だれかのおわり


「ここでまっててね。」


まわりをみながら、

かあさんはぼくにいった。


「うん。」


ぼくはちゃんとへんじをして、

かあさんのめをみた。


かあさんはすこしおどろいて、

そのあとすぐにぼくからめを

はなしてしまった。


それでもぼくがみていると、

かあさんはまた


「まっててね。」


といって、

かけあしでふりかえらずに

いってしまった。


たっているのはつかれたから、

ぼくはすわってまつことにした。


おひさまがおちてくらくなったけど、

かあさんはこない。


よるは、すこしこわかった。


おひさまがのぼって、あさになって、

ぼくはすこしこわくなくなった。


おなかがすいた。


でも、

むかえにきたときにぼくがいないと

かあさんがこまるから、

うごかなかった。


よるに、なった。


たくさんのやまいぬが、

ぼくのそばにいる。


こわくて、

にげたかったけど、


「ここでまってて」


っていわれたから。


だからぼくは、

にげなかった。




ぼくのからだは、

なくなった。



○    ○    ○    ○    ○



めがさめたら、

ぼくはそこにいた。


かあさんに


「まってて」


っていわれたきのまえに。


ぼくのからだはなくなったのに、

ぼくはぼくのままだった。


だからぼくは、

またかあさんをまつことにした。


おなかもすかなくなったし、

よるもこわくなくなった。


ぼくは、

こまることがなくなって、

すごくうれしかった。


ぼくのままでいるから、

きっと、むかえにきたかあさんも、

わかってくれる。


このままここで、

ずっとまっていよう。


どこにもいかずに。


○    ○    ○    ○    ○


ぼくが、

今のボクになって、かなりの時間がたった。



ボクがいた森は、

木が切られて町になった。


たくさんの人が、ボクのそばを通る。


いそぐ人に、ゆっくり歩く人。


楽しそうな人や、かなしそうな人。


ボクは、

いろんな人が通るのを見るのが、

すきになった。


まっていても、

たいくつしなくなったから。


だから、

まだ母さんを、待っていられるとおもった。



○    ○    ○    ○    ○



ぼくが、ボクになって、

森が、町になってから、長い時間がった。



その間、色々な物や、人を見た。


車、

という物が道を走るようになり、

道は真っ黒なアスファルトに変わった。


車は、

すごい速さで人を乗せて走り去っていく。


ボクのいた場所もアスファルトになって、

車が走るようになった。



ボクは、

車が嫌いだ。



だって、

すごい速さでみんな、去ってしまう。


ボクなんか、

いない物みたいに無視をして。



ある日、車が停まったから、

中をのぞいてみた。


どこかの家族が、

遊びに行く途中だったらしい。


ボクの知らない場所の話を、

家族みんなで楽しそうにしていた。



ボクの知らない、場所。



ボクは、ここ以外に、知らない。


この場所から、

動けない。


ここから離れる方法も、

誰かが教えてくれたけど、忘れてしまった。



車が、行ってしまった。


喜ぶ家族を乗せて。



ボクを置いて、

知らない場所へ。


ボクは、車と、

それに乗って何処どこかに行ける人間が、

嫌いになった。



○    ○    ○    ○    ○



町が、街になった時から、

ボクは少し遊んでみた。



何処どこかに行ける人間に、

腹が立ったから。


ボクと同じ様に、

何処どこにも行けなくしてやろうと思って。


車同士を衝突しょうとつさせて、

乗ってる人間をつぶしてみた。


人間は真っ赤になって、

呆気あっけなくいなくなった。


ボクの胸は、スッとした。


楽しかった。


とても、楽しかった。


これからも、

ここを通る人間で、こうやって遊ぼう。



○    ○    ○    ○    ○



あれからずっと、

ボクは遊びを続けている。



この道路は


『事故多発地帯』


なんて、呼ばれるようになっていた。


ボクの『遊び場』なだけなのにね。


ずっと遊んでいたけど、

最近同じ方法ばかりで、きてきた。


ここには随分ずいぶんと、

色んな魂がまるようになったから、

それが知ってる事を見て、

新しい遊び方を探してみる事にする。


いくつか、

気になる物が見つかった。


『ゲーム』


『ホラー』


『脱出』


『敵』


今の人間って、

面白い遊びを沢山知ってるんだなぁ!


見るからに楽しそうで、

久しぶりにワクワクした。



まず、敵を造る。



材料は、

此処にまっていた『恐怖心』を使う。


中々上手くできたから、

ボクが連れてきた人間をコレに襲わせて、

ボクはそれを観察する事にした。



面白かった!


