第3話
上体を起こし、リュックから出した荷物が近くにあることを確認する。昔から家以外のところで寝ると起きた時体の節々が小さいが痛みを感じることがあった。ようは枕を変えると体に合わないのだ。というわけで野宿をした自分の体は自宅以外で寝た時の比ではない程体が痛む。疲れも多少とれた程度である。そもそも寝具は枕のみ。その枕もリュックサックの中身を全て出し、折り畳んだ程度のものである。更に逃走の際に川に飛び込んだため服は濡れ(寝るまでに生乾きにはなったが)、野外で体に掛けるものもない。止めとばかりに夜半奇襲を受けた際対応するため、石が多数転がっている河原で寝た。風を引かないだけ奇跡というものである。川で顔を洗いうがいをしていくうちに意識が覚醒してくる。食料から消化によさそうなものを探す。
月待「ああ、味噌汁が恋しい。」
体が冷えているため余計にである。昨日室戸との戦いで水を使い殻になってしまったペットボトルに水を入れる。そこで一つの疑問が思い浮かぶ。
月待「これは軟水か?硬水か?」
残念だが自分はそれを判断するすべを飲むということしか知らない。しかし合わなかった場合体調を崩すと聞いたことがある。おそらく昨日みたいに戦闘になるのであれば少しでも体調は万全を期したい。悩みぬいた末、リュックの中に入っていた水がすべてなくなった場合の最終手段とすることにした。
薬を入手するために人を探す、これが今後の自分の目標であった。学校に通っているとはいえ一人暮らしの自分が捜索届が出されている可能性は低い。万が一出されていたとしてもこんなへんぴな島にまで捜索の手は届かないだろう。なら自分はメモに書いてあった迎えを信じるしかなかった。まだ仮定でしかないが生きるために薬が必要だろうということで残りの9日後までの薬を集めることにしたのだ。
水以外の武器として手頃な石を集めよう探していると茂みから人が出てくる。だが様子がおかしい。こちらに見向きもせず目は虚ろ、腕は重力に逆らうつもりもないのかダランとさせている。その様子は一言で無気力。だが次の瞬間その男は走り出す。その先には、自分の食料が積んである。
まずい、と思い男を追いかける。男は食料の積んであるのを全て左右にどかし食料の下に隠してあった注射器の入ったポーチに手をかけようとする。寸でのところで追い付き助走の入った蹴りを当てる。男は吹き飛ばされ、その間に薬を回収する。
月待「なぜここに薬があるとわかったんですか?」
問いただす。外見からは食料の山に隠れており完全に見えない。なら隠すため積み上げているところを見たということになるがそれは昨日の夜のことだ。見ていたのであれば自分が寝ている間に取るはずである。男は答えない。虚ろな目こちらを向けているだけだ。そして男は立ち上がり、振りかぶる。そして自分の足元から音がする。見ると石が転がっている。男が投げたもの、というのはさっきまでの動作を見ていれば分かる。だが自分は全くと言っていいほど反応できなかった。それほど速かったのだ。衝撃は質量と速度で決まる。石に加え捉えられない程の速度なら・・・ゾッとする。唖然にとられていると男は腰を落とし次の投擲するための石を拾おうとしていた。自分もあわてて反撃のための水を川から一塊持ってくる。しかし男はすでに振りかぶろうとしており、攻撃は間に合わない。「もう一発外してくれるだろうか」という甘い考えが頭をよぎるがそうはいかなかった。腹部から強い衝撃が送られてくる。意識が真っ白になる、同時に鋭い痛み。幸いなのかとがっている部分ではなく平面になっている部分だったらしく、腹部に穴などは開いた感覚はない。しかしあまりの痛さに横に倒れこむ。水は目から離していないためまだ操れるが、あまりの痛さに相手のところに行かせるのを忘れていたため、まだ自分の近くである。そして倒れている間に男はまた石を拾い振りかぶろうとしていた。
止めようにも水はまだ男から遠く、避けようにも自分はすぐ動ける体制ではない。諦めかけたが、一つの策を思いつく。男が石を投げる。ポシャンという音の後男の投げた石が月待に届くことはなかった。月待の前には水の壁ができている。
月待「空気より水の中のほうが抵抗力は大きい・・・。」
フラフラしながらも立ち上がる。男はその間に石を投げ続けるがすべて水の壁の中で勢いを無くし、月待のところまで届かない。水の壁から少量分かれさせ、トンカチの形を創る。それを男の投擲してきている腕に思いっきり叩きつける。ボキッと鈍い音が響く。男はプラプラしている手を見ると数秒見つめた後腕がおられたのだと理解したようだ。こちらを見てまた数秒考えた様子の後背を見せ走り始める。追いかけ始め優勢になったためか余裕ができあることに気付く。男の背中が見えるのだ。つまり自分と同じくリュックサックを担いでいないということだった。どこかに置いてから来たのかもしれないがそれでは他の人に見つけられた場合とられる可能性がある。さらに森は人の手など行き届いていない。どこまで行っても同じような景色なため置いた荷物のところまで再び戻れるだろうか。目印などつけたらますます他の人に取られる可能性が高くなる。そして出てきた方向とは真逆に逃げている。そして一つの結論に思い至る。「この男はもう荷物を奪われたのではないだろうか」と。森の中に逃げ込まれると追撃を諦める。追いかけたところで自分の推理が正しければ追いかけて捕まえたところでまったくの無駄骨となる可能性が高いからだ。何より荷物を置いてきている。薬は持っているものの食料を取られてはそもそも生存に関わる。
リュックに荷物を詰め込む。人のいるところはどこだろうと検討をしていると、再び茂みから人が出てくる。セーラー服を着た女子だとわかる。その女はこちらに寄って来ると口を開いた。
「私、猫又 美子々って言います。仲間にしてくださいっす!」
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