第2話
海だ。いや、湖なのだろうか。
意識がはっきりしてきたところで潮の臭いを認識し、ここが海だと理解できる。
「夢・・?」と思い、自分の頬をつねってみる。
「いった・・・。夢じゃないのかな。」
そんな疑問を抱きつつも辺りを一望してみると、手元にはリュックサックが一つ。その中には中に入っていたのは食料と水と紙と地図のようなものとコンパス、それと緑の液体の入った注射器3本の入ったポーチだった。
どうやらこの地図によると島のようだ。
「この注射器はなんだろう・・・」
と、考えていると一枚のメモを見つけた。
『今回あなた様には我々の実験の手伝いをしていただくことになりました。
十日後地図の印のところに迎えが参ります。
薬の投与は毎日16時程に。あなた様の能力は視認できる人へ幻覚を見せられることです。』
「能力って何?他に人はいないのかな?」と周りに人影が見えないことへの不安、この現状の把握ができていない焦燥感に駆られる。
砂浜を途方もなく海沿いに歩き始めた。
しばらくすると、人影らしきものが見えてきた。
「あ、あの!」
??「え?」
??「誰?」
末尾「すみません、私、末尾螢と言います。そちらの2人は?」
品川「私は品川ひなた。こっちは倉敷灯。」
倉敷「はじめまして~。」
この島での始めての人が2人とも女性同士ということもあり、末尾は安堵感を覚える。
末尾「お2人は友達ですか?」
品川「いいえ、さっき会ったばっかりで。お互いよく分からない状況だから一緒にいないかって私が提案したんだよ。」
倉敷「そうなんです。ひなたちゃんがいてくれて良かったよ~。」
倉敷灯は人懐っこそうなのが伝わってくる。
品川「あなたは何でこういった状況になったか知ってる?」
末尾「いや、気づいたらよく分からない状況で。1人だったのでお二人に会えて少しは安心しました。」
品川「そうだな。なら末尾さんもよくこの分からない状況だし、私たちと共に行動しないか?」
品川ひなたはボーイッシュ気質なようだ。
末尾「こちらこそお願いしたいです。螢って呼んで下さい。それでは改めまして、よろしくお願いします。」
品川「よろしく。ひなたでいいよ。」
倉敷「よろしくね~。私も灯でいいよ~。」
挨拶が終わり、これからの行動を共にしていこうといった中で品川が切り出してきた。
品川「そういえば、末尾さんの、いや螢の能力は一体なんなんだ。」
末尾「私はこの手紙によると他の人に幻覚を見せられるみたい。品川さんと倉敷さんは?」
品川「私は力が強くなるみたい。灯は物を自在に作れるんだって。」
倉敷「ちょっと見ててね。」
倉敷がそう言うと、砂浜に手を当てて少し考えてると徐々に砂の城が形成されていく。
末尾「すごい・・・」
倉敷「まだ、これぐらいしか試せていないんだけどね。」
品川「螢もやってみない?」
末尾「うん。初めてだから上手くできるか分からないけど・・」
倉敷「すっごーい!螢ちゃんが二人に見える!!」
品川「へぇ。すごいな。」
末尾「(思ったとおりに相手に幻覚を見せられるんだ・・)」
倉敷「ひなたちゃんのも見せてあげてよ。」
品川「二人とも少し離れてて・・・」
品川から少し距離をとると、袖を捲り上げ始めてから近くにある人間じゃ到底持てそうにない岩に手をかける。
品川「いくよ!」
ザザッ。砂の音がしたと思ったら目の前で同い年ぐらいの女の子が岩を軽々持ち上げている。
末尾「すごい・・・」
倉敷「でしょー!ひなたちゃんと会ったときも海岸の石をね、持ち上げてたんだよー。」
ドスン。品川が大岩を砂浜に乱暴に投げて戻ってくる。
品川「こんな感じかな。じゃあ自己紹介はここらで。これからどうする?」
倉敷と目が合う。特に予定もなく歩いていたところに、品川と倉敷と会ったのだ。こちらも特に目的はない。
末尾「とにかく私たちみたいな人が他にもいるかもしれないし、ちょっと探してみません?」
品川「そうするか。灯もそれでいい?」