逃げる人間が追い詰められて、

絶望のままに命を落とすのは、

すごく楽しいお芝居だ!


これからもっと、

敵を増やして襲わせよう。


それに、

これならこわした人間の処分に困らなくて済む。


今の時代は、リサイクルしないとね。



○    ○    ○    ○    ○



館で人間相手にゲームを続けてたけど、

少しきてきた。



最近は、

脱出まで辿たどり着く人間も増えてきたし。


どうしたらより面白くなるのか、

更に玩具にんげん達の記憶をのぞく。


御伽話おとぎばなし


惨劇さんげき


すごく、素敵な物が見つかった!


これならもっと楽しくなるはず!


題材は、『白雪姫』にした。


最初に造ったモノを『女王』


まだ体が残っていた7人を『小人』


恋人同士で、

混ざったまま放っておいたのを『狩人』


そうやって配役を決めたけど、

肝心かんじんの『白雪姫』がいない。


取りえず、

近くを通った女性をここに閉じ込めて、

探す事にした。


○    ○    ○    ○    ○



姫が、いない。


見つからない。


沢山の女性を閉じ込めたけど、

理想の姫は一人もいなかった。


どいつもこいつも、

わめいて泣くだけでうるさかったから、

姿を変えて『毒りんご』にしてやった。


おかげで狩人の効率が上がって、

女王や小人が退屈たいくつそうにしている。


でも、

せっかくのゲームなんだから、

妥協だきょうはしたくないし。


早く姫、

見つからないかなぁ。



○    ○    ○    ○    ○



やっと、やっとだ!


やっと理想の姫が見つかった!


この『白雪姫』なら、

他の誰もが引っかかるに違いない。


案内されるのは、

自分が眠る事になる、ひつぎの中とも知らずにね。


この人の記憶を消して、

出番が来るまで館で眠らせておく事にする。


これで、

ここに連れてきた人間は、

彼女を被害ひがい者だと勘違かんちがいするだろう。


最初は警戒するだろうけど、

『姫』の記憶が無いという同情を引く身の上や、

勇敢ゆうかんで協力的な行動に、すぐに警戒心をくはずだ。


それに姫には、

ここの事を何も教えないでおく事にする。


その方が、

より自然に振る舞えるからね。


さぁ、

これで役者こまは揃った。


次に連れてくる人間の反応ぜつぼうが、

楽しみだ。



○    ○    ○    ○    ○



姫が逃げてしまった!


まだ目を覚ますタイミングじゃなかったのに!


どうやら、

まだ消しきれなかった記憶が残っていたから、

らしい。


他の奴らにも、

姫を探す様に言いかけて・・少し、考えた。



このゲームが上手くいくか、

テストをしてみよう、と。



全員に姫が逃げた事を伝えて、

連れ戻す様に伝える。


正し、

危害は加えてはいけないが、

獲物と同じ様に対応はしても良いと付け足した。


姫の場所は手に取るようにわかるから、

見失う事は絶対に無い。


だって、

彼女はボクの体液に触れたからね。


さぁ、

姫がどう動くか、高みの見物といこうかな?


○    ○    ○    ○    ○



誰だ、あの男。


どうして、

ボクの領域で自由に動けるんだ?


それに、

ボクはあの男をここに連れてきていない。


ここに、

どうやって入り込んだんだ?


・・・・まぁ、いいか。


小人はまた造れるから、

構わないし。


それより、

このおにーさんなら面白い王子になりそうだ。


それなら女性も、

連れてきて遊べるなぁ。


よし!


このおにーさんも、遊んだ後に直そう!


早く、誰か連れて来ないかな。


それとも、

あのおにーさん強そうだから、ボクが行こうかな?


楽しくなってきた。



○    ○    ○    ○    ○



ぜんぶ、いたい。


からだも、あしも、ても、ぜんぶ。


おにいさんは、

こわくて、つよかった。


いたくて、いたくて、くやしかった。


おねえさんは、

こわくないって、いった。


じぶんじゃなくなることは、

こわくないって。


ぼくは、こわかった。


どこにもいけなかったことも、

じぶんじゃなくなることも。


だから、ぼくのままで、

かあさんをまってたのに。


めのまえが、

くらくなる。


おとが、

きこえなくなってきた。


ぼくは、じぶんのまま、きえる。


これなら、

かあさんも、きづいてくれる。


おなじように、

ひとをころしたから、

あえるよね。


じごくにいけば、

あえるよね。


ぼくのいしきは、そのまま、

とおくなっていく。


やっと、あえる。

かあさんに、あえる。



ぼくは、すべてを、うしなった。



「会える訳無いだろ。」



・・どこかで、

ボクをさばく、声が聞こえた。


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