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第065話:ロリコンじゃないけど……

「最後に溶き卵を……」


 飯盒でご飯を炊く時と同じなのだが、おかゆにも蒸らしが必要だ。

 最後の蒸らしの時に、溶き卵を流しこんだ。

 ちなみに生卵は、新鮮なのを買ってくれば、冷蔵保存しなくてもしばらくは保てると聞いた。

 そこで店で、ワンパック持ってきていたのだ。

 むしろ問題は、耐衝撃防御。

 要するに、割れないようにすることだ。

 しかし、これも意外に簡単に解決した。

 エッグホルダー等のそういうグッズが、世の中には売っているのだ。


「よし。あとは火を止めて一〇分ぐらい蒸らすか……」


 オレはその間にアズの様子を見に行った。

 荷室ラゲッジルームに手をつくと、車が揺れた振動で気がついたのか、アズが薄目をあける。

 首元を見ると、かなり汗をかいていた。


「汗、拭かないとまずいな。待ってろ」


 オレは電気ケトルでお湯を沸かし、熱々のお湯をタオルにかけていく。

 これが、なかなか危険だ。


(手桶とか欲しいけど……場所食うしなぁ……)


 お湯がはねると熱いし、それをかるく絞るのもけっこうやばい。

 でも、これを手早くやらないとすぐに冷めてしまう。


「起きられるか?」


「…………」


 まだ少し頼りない感じなので、手を貸して体を起こしてやる。

 それからオレは、精神統一して心を落ちつかせる。

 そして邪心を捨てて、オレはパパモードの時の心を思いだすように、その言葉を放つ。


「アズ。恥ずかしいかも知れないけど、汗を拭いてあげるから服を脱ぎなさい」


 この時は、無心だ。

 万が一にも「うは! こんな美しい幼女に服を脱げって命令してるよ!」なんて考えない。

 オレは、パパなのだ。


「…………」


 アズはさすがに目尻を下げて恥ずかしがるものの、思ったよりも素直に服に手をかけた。

 そして、ティーシャツもちゃんと脱ぐ。

 真っ白な肌が艶めかしく汗ばんでいるが、そこで興奮してはいけない。

 むしろ、「熱があってかわいそうだ」という思考に持っていく。

 視線を下に向けたりもしない。

 オレは手早く無心に背中や腕をタオルで汗を拭き取ってやると、細かいところは自分で拭くようにタオルを渡す。

 代わりのティーシャツとパジャマを着せれば、任務完了だ。


(……なんか思ったより平気だったな……)


 もちろん、今もかわいくて仕方がないのは確かだ。

 だが、元気な時の独特な雰囲気はなくなってしまっている。

 こうなると、普通の子供とかわらない。

 姪っ子の面倒を見ているようなものなのだ。


(ああ。やっぱりオレ、別にロリコンじゃなかった……)


 アズと別れた後、実はあまりに気になっていろいろと調べてしまった。

 ロリコンという言葉はもちろん俗称で、精神医学的には【ペドフィリア】という。

 一般に一三才以下の児童に性愛を感じる疾患である。

 が、オレは別にそういう趣味があるわけではないとハッキリした。

 実際、近所の小学生を見ても何も感じないし、やはりオレは十文字女史のような大人の女性が好みである。

 ミューのようなメリハリボディの方が好きである。

 だからオレは、あくまでアズの雰囲気が好きなのだ。


(まあ、大人になった時のアズはモロにタイプだったけどな……)


 それは、また別の問題だ。


「アズ、少し食べないか?」


 オレはおかゆがいい感じになったのを確認すると、かるく塩を振ってからアズに渡した。

 量はそれほど入らないようだったが、アズは喜んで食べてくれた。



   ◆



 アズはまた寝たが、オレはおかゆを食べながら、これからのことを考えていた。

 まずは、現状確認。

 ガソリンは、まだたっぷりある。

 電気もあまり使わないようにしているから充分だ。

 炭はけちって使っているが、そろそろやばい。

 アルミシートで覆っているせいか、洞窟の中は外よりはかなりマシだ。

 ただ、ガス中毒にならないように完全密封ではなく、上の方は開けてある。

 この寒さだから、火が消えればすぐに気温が下がってしまう。


(車の中を温めて、あとは寝袋と電気毛布ぐらいで過ごすか……)


 こういう時に、アウトランナーの高い保温性は助かる。


(明日、雪が止んでいれば……)


 現状、外は吹雪いている。

 明日、1日ぐらい晴れたところで、雪はなくならないだろうが、せめてこの雪が一時的なものであることを願いたい。

 オレが来た時は、雪が10センチも積もっていなかった。

 もし、ちょうど積雪の季節に入ったばかりだとしたら非常にやっかいなことになる。

 こんな雪の中、時速100キロで走るどころか、まともに前に進むことさえできない。

 雪が一時的なら、まだ希望はあるのだが……。


(もし、帰れなかったら……)


 ふと頭に悪い考えがよぎった。

 帰れなかったら、どうなるのだろうか。

 雪の季節が終わるまで、ここにいなくてはならなくなったら……。

 それどころか、この雪原からアウトランナーを動かせなくなったら……。

 オレは今まで、異世界を簡単に考えすぎていたのではないだろうか。

 神寺さんに危険だと言いながら、その危険を自分は正しく理解していなかったのではないだろうか。

 たまたま運の良さに助けられて今まで無事だっただけだったのに……。


(こういうのを負のスパイラルというのか?)


 悪いことを考えだすと、どんどんそっちに進んでいくのは誰しも同じなのだろうか。

 戻れないと言うことに、自分が思っていたよりも不安を感じ始める。


「う~ん……」


 ふと、アズの声が聞こえた。

 それはたぶん、魔力もこもっていないような呼吸に近い声だ。

 だが、不思議だった。

 それを聞いた途端、オレはまるで目の前の水たまりをヒョイと飛び越えるような気楽さで、負のスパイラルから跳びだしていた。

 今の今まで不安だったことが、なんか大した問題ではないと感じたのだ。


(そうだ。まずはアズを助けることを考えよう。つーか、オレのことはそれからでいいじゃん……)


 なんかスッキリした。

 そうとなれば、起きているだけエネルギーがもったいない。

 オレはもう、さっさと寝ることにした。

 彼女を助けるために。

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