第087話:オレの戦いを終えたのだった。
「いや。伝説ではない」
オレの「失敗」の文字を打ち消してくれたのは、また魔術師だった。
もしかしたら、この魔術師こそ、オレの救世主かもしれない。
ありがとう、無駄に頭のいい魔術師!
「神人は本当にいる。……先日のアンデッド大量討伐事件があっただろう」
魔術師の言葉に、少し上目づかいをしてから筋肉バカが「おお!」と反応する。
「あれか。禁区であった、神人が関わったとかいう噂の。神人とその仲間数人で、アンデッドを5万ぐらい斃したとかいう眉唾物の……」
「本当だ」
「……あん?」
「あれは本当のことだ。私はその神人が戦うところを見ていたからな。今まで見たこともない力で、次々と斃していた。しかも、1体1体ではない。あるエリア内を1度の攻撃でまとめて葬っていた」
「……まじかよ」
(……まじかよ)
オレも筋肉バカの言葉にハモるように心で呟く。
5万って……5万体だよな?
アンデッドモンスター5万体を斃しちゃったの?
それ、とんでもなくね? それ、オレと同じ神人なの?
なにそれ、まさにチートキャラって奴?
そいつが仲間だったら、超助かるんだけど!
「ほほう。そうか。
――って、思っていたら、なに言ってんだ、オレ!?
とんでもないハッタリが口から飛び出てしまった。
しかし、口に出したからにはもう止められない。
「……貴様、あの神人の知り合いか?」
「まあ、な。たぶん、それはオレの友人だ」
「…………」
「おっと。アイツの事を教えてくれと言われても教えられないぜ。簡単に情報を渡すわけにはいかないからな」
つーか、ぶっちゃけ知らないから教えられないだけだけどな。
「…………」
魔術師が顎に手を当てながら、こちらを睨む。
おかしい。
正面に立っているのに、不自然にも顔の鼻下から半分からがうかがえない。
フードの陰になっているからと最初は思っていたが、正面から見るとまるでそこに闇がかかっているかのようだ。
そしてその闇の中に光る赤い光が、こちらを突き刺すように見つめていた。
(ヤバいヤバいヤバい……ちびるちびる……怖いマジ怖い……)
必死に耐えた。
一世一代の大芝居だ。
「神人。もう一度、名前を聞いておこうか?」
「……名前を聞くなら、自分から名のるのが礼儀だろう!」
お芝居モードのままで、定番の台詞を言ってみる。
別に名のってもいいんだけど……すまん。一度、言ってみたかったというのもある。
「神人の礼儀など知らんが……まあ、いいだろう。私はニンバス・クロニクル」
「ニッ……ニンバス・クロニクルだと!?」
顔を顰め、うぐぐと呻るアズパパ。
それに合わせるように、周りもざわめく。
「……なに? 有名人?」
オレの質問にアズパパが、横で顔をひきつらせたままコクリとうなずいた。
「ある街をひとつ一夜で滅ぼしたことがあるそうだ……」
――ゴクリッ
思わず喉が鳴る。
なにそれ。強い上に凶悪なの?
ってか、あのアズパパまでちょっとビビってませんか?
計算外に強すぎたってこと?
「で?」
「……はい?」
魔術師に声をかけられ、オレは少しうわずって応えてしまう。
「貴様の名前だ。さっき聞いたが記憶に残していなかったんでな」
「あ、ああ。……アウト。神人のアウトだ」
「アウトか。今度は憶えておこう」
憶えなくていいです。いや、マジで。
「アウト、ここは貴様に免じて退いてやってもよい」
「ちょっと待てよ! やらないってのか!?」
筋肉黙れ。魔術師様が退くと言っているだろうが。
「こいつが神人というのも、あの化物神人と仲間というのも……どうやら、本当らしい」
「……マジかよ?」
「その魔法生物の魔力の質……あの化物じみた神人と似たような臭いがする……」
魔力って臭いあるの?
いや、でも、なんか納得してくれている?
理由はわからんけど。
「あの化物神人を敵に回したくないし、その魔法生物とやらもなにやら得体が知れない。……まあ、貴様自体はどうも大したことなさそうだが」
「…………」
ぐーの音も出ない。
「ただし、こちらも帰路がある。3日分の美味い食料と水、酒。それを2人分。友好的な来客に土産を持たせるぐらいかまわんだろう?」
「…………」
オレがアズパパに視線を送ると、アズパパは首肯する。
「ちょうど我が娘と、アウト様の婚姻の儀があり美味い料理もまだ残っている。すぐ用意させよう」
「ほう。結婚か。それはめでたいな。はれて、この村は神人と血縁を結んだ訳か」
「……そうだ。この村に害する者がいれば、このアウトランナーが地の果てまで追いかける。こいつ、速いから逃げるのは難しいぞ」
今ひとつカッコイイ台詞は思い浮かばなかったが、できるかぎり威しをかけてみた。
胸を少し張って、オレは魔術師を睨んでいる。
虚勢を張ってはいるが、これでも覚悟は本物だ。
「…………」
すると、魔術師は鼻で嗤ってから、両肩をヒクリと動かした。
「わかった、わかった。それもお前の名前と一緒に憶えておく」
つーか、オレの名前は忘れてくれていいです。
むしろ忘れてください、お願いします。
とにかく、それで手打ちとなったのである。
オレは戦いに勝った。
つーか、虎の威を借る狐のハッタリだったけどね……。
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