第5話「『ポケモンGO』は禁止すべきである」
〔今回は特定の(1人の)マンガ家さんをモデルにしているわけではありません〕
あたしのおじいちゃんはマンガ家だ。
と言っても、みんな知らないと思う。実はあたしもほとんど読んだことがない。『ジャンプ』や『サンデー』に連載するようなマンガ家じゃないからだ。中年のサラリーマンが読むような雑誌に、コラムだかエッセイだかよく分かんない、愚痴を書き並べたようなマンガをずうっと連載してる。
プロデビューして約40年。「大ベテラン」と言えば聞こえはいいけど、昭和20年代生まれの高齢者。秋本治みたいに最近の流行を敏感に取り入れるような人でもないから、センスがどんどん古くなって、時代から置いてけぼりになっている。だからまあ、あたしみたいな高校生が読んで面白いわけがない。
ちなみに、趣味はコレクション。バーのマッチとか、割り箸の袋とか、弁当についてくる魚の形の醤油差しとか、しょーもないものばかりいっぱい集めてる。そんなのも若者に受けないよね。
でも、嫌いじゃないんだよ、おじいちゃん。だって孫娘を溺愛してて、よくおこづかいくれるから。毎年のお年玉だって、半分以上、おじいちゃんからもらってる。だからあたしも、おじいちゃんになついてる──マンガは読まないけど。
正直、おじいちゃんにはもっと長生きしてほしい。死なれたらお年玉ががくっと減っちゃうものね。
そんなおじいちゃんから、「話がある」と言って呼び出されたのは、残暑のきびしい8月下旬のことだった。
「実は編集者から『ポケモンGO』について書いてくれと頼まれてな」
おじいちゃんの家の居間。まだ夕方だというのに、おじいちゃんは冷えたビールを飲んでいた。あたしはコーラ。
「ああ、流行ってるもんねえ。あたしもやってる。まわりもみんなやってるよ」
「この近くでもだ。昨日の夕方も、散歩してたら公園に何十人という人が群がっとってな。年寄りから子供まで、みんな無言でスマホを覗きこんでるんだ」
「ああ、花が咲いたんだね」
「いや、花なんか咲いとらんかったぞ」
「そうじゃなくて、ポケストで誰かがルアーモジュール使ったんでしょ?」
「よく知らんが、あれは奇怪な光景だったな。現実世界がゲームに乗っ取られてるように思えて、ものすごく不気味だった――お前もそう思わんか?」
「うん、確かに現実が仮想現実に浸食されてるって感じはすごいよね」
「だろう!」
「でも、そこが面白いんだよ。日常の、現実の空間にダブって架空の世界が存在してるって感覚がさ。そこが画期的で、エキサイティングなんじゃない? 21世紀キターッって感じで。受けるのは当然だよ」
自分の期待しているような答えをあたしが言わなかったもんで、おじいちゃんは露骨に失望していた。
「お前は疑問を抱かんのか? あるいは何か不満はないのか?」
「『ポケモンGO』に不満? うん、あるある」
「ほう」おじいちゃんは目を輝かせ、ちゃぶ台越しに身を乗り出してきた。「どんな不満だ? 教えてくれ」
「うちの近所のジム、CP1000以上のみず系ポケモンで占拠されちゃってんのよ。倒そうにも、あたし、くさ系もでんき系も育ててなかったから。こっちの最強はシャワーズだけど、〈こうかはいまひとつ〉同士になってなかなか勝負つかないの。かといってCP400ぐらいのエレブーとかナゾノクサじゃ話になんないし。だいたい、なんでリリースして1ヶ月も経ってないのに、もうギャラドス持ってる人がいんの? いったいコイキング何百匹捕まえたんだよ、水辺に住んでる人かよ! ってツッコミたくもなるよ」
「……何を言ってるのかさっぱり分からん」
「そもそもおじいちゃん、ポケモンのこと、どれぐらい知ってんの?」
「ピカチュウは知っとる」
「当然だね」
「ニャンチュウも知っとるぞ」
「それ、ポケモンじゃない」
「ん? 『ぼく、ニャンチュウでちゅう』とか言うんじゃないのか?」
「言わないよ。つか番組が違うし」
