僕には天の川を歩く君の後ろ姿を見ることしかできない

青い熊

8月4日

 蝉がうるさい八月。日光が容赦なく降り注ぐ今日。僕は今日も自転車を漕いでいる。

高校三年生の僕は色々な欲望を封印して勉強に力を入れている。今年度は人生の中継点でも、一ニを争う重大な基点だ。

僕は大学入試戦争を生き残らなければならない。高校入試戦争はとりあえず生き残ったが、大学入試戦争はそんなに甘くない。

本当の意味で生きるか死ぬかを決めるのだ。

 僕の住んでいるところは、言うなれば田舎だ。しかも『ド』が付くほどの。

コンビニはもちろんのこと、自販機に行こうとすれば往復三○分は掛かってしまう。

便利なニ四時間営業の店も行こうとすれば四○分掛かる。どこが便利なのだろうか。いっそのこと、『コンビニ』から『インコンビニ』に改名した方がいいだろう。意味は不便利な商店だ。

 そんなところから僕が向かっているところは予備校だ。

講師の入試対策を受け、入校した時に買うテキストで勉強するためだ。さっき家を出る前にもそれで勉強をしていた。途中まで解いた数式が気になって仕方ない。数式が頭の中を占領していた。英語の文法でも、物理のドップラー効果でも、化学の官能基でも、政治経済の政治体制でもない。

 そんな僕が河原に差し掛かったとき、僕の目は奪われた。

季節に全く合ってないくらいに肌が白く、髪も肩より少し長いくらいの黒髪で、時期に合ってない白い長袖というかブラウスを着て、スカート姿の少女がいる。

僕はそんな少女の後ろ姿を横目に見ながら、急いで通り過ぎる。早く行かなければ、考えている途中の数式を忘れてしまう。

それでも少し気になったので、チラッと後ろを振り返ってその姿をもう一度見る。やはり季節に合ってない。この時期に僕が住んでいる田舎にいるのなら、肌は絶対焼ける。何処を出歩くにしても、日陰がないからだ。




 予備校には真夏でありながらも、陽が落ちて星がキレイに見える時間まで居た。夕食はまだだが、昼食は予備校の近くにあるコンビニで済ませた。

夕方に母さんからのメールで夕食があることが知らされているから、こっちで食べることもない。

僕は自転車に跨がり、急いで帰路につく。もうお腹と背中がくっつきそうだ。

 自転車の発電機を唸らし、前方の道を照らしながら走る。走っていると、行きに通りかかった河原に差し掛かった。この道は僕の家から予備校までの最短ルートだ。もちろん、帰りも通るに決っている。

この辺りまで来ればもう僕の住んでいる田舎だ。

街灯なんてそんなに無いが、月や星の明るさである程度は周りが見えている。そんな月明かりに照らされながら河原にふと目を向けると、朝に見た少女が立っていた。朝と全く同じ場所に居る。

きっと、朝と夜に河原に来ているのだろうと僕は思った。

僕の住んでいる田舎一帯は、『ド』が付く田舎ではあるが避暑地でもある。そこまで有名では無いけれど。だけど、多分この辺りの人間なのだろう。僕は直感的にそう思ったのだ。

 走りながらだったので、ほんの数秒しか目を向けていられなかったが、少し気になり始めていた。

身なりも異常だし、朝と夜に河原に一人でいるなんてどう考えたっておかしいのだ。だけど、深くは考えずに僕は家へ急いだ。

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