だれかたちと闇の中


悲しいよう。


と闇の中で声が響く。


ぐすぐす泣きながら両手で顔をおおい、

小さくうずくまったままで、

その存在は泣き続けていた。


「ああ、ああ!

悲しいよぅ、さびしいよぅ!


友達が一人、減ってしまった。

減っちゃったんだよぅ!


ああ、ああ!」


しくしく泣き続ける存在に、

冷静な声が掛けられる。


なげく必要はありません。

あれらは、何時でも増やせるのですから。


今は、

姫をお救いする事を考えなければ。」


その声に、

怒鳴り声が重なった。


「そう、そうよ!

今は姫が大事なの!


早く、早く助けてあげないと!」


手遅れになってしまうわ!


大きく叫び声が上がった途端とたん

泣き声がさらに激しくなる。


「ああ!早く助けてあげないと!


本当に、そうだ!そうなんだ!

可哀想かわいそうな姫、白雪姫!


オイラがもっと早く見つけてあげていれば!」


今度は両腕で目元を隠し、

その存在は激しく泣き続けた。


「ああ、泣かないで下さい。」


冷静な声が静かになだめる。


「泣かなくていいのよ!」


止めるように怒鳴り声が続いた。


「何をしてるんだい?」


やわらかな声がささやくように響く。


と、

泣き声以外がピタリ、

んだ。


「ああ、また泣いているんだね。

ほら、泣かないで。」


よしよし。


柔らかく、まぁるい声がかけられ、

泣き叫ぶ声が段々下火になっていく。



ぐすぐすと鼻声になるまでおさまった所で、

柔らかな声は優しくげた。


「どうして泣いていたんだい?

ああ、言わなくてもわかっているさ。


だって、ボクの事だからね。」


小さく笑みをふくんだ声が、

静かに響く。


「大丈夫。


〈小人〉はいつだって造れるって、

知ってるだろう?

姫をここへ助け出せたら、

また造ればいいよ。


ボクらはいつだって、

そうしてきたじゃあないか。」


ねえ。


同意を得るように語りかけると、


「そうです。」


「そうよ!」


と冷静な声と怒鳴り声がそれに答えた。


「ほら、ね。

さあ、姫を助けようか。


行こう。」


笑みをふくんだ声がげると、

闇の中の気配が消える。


「さあ、ボクらも行くとしようか。」


その声に応えるように、

ぐすぐすと鼻を鳴らし立ち上がった存在は、

ずるずると音を立て、

服と人形を引きずりながら移動を始めた。


「ああ、悲しいよぅ。

さびしいよぅ。

手をつなぎたいよう。」


「大丈夫。

すぐに、姫とも手をつなげるさ。」


ああ、悲しい。


大丈夫。


そんなり取りをしながらその存在は、

黒い涙を流したまま・・にやり、

と深い闇そのままの穏やかな笑みを浮かべる。


「早く姫を見つけよう。」


「そうだね、見つけよう。」


ぐすぐす、くすくす。


涙交じりの鼻声と、

柔らかな笑い声を闇の中に落とし、

その存在も空気に沈んでいった。


残されたのは、

深い闇と淀み切った空気。



雨音が、届く事も、ない。

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