マナミとS
彼を
ゆっくりと口を開く。
「
緊張と疑心で声を震わせながらも、
その眼差しは強く、鋭かった。
「違いますよ。」
返される声と眼差しは、
対照的にぼんやりとしている。
明らかに全てが「面倒くさい」と語り、
そのまま
「本当ですか?」
「どうして疑うんです?」
質問を即答で質問のまま返され、
思わず言葉に詰まる。
しかし、
彼女は負けまいと声と視線に力を込め、
はっきりと
「だって、
それに、
名前だってはっきりと
「隠して疑われる位なら、
はっきり
「そ、それは、そうかもしれないですけど・・。」
正論とも思えそうな事を言われて、
つい納得しそうになる。
しかし、
頭を左右に振って思考を戻し、
マナミは
「この館の事に、
他にも、
明かりを何もしないで
おかしいです。
それに、
さっきの〈小人〉は、
・・全部
と、言葉を切り、
彼女はSを敵意に満ちた目で
「
奴らの仲間だという事になるんです。
・・違いますか。」
「・・。」
彼は反論せず後頭部を軽く
黙ってしまった。
主に彼女から
物置の中の空間を
マナミが彼の行動を注意深く見つめる中、
後頭部を
深い溜息が落とされた。
「面倒くさい人ですね。
「なっ!
・・確かに父と母からは、
頭が固いって言われてましたけど!
どうして貴方に言われなくちゃいけないんですか!」
何度か両親に言われはしたが、
赤の他人に言われると
怒りで顔が赤くなる彼女をよそに、
Sは
「おお。」
と呟いてパチパチと気のない拍手をした。
「なんですかっ!」
今度は違う意味で
彼はあっさりと言う。
「おめでとうございます。
記憶が少し、戻られたんですね。」
「記憶?・・あ!」
確かに、
今まで名前の漢字も思い出せなかったのに、
今、はっきりと両親の顔が思い出せた。
誕生日に笑顔で
大
次の日には仲直りをした事など。
沢山の笑顔や色々な思い出が、
ひどく遠く、
じわり、と目に涙が溜まって、
(あの時、だけかな。
あんなに2人が泣いたのを見たのは・・。)
と考えた所で、
ぷつりと思考が黒く
「思い出せたのは、ご両親の事なんですね。」
「はい。」
「やはり、
奴らが記憶を奪っているようですね。
おそらく、
〈小人〉を全て倒したので戻ってきたんでしょう。
〈小人〉だから7人だと思ってたんですが、
合ってましたね。」
予想が当たるって気持ちいいですね。
そう明るい声で言うと、
彼は何事も無かった
棚の調査に戻った。
その背中を見て、
彼女も側の棚を調べ出す。
少しの間2人が棚を調べる音だけが響いていたが、
「そうじゃなくて!」
と、手を止めた彼女が大声で叫び、
「今は
誤魔化さないで下さい!」
「あれ?流されませんでしたか。
そんなに睨んでばかりいると、
皺になりますよ。
皺が増えたら、
面白い顔が
その言葉を聞いた彼女は、
頭の中でゴングが高らかに鳴った音を聞く。
(この人、私に喧嘩売ってるよね?
絶対売ってるよね?)
(この失礼な人をどうしてくれよう)と
今の現状も忘れ、物騒な事を考えてしまった。
そんな彼女の心情を無視するように、
彼は深い溜息をつく。
「もうこの話、止めませんか。
俺は早く先に進みたいんですけど。」
「だったら、ちゃんと話を」
彼女が言い切る前にSは、
溜息と共に切って捨てた。
「誰が敵とか味方とか、
どうでもいいんです。
必要なのは、知りたいかどうかなんですよ、
俺が。」
「
「俺が、です。」
(この人は・・!!)
疑心より
別の
この会話に飽きてきたらしい彼は、
また棚の方へと視線を戻す。
「重要なのは、
相手に逃がす意思がないという事実です。
それ以外は、
どうでもいい事なんですよ。」
それに。
と、Sは彼女の方を少し振り返り、
何時もの
「人を
自分で動く方が、
早くて楽じゃないですか。」
それだけ言うと、
「さ、早く調べて次に行きますよ。」
とだけ
そのまま棚の調査を再開する。
(この人は。)
敵じゃない。
と、頭と心の両方が判断した。
確かに、
異質で怪しくて、その上失礼な人だが、
(今の所、嘘だけは言ってない。)
それだけは、本当で。
(それに)
彼の方を見ると、
何も無かったのか溜息を吐き、
別の棚に向かってまた調べ出す所だった。
その瞳は、
上の
好奇心に満ちた子供の
(取り敢えず、悪い人ではなさそうだし。
・・まあ、いいか。)
彼女も一区切りつける為に大きく息を吐き、
側の棚の調査を開始した。
その表情は
疑心と敵意はもうどこにも無い。
(疑うだけ、無駄だったのかもしれない。)
苦笑をしつつ、
棚の調査を続けながら、彼女は思った。
(疑う事は、もう止めよう。)
でも、
さっきの
手に思わず力が入り、
彼女が両親に、
「マナミって、結構根に持つね。」
と言われていた事を、
彼は知らない。
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