さいごの、ねがい


気が付いた時には、

全てが終わっていた。


たとえ気が付いたとしても、

今更もう、何も無かった。


俺は


心も


体も


空っぽで。



だが、ふと。



胸によぎった、

おぼろかすむ記憶の中で。


俺は


嬉しかったよう


なにか、焦っていたよう


悲しかったよう


・・何処どこかに行きたかったよう


そんな気がした。



完全にバラバラになった思考は、

もう何も、

考えられない。


だが、もし。


もしも、

この男が


俺の頭に、

浮かんだ者だったのなら。


だったら。


それならば。


彼女を。



「頼む。」



最後だというのに、

俺の顔には微笑びしょうが浮かぶ。


その子を、たのむ。


君は、

君だけは。


・・俺のようには、

なってくれるなよ。


俺は、

俺達は


何もかも失くして、

空っぽになってしまったから。


だから、

最後に戻れた俺だけは。


懺悔ざんげでもなく


後悔こうかいでもなく


贖罪しょくざいを望むでもなく


ただ、

君の無事をいのろう。



げますように』


怪我けがをしませんように』


つかまりませんように』



そして。



『君の望む場所へ、

ちゃんとかえれますように。』



俺達のかなわなかった、

願い。



全て、

君だけがかなえられますように。

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