姫と狩人


客を持て成すための部屋だけあって、

室内は豪華な調度ちょうど品や、

美しい絵画などでかざられていた。


しかし、

それらも他の部屋同様どうように、

ほこり蜘蛛くもの巣で汚れ、

くすんでいる。


しかし。


「どうして、あれだけ・・。」


窓の近くに置かれている、

一台の大きな白いグランドピアノ。


金の美しい細工でかざられたこのピアノだけは、

蜘蛛くもの巣どころかちり一つ無く、

真新しく、美しいままだった。


異様な雰囲気ふんいき戸惑とまどう彼女とは違って、

Sは気にめる事も無くそれに歩み寄る。


彼が、

そのまま楽譜がくふを取り出そうとしたところで、

いまだマナミがドアの側で立ちくしている事に気付き、

不思議そうな表情をした。


「そんな所で突っ立ってないで、

早くこっちに来て下さい。

今からこの後の説明をしますから。」


「え?

でも、その・・。」


「何か?」


「そのピアノって、

変じゃないですか?」


かす相手に向かって、

何とか思った事を伝えてみる。


が、

それは彼の軽い溜息を呼んだだけだった。


今更いまさらですね。


こんな場所にマトモな物が、

存在するはずありませんよ。」


早くして下さい。


かすSの言葉に、

そろそろと警戒しながら近づいていく。


側まで辿たどり着くと、

突然彼から楽譜がくふを押し付けられ、

そのままピアノの前に置いてある

演奏用の椅子いすに座らされてしまった。


一瞬唖然あぜんとしていたが、

気が付いたマナミは


「ええっ!」


と声を上げて彼を見上げる。


「わ、私、

演奏なんてした事無いですよ!」


あわてて椅子いすから立ち上がろうとするが、

それを彼に強い力でおさえられてしまった。


「ですから!」


と、抗議するために見た彼の表情は真剣で、

その迫力に押され、言葉をそのまま飲み込んでしまう。


彼女の目をしっかりと見つめながら、

Sは言い聞かせるように話し始めた。


「今から俺は、

部屋の中央に行きます。


その後、

この楽譜がくふ譜面ふめん台に置いて下さい。

そうすれば、

ピアノが勝手に演奏しますから。」


ここから、

よく聞いて下さい。


彼は彼女の肩に置いた手に力を込め、

さらに真剣な声音で強く言う。


「演奏が始まったら、

俺が「いい」と言うまで、

この椅子いすから立たないで下さい。


・・何があっても、

決して動かないで下さい。」


いいですね?


と念押しされ、

マナミは震える手で楽譜がくふにぎめたまま、

強い眼差しでうなづいた。


「それでは、始めましょう。」


肩から手を放したSは、

そう言うと部屋の中央に向かって歩き始める。


(あんなに強く言うって事は、

今から危険な事が起きるんだ。


・・多分、

命に関わるぐらいの、事が。)


