第077話:そして関東一の道の駅へ行った。

「おお! なかなかすごいですよ、アウトさん! 芝生ですよ、芝生!」


 青さがまぶしいぐらい澄みきった空の下、妙にミヤがハイテンションだ。

 横ではアズが、興味深そうに周りを見ている。

 山に囲まれた景色の中に、丘のように高低差がある芝生の大地が広がっている。

 そこには瓦葺きの平屋建て施設が点々とし、多くの観光客がその間を行き来していた。


「ここですかぁ。関東ナンバーワンを何度も受賞したという道の駅は!」


「なにか不思議な感じのところですね……」


 アズが微笑むので、オレも微笑んで返す。


「面白いだろう? この国にはね、車で立ち寄ってゆっくり楽しむ施設がいくつかあるんだ」


「その中の一つが、ここのような道の駅ですよね。でも、私がこちらに来た時の道の駅とはずいぶん雰囲気が違うのですね」


「場所によって特色を出しているからね。ここは遊具のある大きめの公園やら、ブルーベリーという果物の木がある公園などもあるし、おいしい食べ物を売っている店もたくさんある」


「なるほど。大きめの施設なのですね」


 ミヤがふりかえって、アズに「そうなのです!」といいながらビシッと指をさす。


「ここは関東でも有名な道の駅【川場田園プラザ】なのです!」


「そうなんですかぁ。ミヤ様、道の駅についてもお詳しいんですね」


「……てへへ。実は、初・道の駅なの」


「あら、そうでしたか」


「でも、ここは有名だから来てみたかったんだよねぇ~」


 東京から関越自動車道を北上し、沼田ICインターチェンジでおりてしばらく走った場所。

 群馬県利根郡川場村にある「関東好きな道の駅」で何度も1位に輝いた道の駅だ。

 都内から距離はけっこうあるのだが、ミヤの要望でここに来ることになった。

 まあ、もともとオレもここには一度、来てみたいと思っていたのでちょうど良かったかもしれない。

 もちろん、規模がでかいので駐車場もでかいし、臨時駐車所もいれればかなり広い。

 だが、その駐車場もすでにほとんど埋まっている状態だった。

 さすがにかなりの人気ぶりだ。

 これだけ人が訪れていれば、魔力の方も問題ないだろうと思っていたが、先ほどアズからお墨付きももらえた。


「まずは山賊焼きですよ! 行きますよ、アズちゃん!」


「はい!」


 アズもノリノリだ。

 もちろん、オレもワクワクしている。

 ここはグルメスポットとして有名だから、しっかりと味あわせてもらう。

 小走りする2人に、オレも一緒について行く。

 まず向かったのは、「ミート工房」というお店だ。

 ここでは自家製のハム、ソーセージをボイルし、鉄板で焼いただけのB級グルメが食べられる。

 ソーセージやチョリソーは、かなりジューシーだ。

 肉感たっぷりで、噛みつけば口の中でプチプチと音を立てる。

 それをみんなで頬張る。

 そしてオレは、それにビールを合わせる。

 ビールも地元の「川場ビール」だ。

 その中でも基本のヴァイツェンをチョイス。

 にごりビールなのだが、甘い香りが強くスッキリとした味わい。

 ソーセージにピッタリだ。


「あっちのピザも行きましょう、ピザも!」


「はい!」


 ピザが何かよくわからないはずなのに、アズはつきあいよく返事をする。

 たぶん、アズも楽しくて仕方ないのだろう。

 来た時も、山賊焼きを食べた時も、とにかくずっとニコニコと笑みを絶やさないでいる。

 そんなアズをもっともっと喜ばせてあげたい。


「よし! この際だからドンドン行くか!」


「おお!」


「おお!」


 ミヤのマネをしてアズも腕を突きあげる。

 なんとも子供らしい一面だ。


 ピザ工房では、マルゲリータを一枚だけ頼んで、3人でわけて食べる。

 これもまた、チーズの香りとトマトソースの酸味がすばらしい。

 窯焼きされた生地のもちもち感もかなり素敵だ。

 そしてなんと言っても、それを自然の中で食べるのはうまさを数段レベルアップさせてくれる。


 他にも美味そうな物はたくさんある。

 だが、さすがにそこでとりあえずはストップだ。

 少し遅い朝ご飯だったが、まだ昼も夜も楽しみはある。


「よし! 次は散歩ですよ! 中を見てまわりましょう!」


「はい!」


 今日は、もうずっとこのノリだ。

 オレの方は、2人の娘を保つ父親にでもなった気分である。

 でも、まあ、これだけ楽しんでもらえれば、連れてきた甲斐もあると言うものだ。


 公園で遊んだり、お土産屋を覗いたりと楽しく時間を過ごした。

 夕方になったら、少しソーセージや野菜などを買い込んで、向こうの食料の足しにしようと計画する。

 今日は三人も寝ることを考えると、荷物がかなりつらいことになっていた。

 やはりルーフボックスをつけるべきだろうか。

 しかし、ルーフボックスをつけたとして、ちゃんとルーフボックスも異世界転移シフトチェンジしてくれるのか心配もある。

 それにルーフボックスをつけたとしても、やはり荷室ラゲッジルームで三人寝るのは不可能だ。

 先日、調べていて知ったのだが、世の中にはルーフテントなる物もあるらしい。

 普段は平べったいルーフボックスのように見えて、展開すると車の上にテントができるのだ。

 一層のこと、そういうのを買うべきなのだろうか。

 しかし、それでも荷物問題は解決できない。

 最近、読んでいる車中泊雑誌にあった、ラゲッジルームで寝やすくするための車中泊ベッドというのを導入するのも良さそうだ。

 それならば、ベッドの下に荷物を置けるので、意外にスペースの確保もできるだろう。


(……つーか、別にいつもこの三人で車中泊するわけじゃなんだよな)


 オレは、つい暴走気味になっていた思考を止めた。

 結局、オレはこの生活が楽しくて仕方なかったのだ。

 しかし、3人で異世界に行っても、帰ってくるのは2人だ。

 今日で、この生活も終わるのである。


(もし、異世界転移シフトチェンジが発生しなければ……)


 オレは一瞬、脳裏に浮かんだその考えを慌てて振りはらう。

 アズだって本当は寂しがっているはずだし、アズの両親だって哀しんでいるはずだ。

 彼女を戻してやるのが、今は大事なことなのだ。

 オレはそう、自分に言い聞かせるのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※参考

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●川場田園プラザ

http://www.denenplaza.co.jp/


●「道の駅 川場田園プラザ」に行ってきた!

http://blog.guym.jp/2015/10/1_21.html

http://blog.guym.jp/2015/10/2_21.html

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る