「いや、ネコみたいなやつがおるだろ。ほら、オレンジ色で腹巻きした……」
「それ、ジバニャン」
あたしは心配になった。この程度の知識で『ポケモンGO』について何か書いたら、デタラメな内容になるに決まってる。読者からツッコまれまくるに違いない。それは困る。炎上して連載打ち切りとかになったら、あたしのおこづかいにも影響が出るかもしれない。
「マンガに描くなら、実際にやってみなきゃダメなんじゃない? 『ポケモンGO』」
「わしのケータイはこれだ」
おじいちゃんは顔をしかめながら、自分のケータイを取り出し、あたしに見せた。
「え? 何これ? 画面小さい。それに……この突き出してる棒みたいなの何?」
「それはアンテナだ」
「アンテナ!? アンテナが目に見えてるの!?」
「携帯電話にアンテナがあるのは当たり前だろう」
「当たり前じゃないよ! すごい骨董品だよ、こんなの! なんで買い替えないの?」
「ちゃんと電話は使える」
「そりゃそうかもしんないけど」
ケータイを電話としてしか使ってないのか。すごいな。たぶんメール送ったりググったりとかもしないんだろう。最新の流行にうといのも当然だ。
「なるほど、これじゃ『ポケモンGO』はできないねえ」
「たとえできても、やる気は起こらんがな。あんな危険なゲーム。ほら、運転中にやっていて事故を起こした奴がいただろ?」
「ああ、ニュースになってたね」
「だから早く禁止すべきなんだ!」
「でもそれ、『ポケモンGO』のせい?」
「どういうことだ?」
「ちょっと前にニュースで読んだんだけど、ここ数年、“ながらスマホ”で事故起こす人がすごく増えてるんだって。東京だけで年に30件ぐらい。全国だとたぶん何百件って数。駅のホームでスマホやってて線路に転落したり、階段から落ちたり、柱にぶつかったり、自転車で走りながらスマホやってて用水路に落ちたり、ガードレールに激突したり……みんな『ポケモンGO』がリリースされる前の事件だよ?」
「しかし、げんに画面を見ながら運転してた奴がいるんだろ? 走りながらポケモンを探してたんじゃないのか?」
「いや、『ポケモンGO』って移動速度が時速24kmを超えると警告が出るんだよ。〈移動速度が速いためプレイを制限しています〉って」
「そうなのか?」
「うん。自動車や電車で移動してる間は、卵は育たないし、ポケストップはほとんど使えないし、ポケモンもすぐ逃げる。だいたい、ポケモン探すのに、ずっと画面見てる必要ないもの。起動してポケットに入れとけば、近くにポケモンが出現したらバイブで教えてくれるから。
だいたい、走りながらどうやってプレイするの? ポケモンが出たら、高速道路の上で車止めるの? それともハンドル握ったままモンスターボール投げる? そんなの、無理に決まってんじゃん」
「じゃあなぜ、運転しながらやる奴がいるんだ?」
「バカだから」
「バカ……」
「ちょっとでも頭があったら、運転しながらプレイするのは意味がないし危険だって分かるでしょ? それが分かんないのは、単なるバカ。たぶん何万人かに1人、そういうバカが必ずいるんだよ。
『ポケモンGO』をインストールした人は、全世界で1億人を超えたって言われてる。その中に、運転中にスマホを見るようなバカが1万人に1人しかいないと仮定しても、全世界で1万人のバカがいるってことになるでしょ? そりゃ事故も起きるよ」
「全世界で1万人もの人間が危険な行為をやっているということか!? それはますます禁止しなくてはならんな!」
何聞いてたんだ。
「いや、そういうバカは前からいたってことだよ。『ポケモンGO』が大ヒットしたおかげで、その存在が可視化されたってだけ」
「それはつまり、『ポケモンGO』のせいだってことじゃないか」
うーん、やっぱり理解できないか。
ああ、そうだった。おじいちゃんは統計とか論理とかいうものが苦手な人だったんだ。
「よし、決まったな。『ポケモンGO』は交通事故を誘発する危険なゲームである。だから禁止すべき──よし、この路線で行こう」