少し落ち着くため

目を閉じて深呼吸しながら、

彼女はしっかりと自分に言い聞かせるように

呟いた。


「大丈夫、1人じゃない。

絶対に帰って、父さんと母さんに会うんだから。


・・会って2人に、

「ありがとう」って、伝えるんだ。」


絶対に。


しっかりとした口調でそう締めくくり、

目を開けると、部屋の中央に立っていた

彼と視線が合う。


部屋の中央で彼が、

小さくうなづいた。


それにしっかりとうなづいて合図を送ると、

彼女はピアノに向き直り、

美しい細工のほどこされた譜面ふめん台に楽譜がくふを置く。


すると、

小さくカタンと音がして、

彼の言った通りひとりでに演奏を始めた。



このピアノ、

鍵盤けんばんが勝手に動いて気味が悪いが、

さらみょうなのはその音色である。



「何、この音・・。

ピアノは一台しかないのに、

複数の音が重なって聞こえる・・!」


不思議な事に、

このピアノは二重奏を一台で奏でていた。



まるで、もう1人の見えない

いているように。



流れてくる音は綺麗きれいだが、

その曲はどことなく不気味で、

亡霊が演奏していると言われても

納得なっとくできる物だった。


「なん、ですか?この曲・・。」


震える声でSにたずねるため

彼女が振り返ろうとした時



「美しい曲だと、思いませんか?」



と、知性に満ちた静かな声が

部屋に響く。


「え・・」



振り返ったマナミの瞳に、

Sの体がキャビネットに向かって飛んでいくのが

スローモーションのように映った。



頭の中が映像処理を終える前に、

すさまじい破壊音が演奏をき消して響き、

大量のほこりが霧のように広がる。


呆然ぼうぜんとする彼女の耳に、

ピアノの曲と小さくねる破片の音。


そしてあの、

知性的な声が届いた。


「気に入っていただけたでしょうか?

この曲は私が一番気に入っている物で、

おどる時にはいつも演奏させているのです。


・・そうだ!」


声音が少し明るくなると、

部屋の中央辺りにぼんやりとたたずんでいた影が、

少しづつ大きくなってくる。


ずる、


ずる、


という何か大きな物を引きずる音から、

その影が近づいて来ている事が分かった。


未だ呆然ぼうぜんとしたまま

視線をその影に合わせた彼女の目が、

静かに大きく見開かれていく。


Sが吹き飛ばされた事実の処理を終えた脳が、

近づく存在に対して警告音を鳴らすが、

それはすでに遅かった。


ただ涙を流しながら、

哀れなほど震え恐怖一色に染まる彼女に・・

その影は、暖か味さえ感じる穏やかな声で

語りかける。


「よろしければ、

一曲踊っていただけませんか?


つたなくはありますが、

いとしの貴女あなたとの短き逢瀬おうせの許可を。」



優雅ゆうがな仕種しぐさで差し伸べられた

男性の手はどす黒く、胸の中心から


「さあ、姫。お手をどうぞ。」


赤黒いボロボロのドレスにつつまれた、

両腕の無い女性の体は優雅ゆうがに動き


「姫、白雪姫。

ようやくそのうるわしいお姿を、

拝見はいけんする事が出来ました。」


静かに歩みるは、

猫に似た獣の足


「私は、月にがれる星のように、

貴女あなたの事を待ち望んでおりました。


・・さぁ、舞踏ぶとう会へと共にまいりましょう。」


嬉しそうに言葉を発するのは、

瑞々みずみずしい生花せいかの白薔薇ばらかざった

狼に似た獣の頭で・・その表情は牙をき、

怒りを素直に浮かべていた。


「何処にられても、

私は必ずおむかえに上がります。

貴女あなたが望む限り、何時如何いついかなる時も。


・・私のいとしい、姫のためならば。」


柔らかい静かな口調に合わせるように、

その瞳は


ぎらり、


と激情に輝き、

一途いちずに彼女だけを映し出す。



・・愛しい姫を見つけた狩人は、

ただただ一途いちずえものを追い続け、

やがて共におどるのだ。


生命いのちき、

むくろとなり果てるまで。



「さあ、お手を。」


毒をふくんだ甘いみつような青年の声が、

マナミに向かってするりと伸ばされた。


「・・。」


その声が耳に入った途端とたん

彼女の思考は白くにごり始め・・ふらりと

体が揺れる。


そのまま狩人の方へと手を伸ばしながら、

立ち上がるために体を浮かせ掛けー、


(動かないで下さい。)


とSの声が頭の中に響いた瞬間、

正気を取り戻し、椅子いすに座り直した。


(いけない!

絶対に椅子いすから離れちゃ、いけないんだ!)


マナミは強く唇をめ、

座面のふちをしっかりとつかむ。


両足もしっかりると

震える体を叱咤しったし、

心の中で必死にり返した。


(動くな!立つな!

私は、絶対に帰るんだ!


それに、

彼はこんな事で死んだりしない!)


