六泊目
sentence 1
第071話:美少女二人と同棲してしまったのは……
今日は残業だった。
このオレが自分の仕事遅れではなく、他人の手伝いで残業をするようなことが起きるとは夢にも思わなかった。
見直したぞ、オレ。
すごいぞ、オレ。
でも、疲れたぞ、オレ。
週の初めから、こんな調子で大丈夫か。
いや、大丈夫だ。
今のオレには、癒やしがある。
そんなことを考えながら、オレはマンションのドアを開けた。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
オレが玄関口に入るのと同時ぐらいに、奥からサファイアのような輝きのある長髪の少女が、スリッパをパタパタとさせて走ってくる。
その微笑みには、穏やかが満ちている。
もうそれだけで、オレの疲れが癒されてしまう。
「お仕事、お疲れ様でした」
彼女はフリルの多いワンピースエプロン姿で、ペコッと頭をさげる。
どこまでも澄んだ、そして透きとおりながらも脳裏にはりつくような甘さがある愛らしい声。
そんなすばらしい声で、彼女は魅惑の言葉を口にする。
「食事にします? お風呂? それとも、わ・た・し?」
「そりゃ、もちろん、すぐにアズを――じゃねーよ! 何教えてんだ、ミヤちゃーん!」
オレは廊下の向こう側で、こっそり頭を出して覗いている【
どうしてもかわいいアズの姿で、口元の締まりがなくなってしまう。
青い髪の美少女がフリフリエプロンでお出迎えなんていうシチュエーションで、にやけない方が難しい。
「えー。男の人は好きですよね、こういうの」
そう言いながら出てきたミヤは、対照的に動きやすいジャージ姿だ。
完全にくつろぎ着である。
これは絶対に、アズを着せ替え人形にして楽しんでいる。
一方で、オレの顰めた面を見たアズが、困惑した顔でオタオタしはじめる。
「ミ、ミヤ様。なんかアウト様が困ってらっしゃいますが……」
「――!?」
ミヤの方を見たアズの背中に、オレは目を奪われる。
真っ白な艶々していそうな背中も太股も、背後からは丸見えだった。
隠れているのは、下着の部分だけ。
「ちょっ! ミヤちゃん、アズになんってカッコさせてんの!」
「裸エプロンですよ、裸エプロン。新妻ならこれですよね! しかも、こんな美少女幼妻に着せるチャンスなんてもうありませんよ!」
「だめ! つーか、年齢的にアウト!」
「大丈夫です、下着はつけさせてますよ!」
「大丈夫じゃねーよ!」
気持ちはわかるが、オレには良識がある。
そして、アズを守りぬく使命があるのだ。
「だってぇ、やりたかったんだもーん」
「つーか、そんなにやりたいなら、自分でやれば良いじゃんかよ!」
「えー。だって、どう見てもアズちゃんのがかわいいじゃないですかぁ。さすがのミヤも、これは認めますよ」
「なに言ってんの。つーか、ミヤちゃんも十分かわいいでしょうが!」
「……え?」
「とにかく、アズにこんなかっこさせちゃだめ!」
そこまで言って玄関に上がる。
遠慮しない。
しばらくは、ここがオレの家なのだ。
「ほら。ミヤちゃんもアズも……」
と、なんか雰囲気が微妙になっていることに気がついた。
ミヤが妙にモジモジしはじめて、一方でアズの顔がシュンと落ちこんでいる。
「アズは……こんなかっこ……かわいくないですか……」
裸エプロンの幼妻が、服の裾を握ってくるのがかわいくないわけがない。
「かわいすぎるからダメなの! そんなかわいかったら……困るだろうが!」
「…………」
ぱっと明るい顔に豹変するアズは、わかりやすくてかわいい。
「ミヤ様! わたし、ずっとこのカッコでいます!」
「うんうん。積極的でイイネ、アズちゃん!」
「ダメだって言ってるでしょ!」
そんな会話をしながら、かわいいピンクの壁飾りがかけられた廊下を抜けてダイニングに向かう。
部屋は、3LDK。
ダイニングは8畳、リビングも10畳ある。
そして、その他に6畳間が3部屋だ。
もちろん、バストイレ別でついている。
3人で暮らすにしても充分な広さである。
ダイニングテーブルの上を見ると、ビニールの買い物袋がいくつか並んでいる。
「頼んだのは全部、買っておいてくれた?」
「はーい。今日はアズちゃんと買い物に行っちゃいました」
アズがミヤの言葉にコクリコクリとうなずく。
声を出していいことを忘れていたのか、彼女はつい手ぶりで楽しかったことを伝えようとしてから、しばらくして慌てて口を開く。
「あ……。た、楽しかったです!」
魔力がこもっていなくとも、かわいく魅力的な声だ。
「すごいですね、神の世界は! 本当に何でも簡単に手に入ります! お店の大きさにもビックリです。ちょっとした領主様の家より大きいかも知れません!」
「そうか。よかったね」
嬉しそうに話すアズを見ていると、オレまでも嬉しくなってしまう。
きっと今までも、こうやって思いっきり話したかったはずだ。
ある意味、彼女にとっては、こちらの世界は楽園かも知れない。
「つーか、二人とも飯が作れないくせに『食事にします? 風呂?』とか聞いてくるなよなぁ」
「どーせ、アウトさんはアズちゃんか風呂を選びますよね? そこで食事なんて選んだら、とんだヘタレですよ」
「……飯、作るわ」
オレはテーブルにあったビニール袋を手にとってキッチンに向かう。
それが、この生活を始めるにあたって、決められた役割なのだ。
(つーか、まさかこんな事になるとは思わなかったけどな……)
そう。
本当にこんな事になるとは、夢にも思わなかった。
まさか、アズとミヤの3人で同棲を始めることになるなんて……。
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