倉敷「うん。ひなたがそうするなら付いてくよ!」
品川と倉敷は以前からの知り合いなのだろうかと錯覚する。
3人で海沿いを30分ほど歩いていただろうか。道中盛り上がりもなく、倉敷が気を利かせてくれて世間話はするも品川は会話に入ってこない。周りを気にしながら歩を進める。
品川「あ・・」
品川が久しぶりに声を発したと思い、目線の先を倉敷と一緒に確認する。
倉敷「女の子がいる!!」
声量が大きかったのか、向こうもこちらの存在に気づいて、近寄ってくる。
??「良かった、他の人と会うことが出来て。」
品川「きみは・・?」
神湊「申し遅れました、私は神湊凛。気がついたら向こうの林みたいなとこにいて・・・それで適当に歩いていたら海に出て、それでそれで・・・」
品川「一旦落ち着いて。他に誰かと会ったりした?」
神湊「いえ、ずっと1人だったので不安で。それに変な手紙みたいなのも入ってるし・・・そうしたら声が聞こえて振り返ったら・・」
倉敷「私たちがいたわけね。こちらこそ言い遅れてごめんね。私は倉敷灯。こっちの髪が短い子が品川ひなた。こっちのかわいい子が末尾螢ちゃん。」
末尾「かわいいかどうかは分からないけど、よろしくお願いします。」
神湊「よろしくお願いします。」
品川「じゃあ、早速聞こうか。神湊の能力を。」
神湊「・・・」
少し間があったように感じた。
神湊「私は、第六感って書いてありました。まだ、特に能力は感じてません。」
品川「へぇ、まぁあなたの能力は分かった。こっちの能力も話すよ。私は人外の力を発揮できる。灯、倉敷は頭で想像したものを創造することができる。末尾は人に幻覚を見せられるらしい。それと、年齢は近そうだし、かしこまらずにタメ口でいこうよ。」
神湊「ならそうするね。1人だと不安だし、もし良ければ付いていってもいいかな?」
品川がこちらを見てくる。特に断る理由もないし、こういう時は仲間が多い方が頼もしい。
品川も意図を汲み取ってくれたらしい。
品川「こっちは大歓迎さ。よろしくね、凛。」
神湊「ありがとう、ひなた。」
この二人の社交性というのか順応性というのか、これも能力なんだろうか。
倉敷「そろそろ暗くなってきたし、メモに書いてある16時に薬を投与ってのした方がいいんじゃない?」
品川「そうだな。何があるか分からないし、一夜過ごす場所はそれから探してもいいかもしれないな。」
誰も薬が3本しかないことにも触れなかった。
品川と倉敷、神湊と私(末尾)が相互に薬を投与した。
そして、品川が先陣を切り一夜を明かせる場所を探し始めた。
辺りが暗くなってきた。暗くなると不安感がより一層増すのを感じる。他の人もそうなのだろうか。
倉敷「あ、そこにちょっとした洞窟見えない?」とテンションが上がり、駆け出す。
品川「おい、灯。」
思わず倉敷を心配した声が漏れたのだろう。
品川だけでなく、神湊にも安堵の表情が伺える。
品川「今日はここで休もうか。」
倉敷「そうしよ!もう疲れちゃったし。」
神湊「そうね。今日は色々と疲れたわ。」
私も同感だ。今日は訳が分からないところで目が覚めて、そこから彷徨うように歩き続けて、初対面の人と交流を持ったのだ。普段の私では考えられないぐらいの密度だった。
各々がリュックサックの食料を頬張る。食料は3日分じゃないようだ。意外と一食で減る量が少ない。
食事後もお互いやることがなく、他愛ない会話が続いていく。主に話しているのは品川と神湊だ。倉敷はリアクションを取りつつ会話に参加しているが、私は聞いてる風を装い、明日からどうしようか考えていた。
倉敷がうとうとし始めると品川が提案をしてくる。
品川「明日に備えてそろそろ寝ないか。」
話していた神湊も頷き、私も了承した。
そして、色々な不安を抱きつつも2日目を迎える・・・・
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