第16話

ポチ内順位変動 2


「みーずきさあああん!!」


「うげっ!ポチ君!」



あれから1週間、無事にみずきさんの学年と組を知る事が出来、1日に2回は押しかけている。学年は2年で俺より一つ上。A組。ちなみに総長と同じクラス。


俺が2のAに行くと大抵総長と2人で喋っているか、総長がサボりの時は読書をしているみずきさん。俺を見つけると端正なお顔を瞬時に歪ませ、嫌そうな顔をする。

その表情も素敵です!!



「みずきさん、さっきの1限、外で体育やってたの教室の窓から見えました!サッカーはあんまり得意じゃないんすか?」


顔面をボールで強打したのを見て、顔が歪んでしまっていないかめちゃくちゃ心配したが大丈夫そうだ。安心したあ。


「なっ!み、見てたの!?」


「はい、バッチリ。綺麗なお顔が健在で本当に良かったです!」


顔を赤くして慌てるみずきさんまじで天使。美しすぎる。

満面の笑みを浮かべながら見つめていると頭をはたかれてしまった。照れ隠しするみずきさんも素敵です!!



「棗、ポチくんどうにかして!」


とうとう総長の後ろに隠れてしまった。こうなるとなかなか顔を見せてくれないので、いつも渋々自分の教室に帰る。今日も挨拶をしてからトボトボと教室を出てきた。



廊下を歩きながら、ふと疑問に思った。

そういえば、総長は不気味なほど俺に何も言ってこない。

ボコボコにされる覚悟で毎日通ってるのに、本当になにもしてこないのである。

ただただ、じっと俺を見てるだけ。


逆に恐ろしいが、暴力を振るわれないならそれに越したことはないから、気にしないことにしている。



「あ、ポチくん」


前方から副総長が歩いてきた。俺は彼には興味がないので無視して通り過ぎようとしたが、声をかけられてしまった。なんだよ。


「ポチくんってさあ、総長の事好きだったんじゃないのー?」


「?好きだったけど」


「じゃあ、みずき君に乗り換えたって事?それとも何か企んでるの~?」


なにを企むって言うんだ。

そうだな、乗り換えたって事になるのかな?



「純粋にみずきさん(の美貌)に惚れたんだ!!」


「あの短時間でどこに惚れたの!?だってあんなに総長の事好きだったじゃん!」


「そりゃあ総長も美形だけど、みずきさんの美しさには負けるよ」


副総長もまあまあな顔立ちだけど、総長よりも下だからなあ。尽くすほどではないんだよな。あとチャラチャラしてるのも嫌だ。



「ちょっと待って、総長の事好きだったんだよね?そんな顔だけ好きみたいな、」


「好きなのは顔だけだけど?」


「は?」


唖然とした顔をする副総長。

え?俺が総長を恋愛対象として見てると思ってたの?この人。普通に考えて男を恋愛対象で好きになるとかないわ。全く欲情とかしないし。


というか、仮に男を好きになるんだとしても俺は総長みたいに性格の悪い人は絶対に嫌だね。

俺の中で1番の美形だったから気にならなかったというか気にしなかったけど、本当にあの人性格悪いからな。

俺が言えた義理じゃないけど。



「顔がイケメンだとしても、暴力を振るう恋人は嫌だよ」


「ええー…」


間抜けな声を発して口元をヒクヒクさせている副総長。うーん、普段のニヤけた顔のがまだマシだな。その顔やめた方がいいよ。


でもそうか、これであんなにも邪険に扱われてた訳が分かった。男に狙われてると思ったら、そりゃあんな態度にもなるよな、納得。




******



飯の時間になったのでいつも通り2のAに猛ダッシュする。前にみずきさんに何か買って来ようかと聞いたら「そんなパシリみたいな事しなくていいから!」と言われたので財布は教室に置き去りだ。飯は3限目の休み時間の時にすでに腹に収まっている。


ああなんで菩薩のようなみずきさんが総長みたいな怖い人と付き合っているのか…。謎すぎる。やはり顔だろうか。


「みずきさんっ!こんにちわ!」


「ぽ、ポチくん」


教室の扉を開けて挨拶をすると、すぐ近くでみずきさんの声がした。扉付近にある自分の席に姿勢正しく座って弁当を広げているみずきさんに、首をかしげる。


あれ?みずきさんが総長の席にいないなんて珍しい。総長、この頃は屋上ではなく教室で飯を食っているから、一緒にいるはずなのに。


窓際にある総長の席を見ると、そこは見るも無惨な感じになっていた。総長のものとおぼしき机と椅子は、まるで蹴り飛ばしたかのように倒れていた。そこに総長の姿はない。


「棗ね、いつもはサボるはずの3限の授業に出たと思ったら、突然自分の机蹴り飛ばして何処かに行っちゃったの」


何だそれ恐ろしい。虫の居所が悪かったのかな。

総長は機嫌が悪いとすぐに物に当たる。あの屋上のソファが所々破れているのは彼が八つ当たりしたからだ。



「何かあったのかな…」


眉を八の字に曲げて心配そうな顔をするみずきさんに、いてもたってもいられなくなる。

どんな表情をしてても素敵だけど、やっぱり総長といる時の笑顔が1番綺麗だ。



「みずきさん、俺が総長に何があったのか聞いてきます!!」


「えっ、ポチくん!?」


「みずきさんは安心して午後の授業を受けててください!」



いつも総長は物に当たった後、それでは収まらないのか路地裏に屯するヤンキーをボコしに行く。ヤンキー達、総長には特に何もしてないのにすごい可哀想だなとずっと思っていた。



今までストーカーの様につけ回していた甲斐があったな。

俺は張り切って走り出した。


待っててくださいね、みずきさん!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る