そして、咳払いをした後、自分の足をポンポンと叩く。


神湊「その…月待さんさえよければ私の足でもいいんですよ…?」


猫又・月待「「え」」


こうして夜は更けていく。

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