第23話

3年目


「お前、飽きた。もういらねえわ。」


いつも通りのテンションと声音で、あいつはそう口にした。言われたことを、すぐには理解できなかった。


「、え?」


「お前顔も体も性格もフツーだし、正直もう飽きた。これからは他人ってことでヨロシク、もう話しかけてくんなよ」


さっきまで見ていたテレビを消して、あいつはソファーから立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」


俺は慌ててあいつの腕を掴んだ。


「嫌だよ、俺は別れたくない!俺、飽きられないように頑張るから、顔以外なら直すから…!」


みっともなく縋り付く俺を振り返ることもなく、あいつは溜息を吐いた。その冷たい反応に、体がびくりと震えた。


「まじでうっぜえわ。俺がいらねえって言ったらいらねえんだよ、お前は用済み。おら、離せよ、服が伸びる」


俺を冷たい目線が射抜く。心底鬱陶しそうに腕を引くのを、また俺は力を入れて引き止める。


「いや、だって、さっきまでいつも通りだっただろ?!そんな急に言われても…、お前の荷物はどうすんだよ」


「あー?もともとそんな持ち込んでねえよ。残ってんのは捨てていいから。

ハッ、3年も付き合ってて荷物があんまりねえって、どんだけ薄っぺらい付き合いだったかわかるな」


嘲笑うように言うあいつに、俺はやっと気付いたのだった。好きだったのは、俺だけだったんだって。

この3年は、お前になんの思い出も愛も残さなかったんだって。


手から力が抜けて、腕を離してしまった。あいつは再び玄関へ歩き出す。いやだ、嫌だよ。お前から告ってきた癖に、こんなに俺を惚れさせた癖に。


遂には涙が出てきて嗚咽が漏れる。それが聴こえないわけがないのに、あいつはそのまま俺のアパートを出て行った。


誕生日に一緒に買ったペアリングが、涙を浴びて濡れていく。俺の涙が毒物だったら、溶けてなくなってくれるのになと、馬鹿なことを考えた。




end.

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