涙目のまま狩人をにらみ付けると、

相手は


「おや?」


と表情をさらけわしくして足を止める。


「どうかなさいましたか?姫。


・・ああ、

そんな事をなさってはいけません!

そんなに強くんでしまったら、

果実のように柔らかな唇に傷が付いてしまいます。


それに、そのような目付きをなさっては、

黒真珠の瞳がゆがんでしまいますよ!

そんな事になれば私は」


「面白い事になってますよ、顔。」


狩人のいたわる言葉をさえぎりはっきりと掛けられた毒は、

今だけはとても嬉しく、

たのもしい響きで彼女の耳に届いた。


瞳を輝かせて瓦礫がれきと化したキャビネットの方を見ると、

ほこりで汚れたスーツを払いながら、

無傷のSが姿を見せる。


「Sさん!」


安堵あんどした彼女が大声で叫ぶと、彼は


「どうも。」


と手を上げてこたえた。


「いやあ、

まさかあんながあるとは。


吹っ飛ぶのも、意外に面白いですね。

服がほこりで汚れなければ、

最高だったんですが。」


白スーツになる所でした。


と、落ち着いてほこりを払う彼の態度に、

心底心配していた彼女がいら立ち

声を上げようとする。

が、


「死の舞踏ぶとう。」


と、Sから言葉が返ってきたことで、


「え?」


と間の抜けた声が出てしまった。


いていたじゃないですか、

曲の題名。


『死の舞踏ぶとう』。


サン=サーンスという作曲家が、

アンリ・カザリスという詩人の詩に

インスピレーションをて、作曲した曲です。


午前0時の時計の音と共に骸骨がいこつが現れておどり始め、

夜明けとともに墓場に帰る、という内容ですよ。


・・まあ、骸骨がいこつ円舞曲ワルツの場面から

先に進む気配が無いようですが。」


良い趣味をお持ちで。


と狩人に向かって鼻でわらう。


それを聞いた狩人は牙をき出しにしながら、

柔らかな声で言った。


「おめに預かり、光栄です。


この曲をご存知という事は、

貴方は音楽の知識にくわしいようですね。


私達はおそらく、

良き友人になれると思うのですが。

・・貴方あなたはどう思われますか?」


憤怒ふんぬの表情を浮かべてはいるが、

心から嬉しそうな、穏やかな甘い声音で

彼に対して言葉をつむぐ。


Sはただ黙って

それを聞いているだけだった。


が、


「フッ。」


小さく息を吐くように笑い声を零すと、

口の端に皮肉気な笑みを浮かべ、

勝気な光で瞳をギラつかせながら話し出す。


「獣の頭じゃ、

皮肉もわかんねぇのかよ?


・・俺は綺麗きれい好きだからな。

薄汚れた化け物犬は、お断りだ。」


「え・・?」


今までとは打って変わった口調に

マナミが戸惑とまどう中、彼はさらに挑発ちょうはつを続けた。


おどる位なら付き合ってやる。


・・テメェが先にくたばっても、

文句は言うなよ?」


そう不敵に笑いかけられ、

狩人は


「そうですか・・。」


と変わらぬ表情で落ち込んだ声を出す。


が、次の瞬間空気が流れるような音と、

何かが激しく衝突した音がする。


気が付くと、

何時いつの間に移動したのか部屋の中央でSと狩人が、

お互いに攻撃をり出した態勢たいせいで止まっていた。


狩人の背から生える、

肌は真っ赤で爪は全て黒という、

異様な色の巨大な女性の腕の一撃を、

彼は片足で受け止めたまま、

余裕の表情でわらって見せた。


「同じは食わねぇよ。

・・まさか、

背中から腕が生えてるなんてな。


中々、

センスのいい化け物だ。」


こぶしにギリギリと力を込めたまま鼻筋にしわを寄せ、

み付かんばかりの表情をした狩人は、

静かな声で心から残念そうに言う。


「友人になれなくて残念です。

ですが、この曲が終わるまで

共におどっていただけませんか?


