第062話:また少女を拾い……
――金曜の夜。
お楽しみの週末だ。
今回、オレが来たのは、【道の駅まくらがの里こが】だ。
茨城県の国道四号・春日部古河バイパス沿いにある道の駅の一つで、都内からそれほど遠くない。
都内からなら余裕で日帰りできる距離ということも考えると、わざわざここで車中泊する理由は基本的にない。
規模はそれなりに大きいが、この辺りならば普通と言えるかも知れない。
普通車用駐車場は、手前と奥の2つのエリアで別れており、大型車のエリアは別にある。
景観が特に良いというわけでもなく、近くの観光と言っても離れた所に大きな公園があるぐらいだ。
さほど変わったところもない、ごく普通の道の駅である。
しかし、オレは情報を調べて知っていた。
どうやら、ここの飯は美味いらしいのだ。
というわけで、今回の目的は飯である。
メニューを調べたところ、食べてみたい食事は二種類あった。
そこで夕飯と、翌日の朝ご飯を食べることにする。
もちろん、夕飯のあとは異世界旅行の予定だ。
今回もいろいろと準備はしてきたのだが、どういう所に行くかはわからない。
そもそも、行けるのかどうかもわからない。
だが、それもまたワクワク感に繋がるのだ。
夕飯は道の駅内の地産地消フードコート「みやことほまれ」という店で食べる。
目的のメニューの名は、「奥久慈ポークのぶた丼」。
もう名前だけで美味そうである。
見た目は、非常にシンプルだ。
黒いどんぶりの上に、艶のある醤油タレで味付けされた豚のバラ肉。
それがたっぷり重なって積んである。
たちの悪い豚バラの豚丼などだと、薄い肉がちょっとと、あとタマネギでごまかしたような物もあるが、ここはそんなことがない。
その量、なんと二〇〇グラム。
バラ肉の豚丼としては、かなり多いだろう。
下にいるご飯の姿がうかがえないぐらいだ。
その上にたっぷりのネギ。
添えてあるのは、洋ワサビ。
シンプルイズベストな組合せである。
「いただきます。…………うほっ! つーか、甘い!」
肉は柔らかく、バラ肉ながら脂っこい感じはあまりしない。
むしろ、脂が甘い。
味付けは甘塩っぱくなっているのだが、肉の脂の甘味をしっかりと感じることができる。
そして、これを引き立ててくれるのが洋ワサビだ。
これが非常にあう。
運命の出会いだったのではないかと思うほど、この豚バラ肉にあうのだ。
この組合せはすばらしい。
洋ワサビの風味と辛みが、豚肉を口に運ぶのを止めさせない。
(美味い……これはいい! し、しかし……)
そう。しかしなのだ。
このぶだ丼には致命的な弱点があった。
(ご飯が……ご飯が足らん!)
肉がたっぷりすぎて、ご飯が足らないのだ。
まあ、ビールを買っておいて、余った肉をつまみにするという手もあるが、この味が求めるのはライス!
思わず車に戻ってご飯を炊いてやろうかと思ったぐらいだ。
調べたら大盛りもあったようなので、最初から大盛りにしておくべきだったと後悔した。
しかし、これなら明日のカレーも期待できそうだ。
その名は、「古河養鶏所のオムカレー」。
ふわとろオムレツがのっかった、黒カレーである。
これは是非とも喰わねばなるまい。
他にもつくば鶏のカツとか唐揚げなどもあるようだが……やはりまずはカレーだろう。
(うむ。楽しみだなぁ……)
もしこれで異世界に行けなくても、明日の朝の楽しみがある。
これだけで、ここで車中泊しても後悔はしないだろう。
◆
……と思っていたが、しっかりと
しかも、かなりヤバイです。
今までで一番ヤバイです。
かなりピンチです。
「つーか……一面、白銀の世界だし!」
寒くて起きたら、周囲はけっこう積もった雪景色。
ダウンジャケットとかの防寒設備は持ってきているものの、車の方はスタッドレスなんて履いてないし、チェーンも持ってきていない。
これは非常にまずい。
今まで雪などという天候に当たらなかったから油断をしていたが、考慮していなかったのは見積りが甘かった。
とにかく、このままだとやばい。
周囲は平原で何もない。
こんなところで埋もれたらまず助からない。
ドアを開けて地面を確認するも、まだぎりぎり車は走れそうである。
雪を避けることができる、どこかに移動しなければならない。
目をこらして周りをもう一度よく見てみると、ある方向に何か黒い影が見えた。
どうやら岩山らしい。
4WDのモードを悪路用に切り替え、オレはとりあえずそちらに向かってゆっくりと、ゆっくりと走りだす。
パワーモードもとりあえずエコモードだ。
これで、急加速しにくくなる。
とにかく、なんとか雪を避けられるスペースを確保しなければならない。
電気を発電するには、エンジンを動かさなければならない。
しかし、それにはマフラーが雪に埋まらないようにしないといけないのだ。
マフラーが埋まれば、排気ガスが逆流して室内に充満する。
そうなればもちろん、お陀仏である。
タイヤを怖々と滑らせながら、オレは雪を避けられる場所を求める。
しばらく走ると、岩肌をさらした壁がはっきりと見えてきた。
そこに行けばなんとかなるとは限らないが、それでもそれしか今は思いつかない。
一縷の望みをかけて、そちらに向かっていた。
(……ん?)
その時、前の方の雪の上に黒い影が見えた。
少し雪に埋まりながらも、地面からしっかりと黒く盛りあがっている。
それを凝視した瞬間、ものすごく嫌な予感がピーンとした。
ほぼ直感だった。
オレは車を少し手前で止めると、ドアを開けて外に飛びだした。
雪に濡れるのもお構いなしで、冷たさも忘れて、その黒い影の元に駆けよる。
(まさか……まさか……)
何度か転びながらも、なんとか駆けよる。
思った通り、それは黒い外套だった。
そして、そこから横にはみ出ている青い髪と横顔。
「――アズ!」
オレはまた、この美少女を拾うことになったのだ。
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※参考
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●道の駅まくらがの里こが
http://www.dynac-japan.com/michinoeki-koga/
●「道の駅まくらがの里こが」に行ってきた!
http://blog.guym.jp/2015/12/blog-post.html
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