僕らのいる島

Reche

第1話

空だ。寝そべった状態で見続けていると吸い込まれていくような錯覚に子供のころから陥る。たしかに背中は地面に接している感覚を受けるのだが自分が浮いて空に向かっていく感覚を受け自分が地面に接しているのかわからなくなり不安になる。そういう感覚に陥るため自分は野外では寝そべらない。いやなったとしても空を見ない。なぜこんな話を始めたのかと言われたら自分がそのまさにその体勢で状態だからである。上半身を起こし周りを確認する。近くにバッグが落ちている以外はいたって普通の見慣れない野原である。たしか自分の記憶に間違いがなければ野外で布団も被らず眠る趣味はなかったはずである。無自覚に親を怒らせ眠っているうちに外に放り出されたのかと一番現実的な考えに行きつくが反省させためにしては外で寝させるのも、わざわざ見覚えのない野原にまで連れてくるのは手が込みすぎと突っ込みどころが満載すぎる。とりあえず唯一の手掛かりであるであろうリュックサックの中身を漁る。中に入っていたのは食料と水と紙と地図のようなものとコンパス、それと緑の液体の入った注射器3本の入ったポーチだった。メモを手に取り読む。


『今回あなた様には我々の実験の手伝いをしていただくことになりました。


十日後地図の印のところに迎えが参ります。


薬の投与は毎日日没前に。あなた様の能力は視界内の水の操作です。』


最小限の説明程度だった。いろいろ疑問が残るメモだが分かったことは地図を見る限り島ということ。十日後、迎えがくるということと、能力というものが与えられたことだ。


「能力?」


反射的に聞く。もっとも答えてくれる人などいないのだが。


意味が分からなかった。いや分かってはいるが理解ができなかった。


文から察するに超能力らしいのだが実感が湧かない。生まれてから十数年そんなのできたこともない。疑いつつも真に受けて水を取り出す。水を見つめ浮かばせる。


「本当にできた・・・?」


水が浮いている。困惑しつつも形を変えて文字にする、絵を描く、美術の教科書で見た現代アートを作る。


かなり細かい部分まで操れる。どうやら自分が思った通りに自由自在に動かせるらしい。一通り試したところで自分がこれから何をするべきか考える。


日はまだ上がり始めたというところで朝だということを感じさせる。


水芸をこのまま続けても時間の無駄にしかならないので地図の確認と本当に島なのか、島だとして他の陸地は見えないのかを調べるため、高所に行くことにした。そして行き先を見つめる。


「寝起きから登山か・・・・」



 下を見れば土が見えない。そんなところを歩くのはいつぶりだろうか。草木がそこかしこに無秩序に生え、そびえ立ち、方向感覚を失わせる。なにしろ人の歩いた形跡はおろか獣の通ったようなうっすらとした道すら感じさせないのだ。


「雪が積もった日に外に出て足跡のない部分踏むのは楽しいがこれはただの苦行だな。」


独り言を言う。大自然・空気がおいしいなどという最初の頃抱いていた感情はとっくに消え、恨みすら持っている状態である。ときどき上を向き方向が正しいのか確認する。山頂にいったところで木が生い茂って周りが見えない可能性が高いため、山火事か何かで木が一本も見当たらない部分を登る前に確認している。


登山を開始してから2時間やっと目的地に着くことができた。ところが先客がいる。向こうもこちらに気付いた様子で話しかけてくる。


???「おーいそこのあんた!もしかしてあんたもか?」


「ええ、はい!」


距離が離れすぎていたため大声を出しながら近寄る。


???「そこで止まってくれ!」


「えっ」


「いや、こんな状況で初めてあった人を信じれなくてな…あんたがこの状況に落とし入れた人か、その人とグルの可能性があるかもしれないともうとな。・・・それにあんたも持ってるんだろ?“能力”。」