そう言って、おじいちゃんはビールをぐっと煽った。
それを見ていて、あたしは反論を思いついた。
「おじいちゃん、ビール好きだねえ」
「ん? ビールだけじゃない。日本酒もワインもウイスキーも飲むぞ」
「でも、お酒を飲んで車運転して事故起こす人もいるよね」
「わしは運転はせんぞ」
「でも、げんにお酒を飲む人の中に、そういうバカが何万人に1人かいて、事故を起こしてるわけでしょ? だったら、お酒は禁止しなくちゃいけないって理屈にならない?」
「ちょ、ちょっと待て!」おじいちゃんは慌てた。「それはおかしい。スマホのゲームなんてものを、酒といっしょにするな」
「何が違うの?」
「酒は……そう、人類が生み出した最高の娯楽だ!」
「ゲームだって娯楽だよ」
「酒は人類の歴史とともにあった文化だぞ! それを否定するのか!?」
「ゲームだって文化だよ」
「ゲームなんて、つい最近生まれたもんじゃないか! そんなもんは文化じゃない! 少なくとも1000年の歴史がないと文化とは言えん!」
「だったらマンガは?」
「へ?」
「マンガだって歴史的に見たら、つい最近、生まれたものでしょ? あれは文化じゃないの?」
おじいちゃんは露骨にうろたえた。
「いや、日本のマンガの元祖は〈鳥獣戯画〉で……」
「あれだって1000年経ってないんじゃない?」
「いや、マンガとゲームは違うんだ!」
もう理屈になってない。
「だいたい、『ポケモンGO』なんて、あんなものの、どこが面白いんだ?」
「そりゃARでしょ──あっ、言っとくけど、『昔の国鉄か?』なんて初歩的なボケは禁止ね。ダサいから」
口を開きかけていたおじいちゃんは、気まずそうに口ごもった。言おうとしてたな。
ARについて口で説明しても分からないだろう。やっぱ実物を見せるのが早い。あたしはスマホを取り出し、『ポケモンGO』を起動した。
案の定、〈GPSの信号をさがしています〉という表示が出た。
「ああ、やっぱ屋内だと受信状態良くないなあ。ベランダ、出ていい?」
「いいとも」
あたしらはベランダに出た。すぐにバイブに反応があった。
「いたいた。ほら、アーボだよ」
「アーボ?」
「こういうやつ」
あたしはスマホの画面を見せた。とたんにおじいちゃん、「ひっ!」と青ざめて後ずさる。
「へ、蛇じゃないか!」
「そだよ」
「我が家のベランダに蛇が!」
「いや、現実にはいないから。画面の上だけだから」
「何でもいい! さっさと追い払ってくれ!」
「はいはい」
あたしは苦笑しながら、モンスターボールを投げてアーボを捕まえた。
「ほら、捕まえたよ」
「捕まえた?」
「ボールに入ってる」
おじいちゃんはおそるおそる画面を覗きこむ。
「……逃げたりしないのか?」
「ボール投げた時に、うまく捕まえられないと逃げられることはあるけど……」
「やっぱり逃げるのか!?」
「いや、捕まえたらもう逃げないよ」
あたしらは居間に戻った。
「ほんとか? 逃げないんだろうな?」おじいちゃんはまだ心配してる。「家の中に蛇を持ちこんで、逃げられたりしたら困るぞ」
思い出した。映画が発明された当時、スクリーンに映った機関車が迫ってくるのを見て、観客が慌てて逃げだしたって話を。おじいちゃんの反応は、まさにそれだ。新しいテクノロジーを理解できないんだ。
「いかんぞ。あんなものに夢中になっては。危険すぎる。しまいに現実とゲームの区別がつかなくなってしまうぞ」
だからそれはおじいちゃんのことでしょ?
「心配ないって。単なるゲームだから。ほら、これまでにこんなの捕まえたんだよ」
あたしは捕まえたポケモンを画面に表示した。
「イモムシに蛾にネズミに蛇にコウモリにクラゲ……」おじいちゃんは気味悪そうにしている。「お前はこんなのを集めるのが趣味なのか?」
「趣味ってわけじゃないけど、ポケモンってこういうもんだから……」
つーか、イーブイとかプリンとかコダックとかラッキーとかもいるのに、目に入ってないよね、おじいちゃん?
