第099話:ろまんちっく村にたどりついた。
羽生パーキングエリア【鬼平江戸処】を出て、また東北自動車道の下りに乗って北上。
そのまま栃木県に入り、宇都宮インターチェンジまで行っており、そこから数分の下道。
そこに次の目的地がある。
【道の駅 うつのみや ろまんちっく村】
この辺りでも、かなり大規模な道の駅で、オレが一度は来てみたいと思っていた場所だ。
どうもファミリー向けやカップル向けの香りが強くて、なかなか足が向かなかった道の駅である。
しかし、実際に来てみると、もっと早く来るべきだったと後悔した。
まず、広い。
関連施設まで入れると、本当に広い。
その広い敷地は、いくつかのエリアに分かれている。
まず、正面口がある「集落のエリア」。
ここには道の駅おなじみの地元農家のとれたて野菜や名物を売る市場、それにイベント広場、数店舗が並ぶファーストフードコートに、食事処が3店舗、遊具のある公園、ちょっとした植物園がある多目的ドーム、さらに温水プールに温泉施設まで備わっている。
その横にある「森のエリア」には10ヘクタールの森が広がり、竹林などを散歩して楽しむ事ができる。
5月には筍掘りができるらしい。
最後の「里のエリア」には、イチゴハウスなどの体験農場や、芝生の広場、中・大型犬用のドッグランなどが用意されている。
すべてまとめて、なんと46ヘクタールという広大さだ。
「これは……本当に広いわね」
正面玄関をくぐった後、案内図を見ながら十文字女史がメガネを直す。
「ええ。駐車場だけで5箇所ぐらいありますしね。かなりのもんですよ」
「……そう言えば、そんなに駐車場があるんだから、いくら近いからって混んでいた正面ゲート前の駐車場を狙わなくてもよかったんじゃないの?」
そう。オレはわざわざ、正面ゲート前にある一番狭い第一駐車場が空くまで待ったのだ。
他の駐車場が空いているのにである。
もちろん、理由はある。
「いや、車中泊のためなんっすよ。実はここ、第一駐車場以外は夜になると追いだされちゃうからさぁ。しかも、第一駐車場内も夜になると大型車が駐める場所と普通車が駐める場所が変わるところもあるとかで……」
だからオレは、念のために確認しておきたかったのだ。
車を駐める場所というのは、車中泊にとって非常に重要である。
事前確認できるチャンスがあるなら、こんなに助かることはない。
「そ、そう……なる、ほどね……」
そのオレの言葉に、なぜか女史が狼狽した返事をする。
しかも、オレから視線をそらす。
「……あのぉ~。なんっすか?」
「なっ、なにがかしら?」
「つーか、なんか変っすよ、女史……」
「別に! ってか、大前君はそんなに車中泊したいわけ?」
なぜか怒っている。
わけがわからないが、まあ下手にふれない方がいいような気がする。
「う~ん、好きだからなぁ……。ああ、それに特にね、ここは珍しいんですよ」
「珍しい?」
「そうそう。道の駅ながら『滞在体験型ファームパーク』って謳ってるんです」
「……滞在?」
「そう、滞在。つまり最初から泊まることが考えられている道の駅なんですよね。ただし、もちろん車中泊というわけではなく、『ヴィラ・デ・アグリ』という宿泊施設があるので、そこに泊まるのが前提だけど」
「道の駅に宿泊施設があるの?」
「他にもあるところはありますが、ここは温水プール『アグリスパ』や、温泉『湯処あぐり』まであるのが特徴かな。温泉は露天がなかなか広いみたいですよ」
「温泉は聞いていたから、視察もかねて入る用意もしてきたけど……宿泊は……」
「ああ、もちろんそっちは予約いれてませんしね。今日は風呂でさっぱりしたら帰りましょう!」
「…………」
ん?
なんかまた女史が、考えこみ始めたぞ。
なんだろうか?
