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第078話:さらにそこから温泉に行き……
それこそ、全制覇でも目指すのではないかという勢いで昼も夜も食べ歩いた。
あの小さい体のアズまでも、「どこにはいっているの? 魔法?」と聞きたくなるぐらい食べていた。
そして、夕闇に包まれてきたところで風呂である。
川場田園プラザ自体には、入浴施設はない。
しかし、徒歩一五分ぐらのところに、ホテルSL「弘法の湯」というのがあり、日帰り湯が楽しめる。
ただ、そこもいいのだが、ちょっとオレは足を伸ばすことにした。
実は車で一〇分程度のところに、もう一つ別の道の駅がある。
それが【道の駅白沢】。
しかし、ここは道の駅としての名前より、【望郷の湯】という温泉施設が有名な場所なのだ。
そう。贅沢にも、道の駅のはしごをしてしまおうというわけである。
「おお。良い雰囲気だな……」
夕闇の中に映しだされたのは、三つの棟のしゃれた建物。
ライトアップされたように浮かんだその姿は、和風の佇まいで落ちついた感じを与えてくれる。
入ってみると、中はかなり広かった。
広いロビーに、中庭やレストランもあるらしい。
明るい時間に来れば、レストランや露天風呂からの展望がすばらしいらしいが、あいにく今は真っ暗け。
せっかくの展望が楽しめないのが残念だ。
とりあえず、オレはアズをミヤに預けて風呂を楽しむ事にした。
川場田園プラザは、昼間は激烈混んでいるのだが、夜になるとほぼ人はいなくなる。
それに対して、ここは夜遅くなのに激混みだ。
要するにオレたちと同じように風呂目当ての人たちが集まってくるのだろう。
夜だというのに、臨時駐車場の方まで車が並んでいる始末だ。
浴槽もやはり混んでいた。
シャワーも順番待ち状態。
かなり人気があるようだ。
オレは露天風呂でゆっくりと温まりながら、星空を眺めていた。
(異世界の方が星空はきれいかもしれないなぁ……)
アズと見た、森象の産みだした景色を思いだす。
オレは未だ、あの美しさを超える景色を見たことがない。
また、あの景色に出会えるだろうか。
できるなら、ミヤにも見せてやりたい。
ミヤには今回、本当に世話になった。
感謝してもしきれないほどだ。
そんなミヤに、一緒に異世界に行きたいと言われて断れるわけがなかった。
いや。たぶん、オレはミヤが言いださなくても、
危険もあるし、不安もある。
でも、ミヤにも彼女が憧れてやまない、異世界というものを見せてやりたくなっていたのだ。
ミヤはオレの許嫁だと言いだした。
それはまあ、置いといても、俺はミヤに親しみを持っている。
なによりも、この世界で一番の秘密を共有できる相手だ。
たぶん今、オレの中では最も気の許せる友達なのだ。
だからこそ、彼女にも見せてやりたい。
(まあ、きっと今回も大丈夫だろう……)
そう思いながら、オレは湯船を後にした。
◆
全員でロビーで待ち合わせし、涼みながらお土産を見たあと、オレたちはまた川場田園プラザに戻った。
白沢でP泊という手も合ったのだが、混んでいたのでなるべく駐車場は後から来る人のために空けてあげたかった。
やはり混んでいる所に留まるのは気が引ける。
それから、もう一つがトイレの場所だ。
ちょっと駐車場から離れているし、暗い場所にあるので利用しにくいのだ。
それに対して川場田園プラザなら、トイレにアクセスはしやすい。
さらに言うと、ほぼガラガラなので駐車も好きなところにできて助かる。
ミヤはアズと一緒に歯を磨きに行った。
アズもすっかり歯ブラシで歯を磨くと言うことを学習したようで、お土産に持って帰ると何セットか購入していた。
歯を磨いたあとのすっきり感が気に入ったらしい。
オレは、その間に眠る準備をする。
ぶっちゃけ、今回は本当に辛い。
アウトランナーで「3人寝る」というのは本当に至難の業なのだ。
とりあえず、助手席にできる限りの荷物を置いた。
しかし、それでもおけなかったので、運転席にも置いてしまう。
本当は何かあった時、すぐに動けるよう運転席には起きたくないのだが、背に腹は変えられない。
いつも通り窓をシェードで目隠しし、インフレーターマットを広げてラゲッジルームをベッド化する。
タイヤハウスが、非常に邪魔だ。
これがなければ、何とかならい事もないのだが、やはり車中泊用ベッドとかも考えるべきなのかもしれない。
最悪、オレは座って寝ることも考えておこう。
何しろ、この狭さだから、寝るにしても抱き合って寝るようなことになりかねない。
(うん。無理。オレの理性がリミットブレイクする……)
充電設備ですでに満充電にしているし、ガソリンも満タンにしておいた。
これでエネルギー問題は大丈夫なはずだ。
それを確認してから、電気毛布を一枚広げてスイッチを入れておく。
さらに寝袋も用意。
寝袋は封筒型なので、それを広げて掛け布団代わりにする。
ただ、二つしかないので、オレはもう一枚の電気毛布をかぶって寝るつもりだ。
ここは、標高が高くて、夜になるとかなり気温が下がる。
防寒だけは気をつけないといけない。
しばらくすると、二人が戻ってきた。
代わりにオレが歯磨きに行く。
もちろん、本来なら女性二人きりなど危ないわけだが、周囲にほとんど車も人もいないし、トイレから車はすぐに見える位置にある。
ここなら心配はないだろう。
オレは歯磨きとトイレを済ませて車に戻った。
「お帰りなさ~い」
「お帰りなさいませ、アウト様」
二人はすっかり寝間着姿で寝袋の掛け布団を足下に掛けながら迎えてくれた。
(やばい……嫁2人が床で待っている……)
そんなことが脳裏をよぎって、少し内心で興奮してしまう。
「……あれ? アウトさん?」
それを見通したような、ミヤのニヤニヤとした顔。
「はは~ん。さては、今夜はどちらからいたそうかとか、悩んでいましたね!」
「そっ、そんなこと思ってねーよ! つーか、『今夜は』ってなんだよ! 今までもねーだろうが!」
「で~も~、なんかエッチーな顔をしていましたよ~。ミヤに興奮するのはしかたないですがぁ、アズちゃんにまで興奮しちゃダメですよぉ」
「うぐっ……」
オレがぐぅの音も出ないでいると、アズがなぜかムキになって前のめりになる。
「ずるいです! わたしにも興奮してください!」
「ちょっ! それ、普通にまずいから!」
近くにお巡りさんがいたら、まじ捕まるシーンでした。
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※参考
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●道の駅白沢
http://www.ktr.mlit.go.jp/honkyoku/road/Michi-no-Eki/station/gunma_sirasawa/
●望郷の湯
http://www.boukyou.com/
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