第26話
3
「?」
後ろを振り返ると、見たことのない美少年がニコニコしながら立っていた。
え、誰。
「もしかして、ヒイラギくん?」
「え、なんで俺の名前、」
「僕、莉音の今の恋人なの。よろしくね!」
"りおん"
必死で忘れようとしていた、あのクソ野郎の名前。
聞いただけで悔しさと悲しさと怒りがぐちゃぐちゃと湧き上がってくる。
…あの野郎、もう新しい恋人作りやがったのか。くそ、美形はいいよな、必死で探さずとも顔に釣られて向こうから寄ってきてくれるんだから。あんなクソ野郎なのに、世の中は本当に差別でできてる。
俺だって新しい恋してえよ。
「ほら、莉音って面倒くさがりやでしょ。僕と付き合うってなったのに待ち受けが君とのツーショットのままだったの。僕すっごくショックでね!この人誰?って問い質したら『前彼のヒイラギ』って教えてくれて、そこで君の顔覚えたんだー。
あ、安心して、待ち受けは僕がちゃんと変えといたから!」
「あ、う、うん…」
ベラベラと美少年が喋るのを聞きながら、俺は反応に困っていた。
つか、あいつ別れてからも俺との写メ待ち受けにしてたのかよありえない。
俺なんか、別れてすぐにあいつとの思い出が詰まったスマホなんかバッキバキに割って危険物に出したわ。
そんだけあいつの中で俺との別れは大した事じゃなかったってことだよな。くそ、どこまで俺を惨めにさせるんだ。
「それでね、僕がヤキモチ焼いたって事実が嬉しかったみたいでそのあとすっごくしつこく攻められてね、もう超気持ち良かったの~!」
「…はあ…」
…この人、なんで俺に話しかけてきたんだろう。それで、なんでこんな話をしてくるんだろう。デリカシーがないにも程があるんじゃないのか?
俺が段々目の前の美少年にイラつき出した時、友人が既にポップコーンの会計をしているのが見えて、ハッとなる。
こんな話を聞かれたら俺の大学生活死んだも同然だ!
「あの、もう映画始まるし、友達のとこ行ってもいいか?」
「あ、そうだよね!ごめんね僕ったら!」
「いや、大丈夫。…じゃあ、」
一刻も早くこの少年から解放されたかった俺は、挨拶もそこそこにその場を去ろうとした。が、その前に美少年に呼び止められてしまった。
「あ、ヒイラギ君!この通り莉音は僕とラブラブだから、ヨリ戻そうとかって莉音に言い寄るのはやめてね!フラれて可哀想だから想うのだけは許すけど、僕たちの邪魔はしないで。お願い」
「おい、お前なに固まってんの?」
「…は、」
美少年の衝撃の一言に意識を失いかけていたらしく、正気に戻った時には既に美少年の姿はなかった。
「っはああああ!?」
なんだあれ、どういう事だよ!俺が、まだあいつの事好きだと思われてるってこと?もう別れてから2ヶ月くらい経ってて、あれから1度も会ってないのに?自分たちの仲を俺が邪魔しにくると思って、わざわざ接触してきたってことだよな?は、ふざけんな!
そもそもあいつあんな振り方しておいてまだ俺が自分を好いてると思ってて、しかもそれをあの美少年に言ったって事だよな。別れたくないって縋り付いたことすら消し去りたい過去なのに、誰がお前とヨリを戻したいなんて思うんだ。
馬鹿にするのも、いい加減にしろ。
美少年との接触でただでさえイライラしていたのに、最後に決定打を叩きつけられて俺の怒りゲージはもう破裂寸前だ。
友人が青い顔で引き気味に見つめてくるが、もう俺は怒った。
そんなに無理して彼氏を作るものじゃないなんてついこの間思ったばかりだが、前言撤回。何が何でもあいつよりいい男を捕まえて、今度は俺があいつに言ってやるのだ。
俺たちの邪魔はするなとな!!
手始めに出会い系に登録してやる!と思ったが、少し考えたらやはりちょっと怖かったので、明日またバーに顔を出すところから始めようと固く決意した。
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