「けしからん! きれいな蝶やカブトムシを集めるならまだしも、蛇やコウモリを集めるなんて、正気とは思えん」
いや、あたしもズバットは好きじゃないけど、うちの近くによく出るから、経験値とほしのすなを稼ぐために、どうしても捕まえなくちゃいけないんだよね。
「そう言えば、おじいちゃん、昆虫採集、やったことあるの?」
「もちろんだ! 虫を捕って標本を作るのは、わしの子供のころは、男の子ならたいていやっておった」
「へえ。あたしは本物の昆虫採集なんてやったことないよ」
『どうぶつの森』でならやったけど。
「だいたい、虫のいる森なんて、近くにないし」
「うむ、嘆かわしいな。最近の子供は自然と接する機会がないのか。そのせいで暖かい心が失われているのかもしれん……」
「あれって、網のついた棒を使うんだよね?」
「うむ」
「捕まえた後はどうすんの?」
「液体を注射して標本にする」
「その注射は、やっぱり理科の先生とかにやってもらうの?」
「そんな面倒なことはせん。子供が自分でやる」
「ええっ? 子供が注射を!?」
「うむ。昆虫採集セットというものを売っててな。注射器と二種類の液体が入ってた。それを捕まえた蝶やカブトムシに注射する」
「液体って?」
「確か、赤が殺虫剤で青が防腐剤だったな」
それ、明らかに毒物だよね。
「そんなの、どこで売ってたの?」
「デパートのおもちゃ売り場とかにもあったらしいが、わしは学校帰りに文房具屋で買ってたな」
こわっ!
昭和の時代って、文房具屋さんで子供が注射器買えたんだ。しかも毒物といっしょに。フリーダムだったんだな。
おじいちゃんは「懐かしスイッチ」がオンになったらしく、子供時代のいろんな思い出を話した。
たとえば、「2B弾」というものが流行ったそうだ。小型の爆竹。これも学校帰りに手軽に近所のお店で買えたんだそうだ。
「それをカエルの尻に入れてな、火をつけるんだ。すると、ぱあんと吹っ飛ぶ。あれは面白かったなあ。ずっと後に『北斗の拳』が流行った時に、それを思い出して、懐かしい気分になったもんだ。ああ、最近の子供はああいう貴重な体験をしないで育つんだな。かわいそうに」
いやいやいや、そんなスプラッタ体験したくないから!
「とにかく、何でもかんでもバーチャルで済まそうという現代の風潮は良くないな。子供にはもっといろんな体験をさせんと」
「おじいちゃんの子供のころとかだと、テレビとかはまだなかったの?」
「いや、昭和30年代の中頃になると、ずいぶんテレビが普及してきたな。『スーパーマン』とか『月光仮面』とかが大人気で。マントの代わりに風呂敷を首に巻いて、木から飛び降りで足を折った子供もいたとか」
現実とフィクションの区別がつかなかったのかな、当時の子供。
「マンガとかは? やっぱり『鉄腕アトム』とかの時代?」
「まあ、そういうのもあったがな。しかし、わしが大学に入る頃──昭和40年代ぐらいから、だんだんもっと年長向けの、現代のマンガに近い作品が出てきた。『大学生が電車の中でマンガを読んでる』なんて、上の世代からバカにされたもんだ」
「へー。そういう時代だったんだ」
「くだらん偏見だ! 年寄りは頭が固いから、新しい価値観を理解できんのだ。電車の中でマンガを読んで何が悪い!」
そのおじいちゃんが今、公園で『ポケモンGO』をやってる人たちをバカにしてるわけだけど。
「どんなマンガがあったの?」
「わしが好きだったのは『あしたのジョー』だな」
「ああ、聞いたことある。ボクシングのマンガだよね?」
「うむ、当時はすごい人気でな。昭和45年、ライバルの力石徹が死んだ時には、ファンが集まって葬式をやったぐらいだ」
「葬式? マンガのキャラクターの葬式を、マジで?」
「うむ、寺山修司の呼びかけで、盛大にな」
うわあ、それ思いっきり、現実とフィクションの区別がついてないってことじゃない?
