第18話
俺の主はクズ野郎 1
「充、俺の隣に座れよ」
「なにを言ってるんですか会長。充は私の隣に座るんです」
「違うよ、俺の隣だよ~!ね、充ちゃん!」
「ダメ…、みつる、俺の」
「俺を取り合って喧嘩するなよ!!みんな友達だろ!?仲良くしろよな!!」
美形たちがこぞって取り合うのは、目元まで隠す黒いモジャモジャを頭に乗せた、瓶底眼鏡を掛けた1人の男子生徒である。その男子生徒の声は、途轍もなく広い学園全体に響き渡りそうなほど大きい。
人がひしめく食堂で冒頭の様なやり取りを毎日見せられている他の生徒は、「生徒会室でやってくれ…。」と切実に願っている。
俺もそんなくだらないやり取りを遠巻きに見ている生徒の1人…であったならどんなに良かったか。
「俺の隣は保の指定席だから!!保、なんでそんなとこいんだよ、早くこいよな!!」
男子生徒がそう言った瞬間、美形たちが一斉に俺を心底憎いという目で見てくる。いつ殴りかかってきてもおかしくないほどの憎悪だ。
「俺は、ここでいいから…」
一応遠慮してみるが、男子生徒はズンズンとこちらに向かってくる。
俺の腕を痛いくらいにガッシリ掴み、耳元に顔を寄せてきた。
「てめえ、なに俺に逆らってんだ…?」
「…、はい、すみません…」
先程の声とは180度違うドスの効いたひっくい声で言われた。逆らったら後々酷いことをされる事がわかりたくないのにわかってしまった。美形たちよりこの人の方が数十倍怖い俺は、おとなしく隣に腰を下ろしたのだった。
*****
実は、この人は俺が小学生の頃からずっと仕えている主人だ。自己中で俺様で横暴で暴力的で変態で愉快犯な、どうしようもない主人である。
「おい、てめえ失礼な事考えてねえか」
「いや、まさかそんな…はは…」
髪の毛を拭く手に力が入ってしまった様で、ソファーに座っていた体をぐるりと反転させ、後ろに立っていた俺の腹に凄い勢いで拳をめり込ませてきた。俺は鍛えているので一般人より何倍も丈夫なはずなのだが、主人はそれの上をいく。
「うぐっ!」
あまりに遠慮のない痛みに蹲って悶絶していると、「早く拭け」という言葉が投げつけられた。この野郎…!
青筋を浮かせながらも黙って乾かすのを再開する。
主人が風呂から上がったら髪を乾かすのが日課の一つだ。
いつもは黒いモジャモジャが頭に乗っていて隠れているが、寮部屋に帰ってくるとそのモジャモジャを取り、自毛である艶やかな赤い髪を晒す。俺はこの髪が密かに大好きで、手入れは毎日欠かさずしている。しっとりサラサラで、できる事ならずっと触っていたい。
「ふ、お前はほんとこの髪が好きだな」
「え、何か言いました?」
「いや。それより、もう生徒会の連中は飽きたな、次の獲物を探すか」
飽きたならもうやめればいいのに…、と思いながらも口出しは勿論しない。「じゃあお前で遊ぶわ」と俺に矛先が向くのは目に見えているからだ。
ここに入学するにあたり、何処から知識を得たのかいきなり「俺、王道になる」と宣言し、入学する時期をずらして転入してきた。俺は普通に入学していたので、俺のクラスに転入してきた時にあのモジャモジャを初めて見て、失神しそうになった。あの美しい赤髪が、そんなああ…!と。
転入初日に、家の権力を振りかざして同室にした寮部屋で、主人の王道計画をきいた。「学園の美形という美形を俺に惚れさせて、学園をメチャクチャにする」というもの。
理由は、「おもしろそうだから」らしい。俺は心底呆れながら「勝手にやってくれ」と思っていた。
だが、主人の次の言葉で、他人事ではなくなった。
「お前は、俺の親友ポジションだ。いい具合に不細工だし、しっかり風除けになってくれそうだからな」
詳しく聞くと、まず主人が美形たちに愛される。その美形のファン(親衛隊というらしい)が怒り狂う。制裁を下そうとするが、美形に守られている主人には手を出せない。そこで、主人と共にいつも美形の近くにいる俺が、その制裁を受ける。ということらしい。
要約すれば、尻拭い任せたぞということだな。
「まあいざとなったら俺がさりげなく助けてやっから安心しろよ」
安心できる要素が一つもないと思うのは俺だけだろうか。
まあ、こんな見た目以外クズの主人に美形たちが悉く惚れるわけがないがな。と思った瞬間頬をグーパンされた。
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