第11話


それってさ 1


この頃恋人の九条が変だ。というか、全くといっていいほどセックスをさせてくれない。


「九条、今日はヤるよな?」


「…いや、今日も体調が悪いからやめておく。」


「はあ?今日もかよ!?お前そう言ってもう何日も経つじゃねえか!んなに調子悪いんなら病院行け!!」


怒鳴りつけるが、あいつは「そこまでじゃないから大丈夫だ。僕はもう寝る、おやすみ」と言ってベッドに潜り込んでしまった。



******



欲求不満のせいで昨夜は全然眠れず、結局3時くらいまで起きていた。目の下には大きなクマが出来てしまって、俺のかっこいい顔が台無しだ。


苛立ちのままにがつんがつんとあのクソ野郎の寮部屋の扉を蹴りながら「おい、開けろ不細工!」と怒鳴りつけると、ゆっくりと扉が開いて憎いあいつが顔を出す。

俺を視界に入れた瞬間、眉間にぐっと皺を寄せた。



「部屋ん中に入れろ」


「は?」


「どけ」


あからさまに嫌そうな顔をした不細工を押し退けて中に入る。後ろから「これって不法侵入じゃないですかね」という声が聞こえたが、当然無視した。


リビングにあったソファに勝手に座り、茶を要求する。

溜息を吐いた不細工は安そうな茶を出して「何しに来たんですか」と言ってきた。


「わかってんだろ」


「はあ?」


「てめえが九条になんかしたんだろ!」


あいつがこの頃おかしいのは絶対この不細工のせいだ。そうに決まってる。

一方的にふられたからって、弱みか何かを握ってあいつを脅しているに違いねえ。


「なんですかそれ?またお得意のイチャモンですか」


「んだよそれ」


「俺があいつと別れてからしょっちゅう俺の所来てイチャモンつけて来たの、俺は忘れてませんよ」


「イチャモンじゃねえ、事実だろ」


不細工はまだ九条に未練タラタラだから何をするかわかったもんじゃねえと思い、よく俺様直々に忠告に行っていた。最初はもっとしおらしかったのに今じゃこんな態度で、こいつマジで調子乗ってる。



「九条がどうかしたんですか」


「どうもこうもねえ。あいつこの頃全くヤらせてくれねえんだよ」


「え?」


ポカンとした顔をして、何かを思案し始める不細工。んだよ、何が引っかかったんだ。


「…それって、いつからですか?」


「あ?あー、大体2週間くらい前だな」


「2週間前って…」


「てめえ、やっぱりなんかしたんだろ!」


「してねえよ!」


じゃあなんだよと問うと、歯切れ悪く「いや…」と言ったきりまた何かを考え出す。


「んだよ、ハッキリしろ」


「…九条、あんたに入れたいとか、言い出したりしませんでした?」


「え?」


入れたい?そんなことあり得な…、いや、待てよ。なんか一回だけそんなような事をいってきた気がする。

冗談だと思ったので逆に押し倒して滅茶苦茶に抱いた記憶がある。

それを聞くと、納得したように頷きわざとらしく人差し指を突きつけてきた。


「それです」


「あ?」


「九条は息子を使いたくて仕方がないんですよ」


俺は理解ができず間抜け面を晒す。え?どういうことだ。


俺が理解していないのを察した不細工はいつもの数倍不機嫌そうな顔をして

「あいつ、ここ2週間くらいずっと、俺に入れさせろってしつこく迫ってくるんです」と更に理解出来ないことを言った。


………。


「はあっ!?お前妄想激しくねーか!?」


「妄想じゃねえし」


こいつマジで頭イカれたか…。九条みたいなビッチがタチやりたいなんてこと、冗談以外で言うわけがない。心底馬鹿にしたようにそう言えば、不細工は再度溜息を吐いた。



「…口で説明するより直接見た方が早いわ」


「何をだよ」


「もうそろそろだから、テレビでも見て待っててください」


何がそろそろなんだ。テレビの電源を付けるあいつにそう問おうとした時、玄関のチャイムが鳴った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る