どうにも様子が変なような気がする。
「まあ、とにかくまずは物産市場を見に行きましょう!」
「そ、そうね……。うん、そうしましょう」
やっぱりなんかぎこちないが、とりあえずオレたちは物産市場を見に行った。
到着が昼過ぎだったが、在庫はいろいろと揃っていた。
お土産の品も豊富で、さすが宇都宮だけあって、餃子味のお菓子や、餃子用ラー油なども並んでいる。
「今日は内密だから、会社へのお土産はなしね」
そう言いながらのくすりとした笑顔に、オレの心臓が高鳴ってしまう。
なんだろうか、女史の普段とのギャップは。
ギャップ萌えって凄いパワーだ。
「他も見に行くわよ!」
「う、うすっ!」
女史の意見で、まずは「集落のエリア」の中の施設を一通り見ることにした。
市場を出て広場を進むと、左手にはファーストフードコートとして小さな店が軒を連ねている。
餃子、ベーコン等のビールのおつまみに最適な物が並び、そして地ビール各種が売っている。
さらに横にはパン工房があり、毎朝焼きたてのパンが並ぶらしい。
外に焼き窯が設置されており、日時によってはパン焼き体験もできるようだ。
他には、愛犬と一緒に食事ができるテラス席完備の、地元食材を使った「麦の楽園」というレストランや、ラーメン店、そばなどの食事処も別棟に並んでいた。
正直、目移りするほどのメニューである。
(……ああ……ビール呑みてー……)
そんな魅力的な食べ物を見て、オレの心が悲鳴をあげる。
ここの地ビール「餃子浪漫」は、呑んだことがある。
しかし、ここには他にもたくさんの地ビールがあるのだ。
車中泊できたら呑めたのだが、今日は女史も一緒である。
無理だ。車中泊などできるわけがない。
物事は諦めが肝心だ。
本当は現地で呑むのが美味しいのだが、今日はせめてお土産に買って帰ろうと決意する。
そこから中央のカスケードを通ると右手には、イベントが行えるドーム状の建物「ローズハット」があった。
そこには、無料で見られるちょっとした植物園がはいっているので、とりあえず女史と見学。
女史は楽しそうにデジカメで写真を撮りまくる。
あれ、あとで整理するの大変だろうなとオレは苦笑いするが、とにかく楽しそうなので今は黙っておく。
それからローズハットとは反対側にある、温泉とスパ、そして宿泊施設が一体化した建物に向かってみた。
途中、木製の橋というか通路がなかなかオシャレだ。
そして、建物の形も変わっている。
まず手前は、スパがあった。
泳いでいるところが少しうかがえたが、なかなか楽しそうである。
しかし、オレたちは時間がないので今日はパス。
できたら、女史の水着姿を拝みたかったところである。
その奥は、廊下……なのだが、そこに宿泊施設の部屋が並んでいる。
温泉に続く廊下に、客室の扉が並んでいるのは妙な一体感である。
廊下を通りぬけると、途中にもう一件食事処があり、さらに突き当たりが温泉となっていた。
「温泉は最後の楽しみということで……。そろそろお腹も空いてきたわね」
確かにそろそろ食欲が暴れだしている。
「さっきのフードコートに戻って、いろいろと食べてみましょうか」
「いいっすね! ……ああ、でもビールが呑めないのが本当に残念だ。代わりに、女史はしっかりと味わって呑んでくださいね!」
もちろん、嫌味とかのつもりはない。
だからオレは努めて明るく、冗談めかして言っておいた。
しかし、ふと女史が足をとめて、俺に背を向けたままで俯いてしまう。
「女史?」
「……大前君も呑んじゃいなよ」
ふわっと髪を揺らしながら、女史が三角のメガネの下で悪戯っぽく笑った。
「……またまた冗談。飲酒運転はしませんよ」
「うん。もちろん。だからさ……今日は、車中泊しよう!」
「……えっ!?」
オレは女史の言葉で、ビールを飲む前に、息を呑んで固まってしまった。
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※参考
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●道の駅 うつのみや ろまんちっく村
http://www.romanticmura.com/
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