とおい、すがた


あたたかな朝日にいろどられ、

なめらかに色づく薔薇ばら色のほほ


白い月光を受けてもなお、

黒く輝く闇色のゆたかな黒い髪。


風の中、

たおやかに自分に向かって微笑む姿は、

らめく陽炎かげろうようだった。


あまりのそのはかなさに、

腕に閉じ込めると貴女あなたは決まって、

少し怒った表情をみせる。


でも、

それが照れ隠しな事は、

私にはわかっていたよ。


だって、そのほほ何時いつも・・

夕日のように、真っ赤にまっていたからね。


何時いつだろうと、

何処どこかに居ようとも。


貴女あなたは、

私のただ一人の女性ひと、だった。



でも、

何時いつからだろう?


貴女あなたが私の前に、

姿をあらわさなくなってしまったのは。


何処どこを探しても、

声がれるほど呼び続けても。



貴女あなたの姿を、

目にする事は出来なくて。



ようやく姿を見つけ、

その腕をつかんでも。


気が付くとその姿は、

やはり目の前から消えていて。


・・私の前には、

ただの無意味なあかが広がるだけだった。



その姿を求めて、

私は必死に走る。


息が切れて苦しくても


足が痛みで引きれようとも


貴女あなたを見失う苦しさに比べれば。


・・はるかに軽い物だったのだ。



○    ○    ○    ○    ○



姫!

私の姫!


ようやくそのお姿を

拝見はいけんする事が出来た!


朧気おぼろげだった記憶の顔が、

その姿に重なって。


あぁ、あぁ!


私の姫が、

目の前にいる!


美しい涙を流すその姿を、

忘れぬようにしっかりとこの目に焼き付ける。


・・これで2度と、

姫を見失みうしなう事は無い。


の人を腕にいだけける幸福に、

体が歓喜かんきで震える。


あまりの幸せに、

私は感謝をささげたくなった。


姫の存在は、

勿論もちろん喜ばしい。


喜ばしい、が。



・・少し、

邪魔な存在がいる。



・・ここまで姫を守って来た、

お客人。


彼の、

音楽に対する知識。


ダンスの時の、

身の軽さ。


それは、

とても素晴らしい物だった。


久しぶりに心が高揚こうようし、

ぜひ友人にと願ってしまった。


彼とならば、

き友人関係をきずけるだろう。


そう、

本気で思ったのだが。



・・姫の、あの目。



あの、彼の姿を見た時の、

安心しきった無防備むぼうびな表情。



許せない。


許せない。



ただ、

貴女あなただけを想っていたのに


貴女あなたの姿だけを、

追い続けていたというのに


その、私の前で、

別の男にそんな表情を見せるとは。



残念だ、お客人。


貴方あなたにはやはり、

消えてもらうしかないらしい。


私は少々、嫉妬しっと深いたちなんでね。



姫をうばう者は、

たとえ誰であろうとも。



(コロス。)



怒りでまった頭の中に、

何時いつもの声が響き渡った。



○    ○    ○    ○    ○



この男は、

何を言っている?


私が姫を、

他の女性と間違えるなどと!


先程さきほどよりも、

強い怒りで目の前がまる。


思考が

目の前の男をほふる事で、

くされていく。


だが、

何故なぜだ?


何故なぜ

体が動かない?


何故なぜ

私は


姫。


ひめ。


私の、

美しい姫。


この世でただ一人の、

私の想い人。


貴女あなたは、

ドコなのですか?


貴女あなたの顔は、

どんなモノだったのでしょうか?


わからない。


わからない。


目の前の赤は、

誰の物だった?


私の姫は、

貴女あなたの、最後は?



・・・・。



・・あぁ、そうか。


私の姫は、

最愛の君は。


ここに、いたんだね。


今度は、

放さないから。


絶対に、

見失みうしなったりしないから。


だから、

ねてないで、笑って。


僕の好きだった、

あの表情で。


その手をしっかりとにぎったまま、

は静かに目を閉じる。



『もう!

気が付くのが遅いんだから!』


君がそう言って、

僕の手を優しく取り。


『ごめん!

少し、送れたみたいだ!』


そう返して僕も、

君の手をにぎり返した。

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