第20話

俺の主はクズ野郎 3


一瞬で般若も泣きだすような恐ろしい顔つきになる主人。

やはりこれは言っちゃダメなやつだったか。プライドがスカイツリーよりも高いこの人が従者の俺に負けた(?)となれば、怒るのは当然だ。


「…あのクソ会長が?」


「はい。あの、でも冗談だったという場合もあるので…、」


「お前それになんて返したんだ」


なんとか主人の機嫌を直そうとするが、話を遮られてしまった。俺の話が遮られるのはいつものことなので「充さんに言われたようにしました」と気にせず言う。


瞬間、俺のシャツが主人によってバリィッという音を立てて破かれた。ボタンが散り散りに弾け飛ぶ。


「っ!!?」


俺の首元…恐らく噛み跡を無表情で見つめる主人が恐ろしすぎる。

シャツを握る手も、力が入っているのか血管が浮き、すこし震えている。


「あ、あの、充さん?」


呼びかけるが、何も反応を示してはくれず、困り果てる。

キョロキョロと目線を彷徨わせていると、やっと主人が喋ってくれた。



「…お前みたいな、美形でもなんでもない普通の男を、犯したいなんて思うヤツがいたとはな…」


「そ、そんなやつやっぱりいませんよね!冗談だったん、」


「仮にクソ会長が冗談でやったんだとしても、この俺が冗談で済ますわけねえだろ。なあ?」



稀に見るブチ切れ状態だ。これは早く避難しなくてはとばっちりで俺がボコボコにされてしまう。だけどがっちりシャツを掴まれているので逃げられる訳がない。


「ヤられてねえよな?」


「え?っうわ!」


「ヤ、ら、れ、て、ね、え、よ、な?」


疑問系なのに否定を許さない圧力をビシビシと感じる。一度目に問われた時にスッと答えなかったのが気に障ったのだろう、主人に両腕を掴まれ壁に磔にされた。背中を強かに打ったが、間近に迫る主人に見惚れてて気にならなかった。

会長の時は鳥肌しか立たなかったのにな…。


「すいません、殴って逃げました」


言いつけを破ってしまった事について詫びると、主人はニヤアと嫌な笑みを浮かべた。


「ふっフハハハ!ざまあ!!ぜってえ腫れあがるからな、折角の美形が台無しだ!ハーッハッハッハ!」


どうやら機嫌が少し回復したようで、安心する。それにしても悪魔の様な笑い方だな、恐ろしい。


「あの、手を離していただけますか。夕食の準備を、」


「あ?」


もうこの件は終わりだろうと思い声を掛けるが、不機嫌な声でまた遮られた。まだ何かあるのだろうか。


「お前さ、俺がどんだけイラついてるかわかってんの」


鼻がくっつきそうな程に迫った主人の顔に、やはり嫌悪は感じない。むしろドキッとしてしまった。


「成人して正式に俺の従者になるまで手は出さねえって、襲いたいの我慢してたんだぞ。なのにあんなクソに、横から奪われそうになったんだ…


…こんな事二度とない様に、お前は誰のもんかってことを今からこの体にじっくり教えてやんなきゃなあ?」




呼吸を奪い尽くすようなキスで意識が朦朧としているうちに、ヤラレタ。気づいたら全裸でベッドに押し倒されており、そのままヤラレタ。


朝起きると体の至る所が痛くて(特に尻の穴)、めちゃくちゃ泣きたくなった。

その日は学校をサボった。話しかけてきた主人を初めて無視してやったが、頬を優しくつねられただけだった。むず痒いからそういうのやめてくれ、マジで。顔が赤いとかそんなの錯覚だから。





登校しなかった俺は後日知ることになる。

全校生徒の前でカツラを会長に全力で投げ付け、

「あいつに手を出したてめえを俺は一生許さねえからな…」

と顔に包帯を巻いた痛々しい姿の会長を魔王の様な顔で脅す主人がいたことを。



end.

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