第7話
「よーっしじゃあさっそく人を探すっすよ!」
自分が荷物をまとめるなり、猫又が探そうとするがその前に確認することがあるため止める。
月待「えっと、猫又さんだったっけか。本当に能力使って戦えないの?」
猫又「五感強化したからって筋力とかがあがるわけじゃないっすからねぇ。あ、呼び方は苗字に猫が入ってるんで、猫っぽくみーちゃんと読んでくださいっす。」
月待「み、みーちゃん・・・いや、猫又さん少し待っててください。」
さすがに出会って間もない相手を呼び捨てどころかあだ名で呼ぶのはいささか恥ずかしい。近くの木に目星を付け近寄る。水を円盤状にし、高速回転させ水圧のカッターを作る。それを木の幹に押し付け削っていく。一分程で木が倒れる。倒れた木にまたも水圧のカッターを押し当て、削っていく。十分ほどで一本の棒きれ・・・否、木刀が完成する。そして木刀と薬を一本を猫又に渡す。
月待「いざという時はこれで身を護ってください。薬も先にやられるのは僕でしょうから自分が持っているのはよくないでしょうし。」
猫又「え、ええっとはい分かりました。」
困惑した表情をしながらも受け取る。当然だろう。裏切り、敵になるかもしれない人物に武器と薬を渡すのだから。だが自分はあえて渡す。今は仲間だからだ。
月待「木刀は大きかったり、重くないですか?問題があれば削りますので。」
猫又「は、はい!大丈夫・・・大丈夫っす!それより渚さんの分はないようですがいいんっすか?」
月待「自分は手にペットボトルを持っていないとですから持っていられないんです。それに木刀を持つくらいなら手のひらに水を掬って持ち運んだ方がいいですからね。」
水はいくらあっても困ることはない。
月待「それより準備もできましたし、始めませんか。」
猫又「そうっすね。」
猫又「じゃあ音拾いたいんでしばらく音立てるような行為をしないで欲しいっす。」
月待「わかりました。」
頷き、その場に留まる。呼吸音も邪魔になるかと思い口を閉じ、鼻をつまむ。猫又は森のほうに向き、音を探知しているようだ。1秒…2秒…3秒………………20秒ほど経っただろうか。息が苦しくなってきたのもあり、猫又の肩を叩く。
猫又「ひゃん!」
なんとも可愛らしい声を出す。そしてこちらに向きなおるなり言い放つ。
猫又「なにするんっすか!五感強化中は1つだけ強化とかはできなくて、触覚強化もされてるせいで敏感になってるんすよ!」
月待「そ、そうなのかごめん。次から気を付けるよ。それで何か収穫はあった?」
猫又はそうだったという顔をしたあと、コホンと咳払いをする。
猫又「特に足音も草をかき分ける音も聞こえなかったっす。場所を少し変えましょうっす。」
川に沿い下流のほうへ向かう。
月待「しかし、五感全部強化しないとなんて不便ですね。」
猫又「そうっすねー。一個一個指定して強化できたらいいんっすけど。まぁ今のところ困るようなこともないっすからいいっすけどね。渚さんは能力に不便なことはないんっすか?」
月待「ああ、詳しくは能力の説明はしてなかったでしたっけか。自分の能力は正しくは視界内の水の操作。水を常に視界内に入れておかないといけなくてさ、死角にある水は操れないんです。操れないと地面に吸い込まれて操れなくなるんです。今朝の男の投げた石が当たったときなんか目を離さないように必死になりましたよ。」
猫又「それは大変そうっすね…。ってもしかしてうっかり目を離したらり丸腰になるんっすか!?」
月待「実はそうなんですよね、はは。」
ここで一つ冗談を思いつく。
月待「それどころか自分は死んでしまうんだ…。実は自分の心臓はもう止まってて、能力で無理矢理血を体に巡らせているだけなんだ…。目を閉じないように睡眠すらとれていない…。」
猫又「そんな!いくらなんでもずっと起きてるなんて無理っす!もう数日も生きられないんじゃ…。」
月待「実はもう眠気が限界でね。あとは猫又さんだけで頑張って下さ…い…。」