「同じ年には、赤軍派の学生が旅客機をハイジャックして北朝鮮に行くという事件があってな」
「赤軍派って?」
「左翼の過激派組織だ。そいつらは日本を出発する時に、『われわれは明日のジョーである』という声明を出している」
「テロリストに影響与えてたの!?」
やばい。それ、今だったらツイッターで大炎上する案件だよ。
「日本でもそんな事件、あったんだ」
「ちょうど70年安保の頃だったからな。そういう左翼の過激派学生が多かったんだ。日本各地でしょっちゅうデモがあってな。機動隊と衝突してた」
「今じゃ考えられないね」
「わしも学生時代に何回か参加したぞ、反米デモ」
おじいちゃんは目を細め、懐かしそうに言う。
「ええっ、ほんとに?」
「うむ。ヘルメットかぶって、ゲバ棒持ってな」
「げばぼう?」
「角材だよ。それで機動隊をぶん殴る」
「ええ!?」
「他にも、道路の敷石を剥がして投げつけたり、火炎瓶投げたり……」
「火炎瓶っ!?」
「向こうだって、ジュラルミンの盾で殴ってきたり、ポンプ車で放水してきたり、催涙弾を水平打ちしてきやがるからな。お互い様だ」
すっ、すごい。それもうほとんど戦争じゃん! 戦争なんて、昭和20年で終わったもんだと思ってたよ。
「おじいちゃんの時代の青春って、むちゃくちゃハードだったんだ……」
「うむ。今みたいにものがあふれていなかったが、実に充実していたな。ゲームぐらいしか熱中するもののない今の若者がかわいそうでならん」
悪いけど、それぜんぜん羨ましくなんかないから! 盾で殴られたり、催涙弾打たれたりなんてしたくないから!
「ああ、もうこんな時間だ」あたしは時計を見た。「そろそろ晩御飯だから帰らなくちゃ」
「うむ。今日は済まないな。参考になった」
今の話、参考になったのかな?
「あっ、そうそう、もうひとつ」
腰を上げかけたあたしを、おじいちゃんは止めた。メモ用紙とサインペンを取り出す。
「この紙に、名前と年齢と、今日の日付を書いてくれないかな」
「はあ? 何で?」
「その」と、あたしの飲んでいたコーラのコップを指差す。「ストローといっしょに保存しようと思って」
「だから何で?」
「わしがいろんなものをコレクションしとるのは知っとるだろう?」
「うん」
「今度、他人の使ったストローをコレクションすることにしてな」
「はああああ!?」
「ちょっと前まで、他人の使ったタバコの吸い殻をコレクションしてたんだが、最近、タバコを吸う人間がめっきり少なくなってな。おまけにタバコじゃ、未成年のものをコレクションできん。そこで今度は、使用済みのストローを集めることにしたんだ。その第一号として、孫娘の使ったストローを……」
「何それ!? 変態!」
「変態などではない!」おじいちゃんは開き直った。「ちゃんと許可を得ているではないか!」
「許可しないよ、そんなもん!」
「言っておくが、わしは少女の唾液を舐めるような趣味はないぞ。ストローはきちんと洗ったうえで、ビニールに包んで保管する」
「そういう問題じゃない!」
「なぜだ? 使用済みのストローのコレクションなんて、誰にも迷惑をかけんではないか」
「だからそんな問題でもない!」
あたしはストローをぐしゃぐしゃに折り曲げ、ポケットに入れて帰った。この家に残していったら、コレクションされてしまいそうだったから。
家に帰ってから、あたしは興味を抱いて、〈70年安保〉とか〈学生運動〉といったキーワードで動画検索をかけてみた。
うわあ、すげえ。
おじいちゃんから聞いた通り、この時代の若者、むちゃくちゃだよ!
機動隊とガチで殴り合ってるよ!
大学を占拠して屋上から火炎瓶投げてるよ!
この中におじいちゃんもいるのかな。みんなタオルで覆面してるもんで、顔は分からない。
それにしても信じられない。どうすれば人間がこんな風に育つんだろう。
見ているうちに気がついた。この人たちって、生まれてから一度もビデオゲームをやったことのない世代なんだなって。
ゲームの中でモンスターをゲットできなかったから、本物の昆虫に注射するしかなかったんだな。仮想現実でモンスターと戦うことなんかなかったから、現実世界で人間相手に火炎瓶投げてたんだな。
うん、やっぱり羨ましくない。
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