・・私は、

円舞曲ワルツが好きなんです。

あの優雅ゆうがな動きが、

とても美しいと思いますから。」


「犬はボールで遊んでろ!」


はじく音を立てて、

Sと狩人が離れて距離を取った。


しかし、

すぐさまたがいに目にもまらぬ速度で間をめ、

Sはりで、狩人は胸と背に生える腕で、

攻撃をり出し、返し合う激しい攻防を始める。


貴方あなたは、

ダンスの筋もよろしいのですね。

共におどった中で、

ここまで軽い身のこなしをされた

お客様はいません。


私は、

貴方あなたのような方ともっと語り合いたい。


・・この館で、

私の友として暮らしませんか?」


男性型の腕で突きをり出し、

直後に女性型の腕で上からたたつぶそうとしながら、

狩人はリードをするような優しい声でたずねかけた。


きを左足ではじき返し、

押しつぶそうとせまてのひらを後方に飛んでかわした上、

その腕に右足をたたき込みながらSは、

皮肉な態度で答える。


「こんな陰気いんきで汚れた所、

イカレた奴しか住まねぇよ。


・・どうしてもって言うんなら、

『取って来い』してみな。


出来たら、

散歩位は連れてってやるよ。」


それだけ言うと素早くソファーの後ろに移動し、


「そーら・・取って来い!」


と掛け声と共に、

狩人に向かってり飛ばした。


すさまじい速さで顔に向かって飛んできたソファーを、

狩人は女性型の腕で振り払うようにたたき壊す。


「くっ!な、何処どこに・・?!」


ソファーの破片はへんでSの姿を見失った瞬間、

横から激しい衝撃しょうげきが胴体に走り、

その体は盛大に吹き飛び壁にたたきつけられた。


「グウッ!」


激痛に息をめ、

よろめきながら両足で立つ狩人に、

Sは意地の悪い笑顔でわらいかける。


「取って来いもできねぇのか?

折角付き合ってやったのに、

時間の無駄だったな。


・・きたから、

そろそろ仕事に戻るとするか。」


わざとらしく溜息をつく彼を、

狩人はよろめきながらもにらみ付け、

冷静な声で話し出した。


「私はまだ、

おどりを止める気はありません。

貴方との円舞曲ワルツはとても楽しいですから。


それに・・姫を、連れては行かせない。

彼女は、私の存在意義であり、全てだ。


夜空にきらめく柔らかな月、

きよらかな真白き雪・・私の唯一無二の、

愛する人なのだから。」


そう断言すると、

憤怒ふんぬの表情のまま

彼女に顔を向けるが、


「唯一無二、ねぇ?」


嘲笑あざわらうように呟くSの言葉に反応し、

再び彼の方を見る。


「何か異論でも?」


牙をいて威嚇いかくしながら、

不思議そうにたずねてくる狩人に

Sは両腕を組みながら鼻でわらい、

はっきりとした口調で言った。


「その姫は、

そのお嬢さんで合ってるのか?


何処どこかの、

別の女と間違えてるんじゃねぇの?」


「なっ!


・・言い掛かりをつけるのは止めて下さい。

私が、愛しい姫を間違える訳が」


「本当か?」


狩人の言葉をさえり、彼はさらに続ける。


「なら、彼女と出会ったのはいつだ?

誕生日は?歳は?趣味は?


それに、

唯一無二の存在なら・・顔を覚えてるはずだよな?」


そうだろ?


そう問いかけられた狩人は、

男性型の手で顔をおおい、女性型の腕を震わせだした。


「顔、は、拝見した事が無かった。

彼女は、いつも女王の隣にいたから。


・・いや、毒りんごと毎日歌って、いて。


・・違う。


私とピアノの演奏を聴きながら、ダンス、を。


ち、がう。

この姫、は別の・・。」


「別の、何だ?

姫は今までどれだけいた?