「そ、そうですか。そうですよね。」


歩くのをやめて近くの木に立ったまま寄りかかる。リュックから水を取り出して飲み、一息ついてから話を続ける。


「自分はあそこの野原にいましてね。近くに他に陸地が見えないかと確認しにここに来たんです。」


???「ああ、そうだったのか。だが残念なことにどこまでも続く海は見えても陸地なんて見えないよ。」

「そうなんですか。それは残念です。」


自分の2時間に及ぶ登山は無駄足だったということだ。だがそれは当初の目的という意味では、だ。


???「見たところあんたも何も知らなそうだな。クソッ誰打を俺たちをこんな目に合わせたやつは!」


そう言い地面を殴る。


???「ところであんた名前は?」


月待「ああ、自分は月待、月待渚といいます。」


室戸「自分は室戸獅鬼ってんだ。よろしくそして・・・」


名前を言い終えるとすぐに彼は次の言葉を吐き出す。


室戸「くらえ」


えっ。と自分が言おうとした瞬間右のこめかみに衝撃が走る。


膝を着き、手で地面にぶつからないようにする。すぐさま立ち上がり右を向くがそこには寄りかかっていた木しか見当たらない。


室戸のほうに向きなおるが同時に腹部に蹴りが打ち込まれる。


後ろに吹き飛ばされ転がる。体勢を直すと追撃をかわし、距離をとる。手に持っていたペットボトルの蓋を開け水を出す。


月待「急に何を・・・」


室戸「まさかお前気付いていないのか?ははは!馬鹿と高いところが好きというのは本当らしい!」


急に大笑いを始める。息を整えつつ静観する。


室戸「お前本当にメモを読んだのか。はははそれとも俺を油断させる気かははは。」


月待「だからどうゆうことなんだ!」


室戸「毎日薬を投与しろとメモに書いてあっただろう。迎えは十日後。だが薬は3本しかない。ここまで言えばわかるだろう?」


喋り終えるとまた笑い始める。どれほど面白いのか地団太まで踏んでいる。その光景を見ながら水を室戸に向かわせつつ言葉の意味を理解する。7日間分が足りないのであれば集めるしかない。薬がなくなったらおそらく能力に体が耐えきれず体が崩壊するなどするのであろう。そして他に能力を持っているであろう遭難者がいるのだ。


薬を持っていると考えるのが普通だろう。だから室戸は出合った時に能力を持っているのかと聞いたのだ。能力があるなら薬があるはず、と薬を奪いに室戸は襲ってきているのだ。なら自分は薬を渡すわけにはいかない。それどころか室戸の薬を奪う必要性すら出てきた。なら自分はこの水を操る能力で室戸を倒す算段を考えなければならない。


室戸「水を浮かせる・・・いや操るのがお前の能力か?」


月待「そうですよ。自分の能力も見せたんですからあなたの能力も見せてくださいよ。」


と会話で時間を稼ぎ、他のペットボトルを取り出す方法を考える。


さすがにペットボトル一本程の水だけではできることも限られるからだ。


室戸「そうだないずれ見せてやるさ。それより・・・いつまでそこに突っ立っているつもりだ?」


直後、両足裏に衝撃が走る。足が浮き、前に倒れこむ。受け身も取れず地面に打ち付けられる。そして倒れると胸や腹に再び衝撃。痛みに耐えながらも立ち上がる、が距離を詰めてきていた室戸に殴られる。殴られながらも足を引っかけ転ばせることに成功する。そして再び距離を取り水を操り追撃を・・・がさっきまで操っていたはずの水がない。困惑しながらも水のあった場所の地面が湿っていることに気付く。そしてメモに書いてあったことを思い出す。”視界内”の水の操作だと。つまり倒れこみ、水を目から離したせいで水は重力に従い地面に吸い込まれたのだ。土から水を絞りだそうとしても出ない。自分がそれを水ではなく、土として認識しているからだろう。そして今の自分に勝ち目がないと悟る。得体のしれない攻撃(おそらくは相手の能力)ですでに息が絶え絶えで相手の能力も不明瞭。さらに自分の能力は水という媒体が必要なのにすでにそれを失ったこと。「どうにもならない」ということを理解した自分の行動は単純で当たり前のことだった。室戸に背を向けて走る。起き上がった室戸もすぐに察すると追いかけてくる。息が絶え絶えに加えて草のせいで通ると音が立つ。これではどこかでやりすごそうにも音が立たなくなった場所を探されるだけだ。逃げ続けるしかないが、いづれ追い付かれるのは明白だった。それでも走る。リュックサックから水を取り出す暇などあるわけがない。


視界がボヤける。逃げ続ける、足が動かなくなる。だが無情にも距離は縮まる。しかしそれでも逃げ続けた褒美か川が見えてくる。


酸素不足の頭で逃げる方法を思いつく。川まで走り飛び込む。もちろん川に飛び込んだところで逃げおおせるほどの流速があるわけがない。だが速度を上げれば別である。飛び込みながら川の水を爆発的に加速させる。さながら数日間雨が続いた洪水のように人一人流すなど簡単なほどになる。流されながら最後に見た室戸は自分の飛び込んだ位置に唖然と立っている姿だった。

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