わざとらしく地面に強打しないようにゆっくり倒れこむ。
猫又「そんな…!渚さん!渚さぁぁぁぁぁぁぁん!」
背中を揺すられる。続けてすすり泣く声が聞こえる。
猫又「くだらないことやってないではやく起きてくださいっす。」
月待「あ、はい。」
すくっと立ち上がる。割とノリノリだったわりには冷たい。
月待「そろそろこのへんでいいんじゃないですかね。」
いつの間にやらだいぶ下流の方に着いていた。
猫又「そうっすね、このへんでやりましょうか。今度は急に触らないでくださいっすね。」
そう言うと森のほうを向く。さっきと同じく音を拾おうとしているようだった。自分はさっきと同じように息を止め・・・ず、さっきまでのノリを引き継ぎふざけてしまう。両手の人差指を猫又の耳の裏に持っていき上からなぞる。耳たぶで止まり、そのまま耳たぶを弄る。あちらも覚悟していたのかビくッとしたあとしばらく耐えているようだった。ある程度いじると耳の中に指を進ませるが、急にこちらに向きなおりつつバックステップ。
そして猫又が木刀を上段に構える。
猫又「ほどほどに…してくださいっす!」
「やばい。」そう感じた時にはペットボトルの水を頭上に移動させていた。しかし直感する。水では振り降ろされる木刀を受け止められない。それなら----操っている水を凝縮、動きを止める。そして落ちてくる物体を両手で受け止め、数秒後にきた衝撃がコンッと音を響かせる。自分の手のひらにひんやりとした感覚が伝わる。
猫又「それは…氷?」
そう氷である。
月待「中学の頃に習いませんでした?水は摂氏0℃以下で氷に変わる。そして熱は物質を構成する原子が振動することによって生まれるって。そしてその逆、振動を止めれば冷たくなる。」
猫又は首を傾げる。当然だろう、いきなり科学のプチ授業が始まったのだから。
月待「えーっと要するに自分は氷と熱湯が作れます!」
猫又はしばらく首を傾げ考え込んでる様子だったが、数秒後にうんうんと頷くと
猫又「わかりましたっす!すごいっすね!それより索敵の方続けていいっすかね!」
理解を諦めたようだった。無理に理解してもらう必要もないので短い返事をして自分もそれ以上のことは言わない。猫又も追及はせず森に向かい直っている。その間自分は川から水を持ってきて熱湯に変化させ、氷を溶かす。氷は水ではないため戻すのもひと手間必要である。
猫又「草をかき分ける音が聞こえるっす。」
月待「どっちの方向から?」
猫又「あっちっすね。案内するんで付いてきてくださいっす。」
指で方向を示し、茂みに入ったあたりで止まる。
猫又「自分五感強化しながらじゃいけなさそうっす。」
月待「え、なんでですか?」
猫又「そのっすね…強化しながらだと草がくすぐったくて聞くのに集中できないんっすよ…。」
盲点だった。というより仲間になった時点で部分部分での強化ができると思っていたため、思いつかなかった。位置だけ教えてもらい自分だけ向かうか?いやそれでは追跡ができず逃げられてしまう可能性がある。どうにかならないかと思考錯誤する。そして一つの結論に至る。
一緒に連れていくという至極真っ当なものだが。ペットボトルに溶かした水を詰め、栓をすると腰のポケットに入れる。
月待「少し失礼しますよ。」
「えっ」と発声が聞こえるなり猫又の膝裏に手を滑り込ませすくい上げる。もう片手は支えがなくなった上半身が落ちないように腋下を通し持ち上げる。要するにお姫様抱っこの形である。
月待「これなら大丈夫でしょう。方向を教えてください。」
よく事態を呑み込めていない猫又をよそに淡々と進める。急がなければ見失うかもしれないのだ。
猫又「え、えっとあっちです。」
さっきと同じく指を指す。示された方向に小走りをする。猫又に草や枝がぶつからない様に注意をする。
そのため直進できるということはなかったが見失うことはなく、多少時間はかかったが相手の背中が見え始めた。
