第3話

あとのまつり 2


あいつが手作り弁当を作り始めて今日で1週間が経った。

今日も裏庭でみつたかと昼食を取っていると、僕の背後を見たみつたかが何故か急に葛野の弁当を吹き出した。


「ぶふぉっ!」

「ちょ、なに!?汚っ!」


「おい、早川 愛斗」


背後で自分の名前が呼ばれたので振り返ると、なんとそこには。


「!?!?かっ会長様…っ!?」


この学園で最も格好良くて頭も良くて権力のある、あの憧れの生徒会長様が立っていた。

僕とみつたかは慌てて立ち上がり、サッと姿勢を正した。


「早川 愛斗、いきなりだがお前が好きだ。俺と付き合ってくれ」


「「…は…!??」」


夢ではないかと思う程のあり得ない言葉に、僕とみつたかはしばし呆然としてしまった。でもそれは夢でも幻覚でもなくて、まぎれもない現実。


「よっ喜んで…!!!」


やった、やった!!葛野家なんかよりも余程権力のある会長様の家ならばお父様も文句は言えないし、これで婚約破棄が出来る…!!

僕は歓喜に打ち震え、すぐに家に連絡を取った。


その時みつたかが眉を顰めて僕を軽蔑の目で見ていた事には、全く気づく事が出来なかった。




僕と会長様が付き合い始めた事はすぐに学園中に広まり、葛野は会長に恋人を奪われた可哀想な負け犬として全校生徒に馬鹿にされた。


葛野との婚約破棄に最初は渋っていたお父様だったが、数日で意見を翻し僕と会長様の交際を応援してくださった。


「何故あのひょろ長い平凡男と付き合っていたんだ?脅されていたんなら、この学園から追い出すことも出来るが」

「親同士が決めた婚約だったんですよぉ…、僕だってあんなのと付き合いたくなんてありませんでした。会長様にはとても感謝しています」

「ふ、そうか…。あいつが邪魔になったらすぐに言え、何処へでも飛ばしてやる」

「ありがとうございます会長様!大好きですっ!」


ああもう格好いい。この美貌、この態度、この権力。まさに王様。

まだ特にあいつには何もされていないけど、なんかしてきたらすぐに会長様に言い付けて潰してやる。


「あ、みつたか」


廊下の向こうからみつたかが歩いてくるのが見えたので、会長様に一言言って駆け寄る。


「みつたかー、久し振り~」

「ああ、おう」

「僕とご飯食べれてなくて寂しかった?ごめんねー、会長様が離してくれなくてさ~」

「はいはい、幸せそうでなによりだよ」

「うふふ。今日くらい一緒に食べたげよっか?」

「いいって。お前は会長様とラブラブしとけ。俺、人待たせてっからもう行くわ」

「?、わかった。でもお前僕以外に友達なんていたっけ?」

「友達じゃねえけど…、」


そう言って黙り込んでしまったみつたかが今まで見たことがない程優しく笑ったので、僕はすぐにピンと来た。


「その人の事好きなんだ?」


ニヤニヤしながらそう問うと、みつたかは少し照れながら、肯定した。


「ああ…、すごく、可愛いやつなんだ」

「…ふふ、うまくいったら紹介してよねっ」

「…あー、いや…それは無理かも…」


苦笑するみつたかに疑問符を浮かべるも、その意味を話さないままみつたかはその人の元へ行ってしまった。


みつたかがその手にあのうさぎ柄の弁当袋を持っていることには、最後まで気付かなかった。



******



長期休暇に実家に帰ると、すぐにメイドにお父様の書斎へ行くように言われた。


「お父様、ただいま帰りました。何かご用ですか?」

「ああ…、おかえり愛斗。お前、彼氏との交際は順調かい?」

「勿論です。それが何か…?」

「いや…、じゃあ、聖也(せいや)くんはどうしてる?」

「…ああ、葛野は…普通に元気なんじゃないかと思いますけど…。もしかして、葛野家からなにか言われてしまいましたか?それなら会長様に…!」


僕がそう自信満々に申し出ると、お父様は盛大に眉を顰められた。


「…なにを言っているんだい。むしろあの子は、お前と彼氏の為に自ら身を引いたんだよ」

「…は?どういうことですか?」

「私はね、本当はなにを言われてもお前と聖也君の婚約を取り消すつもりはなかったんだよ。なのに、聖也君の方から婚約を破棄してほしいと言ってきて…、だから仕方なく今回の交際を認めたんだ」


お父様が言っている事をあまり理解できなかった。

あいつが婚約破棄を申し出た?あんなに僕のことを愛してるあいつが?そんな訳ない。お父様は絶対に何か勘違いをしている。


「あの、お言葉ですが…。あの葛野が、そんなに聞き分けがいいとは到底思えません。付き合っている時も、しつこいくらいに僕に迫ってきていて…」

「え?聖也君に結婚してとしつこいくらいに迫ったのは、お前の方じゃないか」

「は!?」


やはりお父様は盛大な勘違いをしてらした。なにを馬鹿なことを!そんなにお年でもないのに、もうボケが始まってしまったのか?


「この婚約は、お父様達が勝手に決めたものじゃないですか。それに従って、僕は仕方なくあいつと…、」

「…まさか、忘れたのかい?」

「は?」

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