第15話
ポチ内順位変動 1
「そーちょー!!こんにちわーっ!!」
いつも通り授業が終わってすぐに屋上へやってくると、ソファに座る総長の隣に見たことのない人が座っていた。
「ん?」
誰だろう。
あのソファに総長以外が座っているのは初めて見る。あの副総長でさえ座らないのに。
総長や副総長たちはいつも俺が来てもスルーだけど、その人は小首を傾げて不思議そうにこちらを見つめてきた。
取り敢えず総長の近くに歩いて行くと、その人の顔がハッキリ分かるようになった。
「ふあっ!?」
お、王子様!?ですか!?
黒髪黒目は俺と同じなのに、なんだろうこの透明感は。サラッサラな髪の毛。シャープな輪郭。唇は少し厚めで、口紅を塗っているかのように真っ赤だ。瞳はうるうるで、肌も透き通るように白い。頬は暑さのせいだろうか微かにピンクで、壮絶な色気があった。
「ふおおおおお」
眩しい!眩しいです王子様!
総長以上に美形だ。こんな綺麗な人初めて会った。2人が並ぶとそれはもう絵になる絵になる。
突然奇声を発した俺を驚いた顔で見つめる姿もやばい。目が大きく見開かれても、むしろ美しさが増してる。
「おっおなまえをお聞きしてもよろしいですかな…!?」
「えっ、僕?」
はああん。声まで完璧に美しいなんて!決して女性のような声という訳ではないのに、なぜこんなにも色気があるんだ!耳がとろける!
総長や副総長、それに幹部の人までこちらに注目しているのが視界の隅に写ったが、俺は今この目の前の王子様を見つめるのに忙しい。そちらを気にしてる余裕などない。
「えっと、」
オロオロしている彼を舐め回すように見つめる。隣にいる総長に助けを求めるようにちらちら見上げる姿は鼻血モノだ。総長はこちらを不審そうに見ていたが、やはり今は構ってられない。
「…ポチくん、どったの~?珍しくない?総長以外に話しかけるなんて」
「え、ポチって、前に棗が言ってたストーカーの人っ?」
す、ストーカー。確かに総長を付け回していたけど、そんな風にこの人に紹介するなんてあんまりです総長!
俺をポチだと認識してすぐに、彼は俺をキッ!と睨み付けて、ソファから立ち上がった。
目の前に立たれると、少し俺より背が高いことがわかった。あとなんかいい匂いがする。香水かな?ハスハス!
「僕はみずき。棗は僕の恋人だから、ストーカーはやめてもらえるかな」
「みずきさん!!総長のストーカーはやめるから、代わりにみずきさんのストーカーしてもいいですか!?」
「「「は!?」」」
え?
副総長やみずきさんは分かるけど、総長にまでそんな驚かれるとは思わなかった。
いや、総長の恋人だって言ってたから、自分の恋人にストーカーが付くとなったらそりゃあ驚くか。
みずきさんはさっきより更に困惑した顔になって、背後の総長を伺い見る。
ああー、なんでこんなに髪の毛サラサラなんだ、寝癖が一欠片も見当たらない…!シャンプーのCMかよ!
「みずきさんシャンプーは何を使ってるんですか?リップとかしてます?あ、洗顔クリームは?」
「ひい!」
ズイズイ近づきながら次々と質問すると、みずきさんは悲鳴を上げて「ぼ、僕もう帰る!」と屋上から出て行ってしまった。
ええええ、そんな!
まだ名前しか聞いてないのに!
「おい、ポチ」
ガックリと肩を落としてみずきさんが出て行った扉を名残惜しげに見つめていると、背後から総長に呼ばれた。
「なんですか、総長」
いつもより冷静な声が出た。そりゃあ総長もイケメンだけど、みずきさんを見た後じゃ昨日までのようには魅力を感じなかった。
「てめえ、さっきのはなんだ?」
人を殺しそうな目で見てくる総長。でももうそんなの慣れっこでして全然怖くありませんよー。
そうだ、みずきさんとお近づきになりたいからもう明日からここには来ない事をきちんと言わないといけないな。
「あの、今まで付き纏ってすみませんでした!もうここには来ないので、許してください」
俺はぺこりと頭を90度に下げて、総長に謝罪する。迷惑を掛けたのは本当だから、そこは人として謝らないとな。パシられてただけだとしてもな!
「…」
総長は無言で俺をじっと見つめるだけでなにも言ってくれなかったので、俺は「じゃ、じゃあ帰ります、今までありがとうございました」と言ってそそくさと屋上から出てきた。
副総長が何か言いたげな顔でこちらを見てきたが、それは完全にスルーした。
「よおおおっし、まずはみずきさんが何年何組なのか調べなきゃなー!!」
はー、早くあの美貌をもう一度拝みたいな!破壊的な美しさだったなあ…、芸能人やモデルなんて目じゃなかった。
ウットリしながら階段を降りていたら躓いて転がり落ちて鼻血が出た。
…いたい。
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