猫又を降ろす。
月待「ここで待っててください。」
追いかけつつ、ペットボトルを取り出し、栓を外す。どのように薬を奪うか考える。殺すのは簡単だった。水圧のカッターを作り首を狙えばいい、水の工具を創り頭部を殴打すればいい。だが殺すとなるとどうしても気が引ける。人間としての最後の理性なのであろう。結果水を口と鼻にまとわりつかせ、窒息させ気絶させることにした。水を操り、対象の上空に待機させる。そして声を掛け、こちらを振り向いたらまとわりつかせることにした。決まればすぐ実行に移す。
月待「おぉいそこの人!」
こちらに気付いて振り返る。そして水を・・・猛ダッシュで近づいてくる。唐突なことに待機させていた水は触れもしなかった。男はだいぶ手前で跳ねる。だが自分のところまで地面に着くことはなく、それどころか相手の足は自分の肩の高さまで飛んでいる。そして男が何かを握りしめているのがわかる。石だ。自分に叩きつけるつもりなのだろうと理解したとき、左手に用意していた栓の開いたペットボトルから水を展開し、受けとめる体勢を作る。案の定男は石を高所から落とす。難なく水の壁で止める。しかしこのままでは男と衝突すると思い回避しようと男を見ると、空中で進路を変え右に逸れていた。ある程度進むと着地し、こちらを向く。
不手地「この不手地 哲郎のストーンビッグバンアタックを回避するとはやるじゃねぇか!だが次はねぇ。大人しく薬を渡すなら逃がしてやらんこともないぞ!次こそこの不手地の能力空中浮遊で貴様は倒されるのだからな!」
どうやらすでに薬の奪い合いに気付き集めていたらしい。壁にしていた水を不手地のところに向かわせ顔にまとわり憑かせる。
不手地「うわっなんだこれ!だがわかったぞ貴様どうやら水を操れゴボゴボ」
息ができないことを察したのか水を払おうとするが、無駄である。そのうちもがいていた手もダランと重力のままに下に向かおうとする、目は白目を剥いている。そろそろいいだろうと、水をペットボトルに戻す。、生きているのか確認するため、近づき心臓に耳を当てる。動いてはいるみたいだが心臓マッサージを一応しておく。背負っていたバッグを漁る。開けてすぐにはさっきのようにぶつけるためであろう石が大量に入っていた。
バッグの外に出すとすぐにポーチが出てきた。中を見ると2本入っている。それを持ち、猫又のところに戻る。
猫又「大丈夫だったっすか!?」
月待「はい。大丈夫です。薬も2本手に入れましたよ。今頃あっちで伸びているころです。」
そして2本の薬を猫又に預ける。またも困惑したような表情をしたがすぐに自分のポーチに入れた。
猫又「伸びているってことは殺したりはしてないんっすか?」
月待「気絶させただけです。」
猫又は思案するような表情をする。
月待「それより次の人を探しませんか?明日になると1本しか持っていない人が出てくるので。」
猫又「そうっすね。ただ…その前にその…生理的欲求が…っすね。」
モジモジしている。自分はすぐに察すると
月待「そ、そうですか。自分あっちのほうに行ってますんで終わったら来てください。」
と足早にその場を去る。
渚が遠くに行くのを確認してから、渚が来た方向に歩く。自分も戦闘の様子は見ていたが生死までは分からなかった。すぐ近くに倒れている人を見つける。
胸に耳を当て動いているか確認をする。動いている、ということは生きているということだ。
猫又「あの人も甘いっす。生かしておいても敵にしかならないんっすから。」
そう言うとポーチから空の注射器を取り出す。そして中に何も入れず…いや空気を入れ、それを男の腕に刺し、空気を注入していく。最後まで押し込む。
猫又「これで完了っす。」
注射器を引き抜き、ポーチに入れなおす。そして渚と合流するため、後を追いかける。
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