どうして誰一人いない?」


靴音を響かせながらSは狩人に近づいていくが、

混乱しはじめた目には見えていないらしく、

ひとり言のように何かを呟き続ける。


「ち、がう。


この、姫ではない。

あの姫でも、ない。


あ、ア、ア・・私の、姫。


ひめ、は、ヒメハ・・!」


全身を震わせ混乱しきった狩人に向かって、

Sは素早く何かを投げつけた。


それに気付いた狩人はけきれないと判断したのか、

女性型の手で受け止める体制をとる。



だが、

その選択は間違いだった



「グガああアアッ!!」


Sの投げつけたプラスドライバーは、

そのてのひらに深く突き刺さって貫通し、

女性型の腕を背後の壁にい付けてしまう。


痛みに絶叫を上げる狩人は、

自分の顔に影がかかったのを感じて、

反射的に前を見る。


しかし、

そこにはすでに間をめたSがいて、

すでにりの態勢に入っていた。


驚きで目を見開く狩人の鳩尾みぞおちに、

重い音と共に綺麗きれいな中段りが入れられる。


「グ、ガ・・!」


その衝撃によって後ろの壁に亀裂きれつが入り、

ドライバーが抜けて自由になった体は

前のめりに倒れかけるが、すんでの所でとどまった。


だが、

次の攻撃のために飛び上がっていたSは、

りを放ちながら無情の宣告せんこくをする。


円舞曲あそびの時間は終わりだ。


・・テメェに目覚めは来ない。」


重力と体重を乗せた重いりが

狩人の延髄えんずいに落とされた瞬間、


ごぎり


と、鈍い音が響いた。


足を離したSが飛び退くと、

狩人の体は崩れ落ち・・

ほこりを巻き上げながら、

すすけた絨毯じゅうたんに倒れこむ。


倒れた狩人は時折痙攣けいれんしながら、

弱い呼吸を短くり返し・・小さく呟いた。


「わ、たしの、ひめ。

ひ、ひめ・・。


・・!


あ、あ。

そう、だった・・!」


男性型の腕が弱々しく動き、

背中の女性型の腕に優しく触れる。


「こ、こに、いてくれたん・・だね。

わ、たしの、姫・・。


私の・・----・・。」


聞き取れない程のかすかな声で何かを呟くと、

女性型の腕も弱々しく動き、

触れているその掌をいつくしむ様に優しくにぎった。


ふ、と小さく息を吐くと、

狩人の全身から完全に力が抜ける。


微笑むように見えたその表情は、

直後にざらりと黒い砂となってくずれ落ち、

ただの砂山となり果てた。


「・・。」


何故なぜか涙がこぼれ落ちてくるマナミの耳に、

今までとは違った物寂ものさびしく、

明るい曲調が入ってくる。


「こ、れは・・。」


「夜明けを告げる雄鶏おんどりが、

ようやく鳴いたようですね。」


呟きに返事が返ってきた事に驚き、

となりを見ると、

そこにはいつもの調子に戻ったSが立っていた。


「Sさん・・。」


「もう立ち上がってもいいですよ。


こちらも、

夜明けを見に行きましょうか。」


そう、ドアに向かって歩き出す彼に続いて、

彼女も椅子いすから立ち上がりドアを目指す。


「・・。」


しかし、その途中で突然立ち止まり、

マナミは後ろに向き直った。


・・そして、

黒砂の山に向かい深々とお辞儀をする。


「何してるんですか?行きますよ。」


先にドアの側に着いたSが呼ぶと、


「待って下さい!」


と元気よく返事をして、

彼女はそちらへと向かった。


2人が部屋の外に出てドアを閉めた瞬間、

夜明けを告げる純白の雄鶏おんどり

演奏を終える。


部屋の中に、

無数の光の粒を振りいたピアノは

急速に色褪いろあせ・・永遠に、沈黙した。



静かな部屋の中、

雨音だけがみ込んでいく。


悲しむ様に。


いたように。


雨音は、古いピアノに降り続けた。

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